真の〈変容の姿〉Part2―アヤワスカ・サイケデリックス・旅の後

 前回の記事「真の〈変容の姿〉」では、世間で、「人生が変わる」「自分が変容する」と言われる、南米シャーマニズムで使われているプラントメディスン、アヤワスカに関して、その「変容の実態」「変容の心理構造」について解説しました。
 また、実際に感じられる、変容後の人々の姿を描写しました。

 そして、旅の後に、多くの人びとが、

 「これからの人生、何があっても大丈夫な気がします」

 と語る、その心理変容の構造について解説しました。
「真の〈変容の姿〉―アヤワスカ・サイケデリックス・旅の後」

 この記事でも、なぜ、そのような「変容の姿(凄み)」が実現されるのか、構造的な事柄を別角度から書いてみたいと思います。
 ところで、「変容」という場合、そこには、人格や心理構造の、全体的かつ恒久的な変化が想定されているわけです。


◆人格・心理構造の変化

 そのような、人格・心理構造の全体的な変化については、意外と研究されているようで、あまり大した研究はありません。
 心の研究において、それらは、「症状の軽減」のような単純なものではなく、そもそも、「計測/検証」が難しい性質のものであるからです。
 「生きた人格」の変化や飛躍に関わるものなので、「静的」な把握や分析では、本質的なものがとらえられないからです。
 また、とらえるにも、それなりのセンスが必要とされるからです。
 しかし、そんな中でも、いくつかの興味深い調査はあります。

「私は、以前より、開かれ自発的になりました。自分自身をいっそう自由に表明します。私は、より同情的、共感的で、忍耐強くなったようです。自信が強くなりました。私独自の方向で、宗教的になったと言えます。私は、家族・友人・同僚と、より誠実な関係になり、好き嫌いや真実の気持ちを、よりあからさまに表明します。自分の無知を認めやすくなりました。私は以前よりずっと快活です。また、他人を援助したいと強く思います」

カール・ロジャーズ『エンカウンター・グループ』畠瀬稔他訳(創元社)

 これは、グループ・セラピーである、エンカウンター・グループによって、変容を体験していった人の言葉ですが、その「変容の質感」がよく伝わってくるものです。
 当然、一回のエンカウンター・グループ体験でそれらが実現されるわけではないですが、継続的に体験を深めていくことで、このような「人格」全体の変容が起きてくるわけです。

 ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントHuman Potential Movementのメッカ、エサレン研究所をつくったマイケル・マーフィMichael Murphyは、「エンカウンター・グループは、LSDのように私たちを恍惚とさせるものだ」と語りました。
 その効果の質に、サイケデリックスと同じような「意識と感情の拡張」を実感したのでしょう。
 逆に言えば、サイケデリックスの効果と同じようなものが、エンカウンター・グループのような「体験的心理療法」にはあるということです。
 そのため、体験的心理療法(エンカウンター・グループ、ゲシュタルト療法、ライヒアン・セラピー等)をさまざまな展開するエサレン研究所を、積極的に運営していったということなのです。


◆「自我(エゴ)」から「自己(セルフ)」へ

 前回の記事「真の〈変容の姿〉」では、アヤワスカ体験で起こる「心理構造の変化」について、「自我」(支店)に囚われている状態から、「自己」(本部)につながるような体験だと記しました。
 そして、これは、心理療法の体験においても、それが「真正な」心理療法であれば、起こってくることでもあるのです。
 心理療法の大家C・G・ユングは、そのような「自己(基盤)」の発見と、その変化を、天動説から地動説に変わるようなものとして描写します。

「しかし、それはもはや、それまでの自分の個人的な自我を、自分自身と誤解していた意味においてではなく、自分の自我が自分の中で作用しているものの客体に思えるような、それまで思いもよらなかった新しい意味においてである。(中略)その結果ついにそれが永遠に未知な見知らぬものであり、われわれのこころ(ゼーレ)の最も深い基盤であることを発見する。
 これによって、立場や価値がどれほど変化するか、人格の重心がどれほど移るか、言い尽くせないほどである。それはあたかも、太陽が惑星軌道の中心であり、自分自身の軌道の中心であることを発見したかのようである」

C・G・ユング『心理療法論』林道義訳(みすず書房)

 変容とは、私たちの中心が、「自我」ではなく、「別の基盤」を中心にして軌道を描いて、生きていくようなことだと指摘しているのです。
 アヤワスカ体験においても、私たちは、そのような深い変容を経過して、表層の自我や自意識ではなく、自己の深い「存在の中心(センター)」に根ざした、「新しい生」を生きられるようになるのです。

 その結果、多くの人びとが、見た目にも、
  「より存在している感じ」
  「よりリアルな感じ」
  「よりくっきりはっきりした感じ」
  「より地に足のついた感じ」
 を持つようになるのです。

 そして、前回の記事では、アヤワスカ体験の中において、自我(支店)から自己(本部/基盤)へと重心が移ることを起こす重要な要素が、「自我の世界、人間的な虚構の繭/殻が溶かされていくような体験」であることを書きました。
 「自我が溶解していくこと」で、素晴らしいことも怖ろしいことも、さまざまな事柄として起こってくるのです。
 そして、このような「自我」における抑圧の解除、感情の解放と受容が促進されることで、人格全体の変容が起こってくるということでもあるのです。
 上に引用したロジャーズは、「人格変容」についても、重要な研究を行なっています。 
「真の変容」とは何か?―実際の人格変容のプロセス(ロジャーズの研究)

 ロジャーズは、十全に開放された人格の感情特性を次のように描写します。

以前には「滞って」いて、過程という特質を失っていた感情が、今ではただちに体験される。
感情が最後まで十分に流れる。
今ここでの体験がただちに、そして豊かさをもって直接に体験される。
この体験過程の瞬時性と、その内容を構成する感情とが受容される。それはあるがままに受容される。否定したり恐れたり、それと戦ったりする必要はない。
それについて感じるのではなく、体験の中を主観的に生きているという特質が存在する。
対象としての自己は消えていく傾向がある。
この段階では、体験過程は真に過程という特質を帯びてくる。
この段階のもう一つの特徴は、それに伴って生じる生理的な解放である。
この段階では、自分の内側でのコミュニケーションが自由で、比較的妨げられていない。
体験と意識(awareness)との不一致は、それが一致に達して消失する際に生き生きと体験される。
この、まさに進行中の体験しつつある瞬間に(in the experiencing moment)、それに関連ある個人的構成概念が消失して、クライアントはかつて固定されていた枠組みから解放されるのを感じる。
十分に体験するその瞬間(the moment of full experiencing)は、明確にして明白な照合体となる。
体験過程の分化が鮮明になり、基本的なものとなる。
この段階では、もう内側にも外側にも「問題」は存在しない。クライアントは自分の問題ある局面を主観的に生きている。それは対象ではない。

ロジャーズ『心理療法の過程概念』諸富祥彦他訳
/『自己実現の道』所収(岩崎学術出版社)

 変容した人格の感情プロセスが、興味深い形で描写されています。
 そして、アヤワスカ体験後にも、このような顕著な特性が、多くの場合、現れてきがちなのです。


◆身体構造の変化―アヤワスカの特性

 また、他のサイケデリックスに較べて、アヤワスカが、特に「変容」においてパワーを発揮するのは、「肉体/身体」領域への強い作用があることも理由に挙げられます。

 通常、私たちは、この「肉体の牢獄」の中で暮らしていますが、その深刻な事態が何を意味しているのか、通常の心理療法の世界の中でも、ほとんど理解されていません。
 ゲシュタルト療法がその始祖の一人とする、W・ライヒは、天才的な洞察で、この「肉体/身体」領域にまつわるさまざまな問題を解き明かしましたが、ライヒ系以外の人々で、その本質を理解できている人はほとんどいないというのが実情なのです。
 そのようなライヒが、晩年、科学的には検出されない「オルゴン・エネルギー」について語り出して、最終的に獄死したというは、とても暗示的です。

 ところで、アヤワスカは、この「肉体/身体」領域に深く働きかけます。
 嘔吐や下痢は、アヤワスカ体験においてよく語られますが、それは表層的な見え方にすぎません。そのようなプロセスを通して、「肉体/身体」の中に埋め込まれ、蓄積されていた、膨大な量の感情エネルギーも放出されていくのです。
 その結果、私たちは、大きな心理的な解放を得ることになるのです。
 また、「肉体/身体」のエネルギー・フィールドは、そこにとどまるものでもないのです。
 アラン・ワッツのいう「皮膚に包まれた自我」を超えて、意識の拡張とともに、身体感覚も同様に拡張していくのです。

 そして、私たちは、あまり意識をしていませんが、日常生活に戻ったとき、一番に直面するのが、この「肉体の牢獄」なのです。
 しかし、アヤワスカ体験後においては、そのような時に、皮膚に包まれた自我を超えて、開放された〈透過する次元〉が感じられているということが、私たちを何よりも自由にしているのです。

 以上、さまざまな事柄を見てきましたが、アヤワスカ体験が、私たちに大きな変容をもたらすというのは、このような多方面からの構造的な変化に由来しているのです。
 そして、その体験に、さまざまな汲みつくし得ない富があるというのは、そのためであるのです。

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【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)やサイケデリック体験、意識変容や超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた解説、拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

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