映画『マトリックス』のメタファー(暗喩) 残像としての世界

昔、『マトリックス』という三部作の映画がありました。当時、ユニークな世界観や映像表現でヒット作となった映画です(最近、二十年ぶりに、四作目が出ました)。
この映画は、その世界観についてもさまざまな問題をはらみ、多様な解釈や議論が出ましたが、ここでは、少し違う切り口で、その内容の意味合いを考えてみたいと思います。

ところで、この映画が示している感覚表現(表象)の世界は、変性意識状態(ASC)シャーマニズムまたサイケデリック的な状態(世界)考える者にとっては、大変興味深いメタファー(暗喩)となっているのです。
実は、映画で描かれているマトリックスの創りだす世界と、私たちの生きているこの現実世界とは、さほど事情が違っているわけではないからです。
ただ、ここで指摘する
話は、通俗的なyoutube動画などにあるような、「そう考えることもできる」的な、興味本位の、上っ面の「解釈(世界観/寓意/都市伝説)」といった話ではなく、もっと「実践的」「具体的」な意識変容の問題として、そうであるということなのです。

ところで、別で、高度な変性意識状態(ASC)を解説する中、この日常的現実とは何かを考えてみたところで、(プロセスワークの)ミンデル博士の「合意的現実 consensus reality 」という考え方について取り上げてみました。
変性意識状態(ASC)とは何か advanced 編「統合すれば超越する」
私たちのこの現実世界というものは、「皆の合意した集合的な信念体系(ビリーフ・システム)」として存在しているということです。
「皆が『現実的』であると見なしていること」を『現実』と考えるということです。
「親が現実と見なしていること」「友達が現実としていること」「学校で現実と教えていること」などなどの「空気を読む」ことで、私たちは、「これが『現実的』なことだ」という感覚を持っているのです。

ところで、このような「合意的現実 consensus reality 」「空気」のあり方は、単に思考や認識の思い込み(拘束)として、私たちの世界をつくり出しているだけではありません。
実際には、「知覚と情動の強い拘束」や「意識の硬化症」をともなって、「この世界」を創り出して(映し出して)もいるのです。
そのため、私たちはなかなかこの「合意的現実」を抜け出したり、相対化することが
できないのです。
本当の現実だと、思い込んで(信じ込んで)しまっているのです。

ところで、心理療法であるゲシュタルト療法体験的心理療法を解説する中で、その前提となっている「心身一元論的」な人間のあり様についてさまざまに見ています。
私たちの中では、「硬くなった心理」と「硬くなった身体」とは、相互的な影響関係をもって(フィードバックを繰り返しながら)、人生の中で硬くなった心身(つまり自分自身)や、抑圧的な世界観をつくりだしてしまうのです。
心身一元論的・ボディワーク的アプローチ

「合意的現実 consensus reality 」の多くの由来は、現代社会(やその出先機関である親、教師)の「信念体系」です。
そして、私たちは物心がつく前から、そのシステムによって、感情や肉体や知覚を訓練され、狭められ、拘束された状態で社会に出されて(再生産されて)いくのです。
実際のところ、社会の私たちの知覚・感覚・意識への洗脳は、映画におけるマトリックス(母体)による支配と、まったく大差がないものなのです。

ところで、映画でもそうですが、この拘束された知覚世界の外に出るには、強度の変性意識状態(ASC)を誘発する「赤いピル」のようなものが必要(有効)です。
アップルのスティーブ・ジョブズは、自伝の中で自身のピル(LSD)の体験人生の最重要事に挙げています。
一方、比喩的にいえば、多くの人々は日々の中で、赤いピルを得るチャンスに出遭っても、青いピルを選んで眠りつづける人生を選んでいるのです。それほど既存の価値観の洗脳や眠ることのの魅惑が強いわけです。
そのため、古来から、さまざまな思想的文脈で、「目覚めよ」というメッセージが繰り返されているというわけなのです。

ところで、赤いピルのような化学物質によらずとも、強度の変性意識状態(ASC)を誘発し、この拘束的な知覚世界を超脱していく手法は多様にあります。さきに触れた体験的心理療法などもそのひとつです。LSDセラピーの権威スタニスラフ・グロフ博士が、LSDセラピーからブリージング(呼吸法)・セラピーに移行したようにです。
(ちなみに、化学物質(薬物)には、一方で「分裂を生み出す」「勘違いを起こす」「統合をつくらない」という特有の問題があるので注意が必要です。→変性意識状態(ASC)とは何か advanced 編「統合すれば超越する」)

さて、実際、進化させたゲシュタルト療法をはじめ、体験的心理療法の多くの手法が、強烈な変性意識(ASC)を創りだし、内側から心身を解放し、私たちの硬化した信念体系や知覚のコードを溶解する効果を持っています。
ゲシュタルト療法などの体験的心理療法的な探求を、実直かつ真摯に進めていくと、心身が深いレベルで解放され、エネルギーが流動化されていきます。身体の感受性が深いレベルで変わっていくことになります。知覚力が鋭敏になっていくのです。変性意識(ASC)への移行や、日々の気づきの力も、ずっと流動性を高めたものになっていくのです。そして、私たちは、旧来の硬化した世界を、まったく別様に見ていることに気づくこととなるのです。ここから、トランスパーソナル心理学のような、個人に閉ざされた人格性を超えた心理学が発展していったわけです。

私たちの見慣れた世界は、単なる世間の信念体系、後付け的に既存の意味を再構成した「残像としての世界」にすぎず、よりリアルな世界とは、それよりも一瞬速く過ぎ去る、刻々まばゆい息吹が奔流するエネルギー世界であると直覚できるようになるのです。
それは、あたかも映画の中で、主人公ネオが腕を上げていくのにつれて、マトリックスのつくり出す幻想世界(エージェント)よりも「より速く」知覚し、「より速く」動けるようになっていくのと同じことなのです。

これらの体験(感覚)についての映像表現は、流動化し、透視力化していく知覚力の変容をうまく表現しています。
シリーズ一作目の終盤では、あたりの風景やエージェントを「流動するデータ」として透視し、エージェントに立ち向かいはじめるネオの姿が描かれています。
映画のストーリーとしては、自分の力の可能性を感じはじめるネオという、覚醒的でエキサイティングなシーンでもあるのですが、実際には、たとえ特別な救世主でなくとも、私たちの誰もが、この見慣れた表象世界を透視し、抜け出し、それよりも「速く動き」その支配を脱する力を持っているのです。
「信念体系」の知覚牢獄を超えて、新しく拡張した透視的な心身として、空間の中をエネルギー的に超越(超脱)しはじめるのです。

そして、そのために私たちに必要なことは、単に頭で考えることではなく、心身と意識を「実際に高速度に解放していく」こと、そして、その中で新たな知覚力・意識力を訓練し、開発し、エネルギーを解放していくということなのです。

そして、それは実際できることなのです。

 

※気づきや心理統合、変性意識状態(ASC)へのより総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。

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↓動画解説「サイケデリック(意識拡張)体験とメタ・プログラミング」 変性意識/攻殻機動隊/チベットの死者の書/ジョン・C・リリー

↓動画解説 「変性意識状態(ASC)とは何か その可能性と効果の実際」

↓「『映画マトリックス』『攻殻機動隊』 現代的(心理学的)シャーマニズム」

※変性意識状態への入り方についてはコチラ↓ 動画「気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス」

↓多様な変性意識状態の姿については

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