ゲシュタルト療法 早わかり

ゲシュタルト療法を知らない人に、「ゲシュタルト療法とは、どんなものなのか」「どのような体験が起こるのか」を説明するさまざまな機会があります。またそれを求められます。

しかし、ゲシュタルト療法はセッションでの「個人的な感覚体験」を核とするため、概念的な言語で内容を表現することがなかなか難しいことになっているのです。
「その食べ物の味」を知らない人に「その味」を教えるようなものなのだからです。
もっというと、「色」を見たことがない人に「色」というものを教えるようなものだからです。
その感覚の「味わい/質/クオリア」自体が、この現代の生活にないものだからです。そのため、それを表現するのがとても難しくなっているのです。

というのも(また別の側面から説明しますと)…、
これは、現代社会が「感じない」ようにすることを命題として、人間を教育し、成り立っているからでもあるのです。
私たちは育つ過程で、学校でも家庭でも、「感じるな」「我慢しろ」とは、メッセージは受け続けますが、「感じろ」「もっと感じろ」とは言われないからです。
だから、私たち現代人は、「感じないこと」がデフォルトになってしまっているのです。
逆に、すべての体験的心理療法に共通していることでもありますが、ゲシュタルト療法では、「感じること」「気づくこと」を中心にセッションを進めます。
そのため、セッションでの「感じる」体験は、普通の人生の中では決して体験しないような体験になってしまっているのです。

そのため、多くのゲシュタルト療法家が「ゲシュタルトは、体験してみたいとわからない」と言って説明するのをあきらめてしまうのです。
(また、元々のゲシュタルト療法の理論に足りない部分があるというのも事実です。そのため、ますますゲシュタルトの実践体験を説明するのが難しくなってしまっているのです)

 
ところで、ゲシュタルト療法は、それを構成する教科書的な概念を積み上げて解説してみても、実際のセッションがもっている鮮烈な感覚体験、喜びや感情の解放体験、覚醒体験、即興性や飛躍的な実態に較べて、干からびた死物のような姿になってしまうという特性があります。
 
「ゲシュタルト(かたち)」という言葉自体が、部分の積み上げに還元できない全体性という意味での「固有のかたち/全体性/いのちのかたち」を意味する言葉でもあるので、まさに、各要素ごとの解説では、体験の持つユニークな全体性が断片化して伝わらないのです。そのトータルな感覚が意味する本質(美点)が伝わらないのです。
 
そのため、ここでは、ゲシュタルト療法の持つ本質的な感覚を、全体像としてさっと一筆描きのように描いてみたいと思います。 そのことでゲシュタルト療法の美点や感覚が伝わればと思います。

※ゲシュタルト療法も最近は、徐々に日本でもひろがって来て、いい加減なものも沢山あります。一方、ここで描かれているのは、きちんと深いものが実現できているゲシュタルト療法ということになります。
ゲシュタルト療法には、ファシリテーターによって、さまざまなタイプがあります。「普通のゲシュタルト療法」や「標準的なゲシュタルト療法」というものはありません。NLP(神経言語プログラミング)などの変なイメージが流布したせいか、セッションとは、なにか出来合いのフォーマットをケースに当てはめるものだと勘違いしている人もいます。しかし、ゲシュタルト療法のセッション(ワーク)は、即興演奏のように、その場に現れてきたクライアントの方のプロセスに合わせて、自由に展開するものなのです。ファシリテーターのタイプや能力によって、セッション(ワーク)は千差万別です。
ゲシュタルト療法に興味がある方は、実際にもさまざまなファシリテーターのセッション(ワーク)を体験してみて、そのレベルの違いをご自身で確かめてみていただければと思います。

 
 
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ところで、ゲシュタルト療法の実践を構成する素材を、筆者なりに取り出してみると以下のような事柄になります。このおのおのは、ゲシュタルト療法という1個の生きた塊(流体)を、或る角度から切り取った見え方、場面という意味合いになります。
実際は、これらがひとつの生きた流れるプロセスとしてあるということです。

 
①心身一元論的・全体論的アプローチ ―生きた全体をとらえる
②気づきawarenessの力の重視 ―いつも気づいている
③未完了な欲求(感情)への注目 ―何が気になっているのか
④自発的な表出プロセスへの信頼 ―生命は必ず良くなる方へ向かっている
⑤変性意識状態(ASC)への移行 ―意識は変化していく(深まったり、ひろがったりする)

⑥他者との交流や、自立的感覚の利用 ―自分である感覚を味わう
⑦存在論的な姿勢(覚醒) ―存在しているっていう感覚

まず、ゲシュタルト療法では、人間をひとつの生体の、一貫した全体性(欲求のロセス)としてとらえていきます。
心身をひとつとして、一貫性をもった欲求の全体性として(心身一元論的に)見るのです。

そして、クライアントの方の中で、その欲求がどのような形で阻害されているか、欲求不満となっているかについて注目していきます。
また、同じような欲求不満が、生活史の中においてさまざまな形で表出されている姿を見ていくのです。
クライアントの方が、それらをどのようなパターンとし、表出や体験とし、生きているのかを見ていくのです。

 
実際のセッションにおいては、その場でのその欲求(欲求不満)を感じてもらって、出てきたゲシュタルト、プロセスにそって展開していきます。
 セッションの一番の基本姿勢(技法)は、クライアントの方自身に、自分の今の欲求(快苦、違和感)に刻々「気づいて」いってもらうことです。今、自分の中に浮上している特徴的な感情や感覚に気づいてもらい、深めてもらうことです。
 
また、アプローチに際しては、ファシリテーターが、クライアントの方自身が気づいていない欲求に焦点化することもあります。そのように関わることで、クライアントの方の中で分離していた欲求への気づきが促され、新しい欲求が生まれ、統合へのダイナミクスが展開されていくからです。
 
また、ゲシュタルト療法ではクライアントの方の欲求行動の速やかな実現を阻害している要因が、過去に形成された欲求不満のパターンにあると見ます。
 人は、人生で障害に直面し、過度に強い欲求不満を抱え込んだ場合に、時としてその欲求不満をそのまま(未完了のまま)凍結させてしまうからです。
欲求行動(場面)の歪みを、生体の中にプログラムしてしまうからです。

やり残した仕事。未完了の体験、未完了のゲシュタルト
 
その結果、その後の人生で、似たような欲求場面に会うたびに、無意識のうちに妨害的なプログラムを発動させてしまうことになるのです。これが、苦痛や葛藤、能力の制限や生きづらさを生む要因となるのです。
 
そしてまた、ゲシュタルト療法の視点として重要なことは、欲求に関わる課題が喫緊のものとして生じている場合には、クライアントの方の心身のシグナルとして、「今ここ」において必ず前景に現れてくると考える点です。
ゲシュタルトとは何か
 
生体における喫緊の欲求課題は、図(ゲシュタルト)として、知覚の前景に現れてくるという考え方です。 
そして、これはクライアントの方の内的感覚においてもそうですし、外面的な身体表現においてもそうなのです。

 
そのため、(極端なことをいえば)クライアントの方の過去の話をこまごまと聴いたり、どこか遠くに問題の原因を探しに行く必要もないのです。
 今ここにおいて、クライアントの方が感じていることや、全身で行なっていることからはじめて、注意深く追跡(トラッキング)していけば、未完了の欲求不満(未完了のゲシュタルト)に必ず行き着くと考えるのです。
 
そして、アプローチに際しても重要なのは、クライアントの方が、自分の中に何かの原因 whatを捜し求めることではなく、クライアントの方が、自分が今ここでどのように how に感じ・行なっているかに気づいてもらうことなのです。

そこに気づきと解放の糸口があるのです。
重要なのは、クライアントの方本人が、今ここで自分が「いかに how 感じ、欲っしているか」に気づいてもらうことなのです。
クライアントの方自身が、それを感じ気づくと、それを自分で変えていくことができるからです。
ゲシュタルト療法が「今ここの心理療法」と言われる所以です。

ところで、ゲシュタルト療法においては、そのような妨害的なプログラムを解消し統合する手法として、具体的・物理的な感情表現・身体表現を活用していきます。
そして、それらプログラムの書き換えをより効果的に達成するために、有名なエンプティ・チェアの技法などの実演化を利用した手法を使っていくのです。
そのような実演化を通して、クライアントの方は、今まで意識できていなかった自己の欲求(自我たち)にはじめて遭遇することとなります。体験し、気づきを得え、解放することとなります。
 
実演化という表出行為、外在化の結果として、クライアントの方はより速やかにエネルギーを解放・流動化させ、気づきと統合を得ることができるのです。分裂や葛藤の統合をはかっていくことができるのです。
 
そしてまた、(グループの場合は)それらを、他者との直接的な交流や表現、相互作用などを通して、より効果的に作用させていくことになります。 
このことにより、クライアントの方の自律性と、主体化の感覚が深められ、ひいては能力感や自立感、存在論的感覚の深化という実存的な側面での統合もはかられていくのです。
 
以上が、ゲシュタルト療法の全体のあらましとなります。

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。

↓ゲシュタルト療法については、拙著『ゲシュタルト療法ガイドブック:自由と創造のための変容技法』をご参照ください。

↓動画「ゲシュタルト療法と、生きる力の増大」