夢見の技法Ⅳ

拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』より

(夏の朝…)

夏の朝
嵐すぎ
われるよう
澄みきる
大気のあつさ
海べり
見わたす
真青のあつみ
反射する
目痛い
まぶしさ
砂浜の
鳶たちの点影
啼き声
高く
風ない浜の
照りかえす
陽の烈しさ
散らばる流木に
歩みの足もと砂のめり
躯のふしぶし
透きとおる
暑さのうねり
光はらんだ
目路のかなたに
跡きざむ砂のつらなり
陽の奥に
昏い喪失の
わずかに鎮まり
遠く波だつ
野生のどよめき
重くひずむものの
繊のあわいを
聴いている

…………
岬をめぐる
晴れた入江
鳥影のむこうに
空の高さ
護岸工事の
かたい重機音
路面の
黒く艶めき
行きあたる路地に
暑気のとどまり
褪せた案内に
古蹟をみとめ
石の路を登っていく
人いない古道の樹々の繁り
細まる山径をながくぬけ
旧蹟の碑
ちいさな展望台に
たどりつく

見渡される
遥かな湾
照りかえす
かがみのよう
しずかな海
さざなみの
皺のよう
ゆらめき
陽の凝集する
反射の

褶曲する湾岸のむこう
巨巌の黒く霞み
浜にたどった足どりを
さがしている

…………
雨にうたれていた
夜じゅう
肌つたう水滴のながれ
せまい窪地にうずくまり
嵐の来
うちつくす雨のはげしさ
生である緊い圧搾に
雨のそこい
漂白されるよう
うたれていた
……………

陽の射す
真黒な翳らい
暑さむせる籠りのゆらめき
生樹の気の匂いつよさ
燐のふるよう視像ちらつき
這いのびる樹々の
清冽ないぶきに
毛孔梳く
浄まりのささり
岬まく高い山道を
登っている
いただき向かう
蔭ふかい径
分岐をかさね
みなれぬ草の実
見つけている
太古のけはいの
肉底くいこむ生のはえぎわ
猛ける緑樹の根をくぐり
草叢の奥
しらずに藪に迷いこむ
昏い山蔭めぐる夏草の繁茂
執拗にからむ悪い蔓の毛ぶかさ
ぬかるむ土の異臭の泥黒さ
見晴らしもとめ
急峻なけもの径を
渇くようあがっていく
苔むす倒木を跨ぎこえ
巨木の交う秘かな暗緑の森陰
ぬけていく
見あげる高い樹冠に
葉蔭ひらき
覗く
濃緑の聳え
鬱蒼の山嶺
射しこむ
陽の烈しさ
ささめきひしめく暑熱の
白昼のしずまりに
凝視きしみ
砕き
伐りだされる
青空の
原石
ないものの奥に
眩みの
一点
澄んでいく

…………
よせる潮の泡
洞窟の口あらい
碧の窪み
浪のあかるさ
底うつる
礁の
緑青

(…白熱のよう……)

…………
灌木のびる巌の小径
四肢で樹枝つかみ
棘だつ草藪を降りていく
岬をめぐる昼の山径
綿ちらす背のある野の草
波うつ羊歯の葉群れ
巨大な杉の樹生の翳らいに
陰鬱な林立ぬけ
見おろされる
麓の建物
廃れた白い工場
谿かかる大きな鉄橋に
かすかにきこえる
役場の拡声放送
朽ちたバス停に
ふた昔前の昭和の広告がある
灯りのないコンビニ酒屋に
埃りをかぶる土産物たち
草藪ぬけた熱い余燼に
うつし身のわずかに凄み
指先に
注視するよう
光が
よせている
……………
………
土地をはなれる列車に見る
午後の入江
燦燦とひたすあかるみに
黒い巌々の
奇岩の姿
見つめる
砂浜の
遥かにつらなり
澄みきる
大気のあつさに
海べり
見わたす
真青のあつみ
反射する
目痛い
まぶしさ
水平線の彩り透ける
碧翠に
鉱石のよう
硬い恍惚
きこえる
詠唱の
かすかな歌声
儀式の終わりに
樹々の下
露営をたたみ
雨の痕
濡れた敷布を
ぬぐっている
道具をしばり
ゴミをひろい
囲んだ火のあとに
土を戻していく
撒かれる祈りの言葉
のぼっていく
水底の泡だち
いくすじもの水沫に
身うちのさざめき
透きとおり
像をなす
けばだち
飛沫
過ぎさった
車内の音声に
遅れて気づく
担ぎあげる荷物の
なれた重さ
乗換駅に山気はただよい
人いない階段を
あがっていく

拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』より

【ブックガイド】
気づきや変容、変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。