さて、私たちの「創造力」とか「才能」とは、いったい何でしょうか?
その仕組みやメカニズム、原理はどのようなものでしょうか?
普段、私たちは、そのことを深く考えないで、「自分には才能なんてない」「自分には創造力なんてない」と言ったりします。
しかし、創造性や才能がない人などは、実は存在しないのです。
それは、「創造性の原理」をよく理解するとそれはわかります。
では、なぜ、創造性や才能が現れないのか?
結論をさきに言うと、創造性や才能を出さないようにしている「抑圧」や「感情に動機づけられた」リミッター(制限的な考え・価値観・信念)が存在しているからです。
しかし、このリミッターとは、世間の凡庸な「自己啓発系」で安易に語られているようなリミッターとは、その本質的な意味合いが全然違うものです(「自己啓発系」に真の創造性はありません)。
→「自己啓発系」とその問題点/落とし穴
世間では、表面的に、もっともらしい合理的な理由が列挙されますが、本当の核心は、自分を攻撃/が抑圧している「感情(欲求)」なのです。合理的な理由は、無意識的に、後付けされたものにすぎません。
この背後にある「心の構造」については、下記の記事をご覧ください。
→「自信がない」と「能力」は関係ない
→映画『マトリックス』のメタファー(暗喩) パワハラの由来 「投影」としての世界
→他責思考の正体―抑圧とそのシャドー(影)
→心の葛藤(苦しみ)と超越的体験―どこからアプローチするか? いじめ社会と精神活性
「感情(欲求)」こそが動因なのです。多くの表面的なビリーフ・チェンジが効かないのも、これが理由です。
さて、では、そもそも、創造性の原理とは何でしょうか?
創造性の原理の根っこは、結論的にいうと、単なる「組み合わせの原理」です。
さまざまな情報を、「拡散(放散)と収束」によって「多様に斬新に、統合的に組み合わせる力」というだけのことです。
独創性とは、組み合わせの中で、想定外の、予想を超えた、意外な斬新さ、新しい価値と意味、不可能な論理をつくり出して、アウトプットの中で具現化(外在化)することことです。
そのため、創造性の原理には、二つの側面―
①「意想外の、斬新な素材そのものを膨大に生みだす(産出する)こと→拡散(放散)作用」
②「その素材の間に、新しいつながりを発見し、組み合わせる→収束作用、組織化」
の両極性(対極性)が必要となるのです。
「拡散的思考」と「収束的思考」の量的な多さと、精妙な結合作用が、優れた創造性の原理です。
ただ、この際に、「単なる既存情報の、膨大な量的拡大と整合性で作られたアウトプット」ということならば、それはAI(人工知能)でもできることです。
「秀才型」の演算能力ということです。
しかし、最初のインプットの素材情報を、既存情報の延長上にはない、未知の、別次元の新規情報(素材)からはじめたとしたら(それも大量に)、その時点からすでに、真の創造性がはじまっているのです。
「天才型」の、真の創造性といえるのです。
いずれにせよ、人間の心(意識/無意識、顕在意識/潜在意識)の中での作業でいえば、「心を開いたり閉じたり、過去の囚われから解放したり、新しい形で組織化させたりすること」が、創造性の基盤原理なのです。
ということは、つまりは、
体験的心理療法/セラピーの作用原理(既存心理要素の解体と〈再統合/新しい自律性/詩的飛躍〉)と、創造性の原理(拡散と収束/美的統合)は、原理的には同じものなのです。
そのため、真の創造性開発のために、体験的心理療法がいかに役に立つということが分かると思います。
とりわけ、変性意識状態(ASC)への潜入(サイコ・ダイビング)や、自我状態のダイナミックな溶解と統合の作用を持つ、シャーマン的な、深化/進化型のゲシュタルト療法が、創造性開発に最適であるというのが、(経験から導かれた)当スペースの考えなのです。
いまや、AI(人工知能)が、人間世界のすべて(ビジネスからアートまで)を覆い尽くそうとしている現在、AI(人工知能)にない、普通の、既存の『言語ゲーム』(ウィトゲンシュタイン)的な演算(認知/計算)にない、「真の人間意識の創造性とは何か」が問われているわけです。そのためには、今現在の世間では理解されていない、「意識の本性とは何か」についての高次の解答が必要となってくるのです。
そのことに対して、当スペースでは、(上記もその一つですが)メインストリームの人間社会では得られない、別の解答、それも入手可能なそれを持っているのです。
しかし、身近な人間の創造性の中での「問題の現われ方」を見れば、通常の人間の創造性が、AI(人工知能)に勝てない理由もよくわかります。
たとえば、会社で、ビジネスのアイディア出しの場面で、「ブレイン・ストーミング(ブレスト)」などを行なった方も大勢いられると思います。これは拡散的思考によって、素材を膨大に出すための方法論です。
しかし、いざ実際やってみると、ブレイン・ストーミングなども、あまり上手くいかなかったのではないでしょうか?
というのも(その理由は)、そもそも私たちの心が、感情的抵抗、既存の知覚イメージ、旧弊な価値観や信念体系、心のブロックにより硬化してしまっており、自由な発想(連想)などは流れなくなってしまっているからです。
まわりの空気を読み、他者に迎合する抑圧的な感情(欲求)システムが、内部にゴミのように満帆に満ちてしまっているからです。
つまりは、私たちの内に、既存のレールの上を自動的に走るプログラムと、それを守ろうとする感情的動因(動機づけ)、それを壊すものを排除しようとする感情的動因(動機づけ)、つまり「リミッター」を持ってしまっているからです。新しい発想を否定する(過去の)感情体験や否定的プログラム(心的パターン)が染み込んでしまっているからです。
これでは、なんの感情的動因(動機づけ)も持たずに、ニュートラルに(ある意味「KY的」に)、膨大なデータを高速情報処理するAI(人工知能)に勝てるわけがありません。
実際のところ、創造力のためには一番必要なのは、私たちの中に巣食っている感情リミッター、既存体験の固定化した感情記憶、トラウマ、硬化した感性を噴き飛ばし、それを溶解していくことなのです。
心と意識を、毀損の人間社会の拘束を超えて、流動化させていくことなのです。
もっと言えば、(カスタネダ的に言えば)「人間の形をなくす」ことなのです。
極端な例を挙げれば、サイケデリック物質(治療用幻覚剤)が、時に効果を持つのはそのような面もあるからです。
実際、アップルの故スティーブ・ジョブズは、自身の治療用幻覚剤LSDの体験を人生最大の出来事として自伝で述懐しています(しかし、それだけでは充分に統合的な結果を導かないのです)。
いずれにせよ、「創造性」という一見、知的なメカニズムを根っこで支配しているのは、感情的な拘束であり、そこを解放し、流動化させることが、創造力と才能の覚醒には欠かせないということなのです。
さて、そのような心と思考-感情を解放する、安全な方法として、当スペースが推奨して使っているのが、体験的心理療法、および変性意識状態のアプローチなわけです。
その働きかけの結果として、心の中の、既存感情体験や信念体系の硬化が溶けて、知覚や意識における自由度、①流動化(拡散、解放、破壊)と②組織化(収束、集中)の能力が高まっていくことになるのです。
この能力の高まりとして、必然的に創造的能力の増大が起こってくるのです。
つまりは、①によるイメージ・霊感・情報量の増大、既存の思考の破壊と、②による結合力・構成力です。この二つの両極的・対極的バランスにより、より高いレベルの独創性とアウトプットが生み出されてくることになるわけです。
◆埋もれていた才能や潜在能力(魔法)の発掘 ―私たちの「英雄の旅」
また、このような心の流動化と組織化の取り組みを行なう変容過程(プロセス)の中で、今まではあまり意識されていなかった、自分の中の「人格要素」「才能」「個性(独創性)」について気づいていくことにもなります。
私たちは、通常、自分の中の「或る人格要素」を否定し、抑圧することで、その中にある豊かな才能も一緒に抑圧してしまっているのです。
「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」の神話モデルは、そのことを教えてくれています。私たちの中にある、普段はフタをして抑圧している、恐ろしい嫌な「怪物」「影(シャドー)」の中にこそ、実は豊かな才能(魔力/魔法の力)が潜んでいるのです。
多くの人は、「自分に才能などない」と思い込んでいます。
しかし、実は、その思い込み(否定的動機づけ)こそが、才能をつぶし、おもてに出ないようにしている最大の要因(抑圧)なのです。そして、セッションでは、その思い込み(否定的動機づけ)の正体が何かが判明し、それが消滅していくということが起こってくるのです。
そのことで自然に、創造力や才能が、のびのびと発現してくることになるのです。
【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)やサイケデリック体験、意識変容や超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた解説、拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。