グレゴリー・ベイトソンの学習理論と心理療法

◆ベイトソンの学習理論から見た、心理療法の効果の仕組みと利点

ここでは、ゲシュタルト療法の効果についてもその仕組み(構造の)理解として、(ダブルバインド理論で有名な)思想家グレゴリー・ベイトソンの学習理論を参照にして、少し確認をしてみたいと思います。

ベイトソンといえば、人類学、精神医学、生物学などさまざまな学問を横断し、「情報」が「関係」しあう全体システムとして「精神と自然」をとらえた思想家です。そんな彼が考える「学習」とは、お勉強ということではなく、生物の認知システムそのもであり、「進化」の重要な側面を意味するものでした。

さて、ベイトソンの学習理論とは、一次学習(学習Ⅰ)、二次学習(学習Ⅱ)、三次学習(学習Ⅲ)と、何かを学習する取り組みの中で、直接的な学習(一次学習)に対して、そのコンテクスト(文脈)についての学習も、同時に、上位階層の学習として、私たちの内部に、発達していくという理論です。

例えば、子どもが、漢字を覚えるときは、最初は「一次学習」です。ひとつひとつ漢字を覚えていくわけです。

しかし、そのうち、子どもは、「漢字の覚え方のコツ」をつかんできます。それは、「二次学習」となります。また、ひとつの外国語をマスターすると、通常、第二外国語をマスターすることは容易くなります。「外国語を学習する」こと自体(その文脈・コンテクスト)が、コツとして学習されたからです。

私たちの内部で何かが、文脈化(構造化)され、その文脈化(構造化)の方法自体が、習得されたからです。ある乗り物の運転を覚えると、他のジャンルの乗り物の操縦も容易くなるのです。通常、芸事や技芸に上達することは、大体、このように推移します。(守→破→離)

二次学習のレベルが上がると、私たちの技芸は、グッと次元を超えてよくなります。上位階層の学習能力が育っていくと、下位階層の学習力自体も、的を得た、的確なものになり、下位の能力をハンドリングする能力自体も、高まるようです。行為を統御する感覚が、より余裕をもった感じになります。

二次学習が育つことは、大枠では良いことともいえるでしょう。しかし、逆の面もあります。二次学習が、私たちの行動パターンを、固定化させることもあるからです。

ところで、興味深いのは、ベイトソンは、精神医学的な研究から、私たちの通常の「心」も、習慣によるそのような二次学習の結果であると洞察している点です。

そして、それを変化させるのが、より上位レベルの三次学習(学習Ⅲ)であるという点です。

さて、ベイトソンは、二次学習発生の由来が、おそらく、問題解決に費やされる思考プロセスの経済性である、と指摘したうえで、以下のように記します。

「『性格』と呼ばれる、その人にしみ込んださまざまの前提は、何の役に立つのかという問いに、『それによって生のシークェンスの多くを、いちいち抽象的・哲学的・美的・倫理的に分析する手間が省ける』という答えを用意したわけである。『これが優れた音楽がどうか知らないが、しかし私は好きだ』という対処のしかたが、性格の獲得によって可能になる、という考え方である。これらの『身にしみついた』前提を引き出して問い直し、変革を迫るのが学習Ⅲだといってよい」(『精神の生態学』佐藤良明訳 新思索社)

「習慣の束縛から解放されるということが、『自己』の根本的な組み変えを伴うのは確実である。『私』とは、『性格』と呼ばれる諸特性の集体である。『私』とは、コンテクストのなかでの行動のしかた、また自分がそのなかで行動するコンテクストの捉え方、形づけ方の『型』である。要するに、『私』とは、学習Ⅱの産物の寄せ集めである。とすれば、Ⅲのレベルに到達し、自分の行動のコンテクストが置かれたより大きなコンテクストに対応しながら行動する術を習得していくにつれて、『自己』そのものに一種の虚しさ irrelevanceが漂い始めるのは必然だろう。経験が括られる型を当てがう存在としての『自己』が、そのようなものとしてはもはや『用』がなくなってくるのである」(前掲書)

少し難しい表現ですが、私たちが、固定的で実体的なものと見なしがちな、性格や「私」とは、二次学習でしかないことが、ここでは指摘されています。

実際、ここで、彼が指摘しているような事態が、ゲシュタルト療法のパートで見た、ゲシュタルト療法の「エンプティ・チェアの技法」などの効果(作用)の原理と、重なっていることがそれとなく見て取れると思います。
エンプティ・チェア(空の椅子)の技法

ゲシュタルト療法のセッション(ワーク)の中においては、軽度な変性意識状態(ASC)に入ることで、私たちの深層意識が流動化し、私たちの中の習慣化したプログラム(二次学習)がありありと浮かび上がって来ます。

それらプログラムは、私たちの部分的な自我(複数の自我)なのですが、元々は、人生の中で、習得し、成長したもの「二次学習」といえます。当初は、生存のための戦略として適切だったプログラムが、時間を経て、問題プログラムとなってしまったわけです。

セッションの中では、「三次学習」的に(メタ二次学習的に)、それらのプログラムを修正することが行なわれていくというわけなのです。

それは、まさに、固形化したプログラム(二次学習)が溶かされて、流動化して、再構成されていくような事態であるわけなのです。

ゲシュタルト療法での効果や作用を、このような学習理論の視点で見直すことで、私たちの「進化を進める方法論としての心理療法」を理解することができるのです。

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

気づきや変容、変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については拙著
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』

および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。