ゲシュタルト療法では、クライアントの方が、或るテーマを中心にファシリテーターと行なうセッションのことをワーク work と呼びます。その中で、なんらかの問題解決や苦痛の除去、心理的統合を得ることを目指していきます。米国由来の体験的心理療法では、自分がクライアントとして、何かのテーマについてセッションをすることを、大体「ワーク work する」と呼びます。
古典的なゲシュタルト療法は、グループ・セラピーなので、ワークを希望するクライアントが手を挙げて、ファシリテーターと皆の前でワークをします(「ホットシート」)。個人セッションの場合は二人だけで行なっていきます。
1回のワークは、大概30分~90分位かけて行ないます。
※実際のワークの詳細については「セッション(ワーク)の実際」をご覧ください。この解説内容は、ワークの原理的・構造的な大枠の事柄となります。
◆ワークの目的①「未完了の体験(ゲシュタルト)」を完了させる
別にゲシュタルト療法の基本概念として「やり残した 仕事Unfinished Business」「未完了の体験」を見ました。
つまり、人が人生経験の中で過度な欲求不満を持った場合に「未完了の体験」「未完了のゲシュタルト」を心の中に残してしまう場合があるということです。そのことが、私たちの中に苦痛と制限を生み出し、人生を生きていく上での行動制限や生きづらさをつくり出してしまうというわけです。
さて、ゲシュタルト療法のワークの第一の目的は、この「未完了の体験」「やり残した仕事」をワークの中で解消する(完了させる)ことにあります。
ワークを展開する中で発見した「未完了の体験」を、技法的なテクニックによって完了させるのです。
そのことにより、クライアントの方の中にあった強いわだかまり(凍結)がゆるみ、解放され、心理的なプログラミングが書き換えられるという事態が起こるのです。
そのことで、心のブロック(トラウマ的要素)がなくなり、今までの人生で得られなかった自由と楽さ、エネルギーを得ることができるのです。
◆ワークの目的② 「葛藤状態」の解消
さて、別のところで、私たちの内部にある複数の欲求(自我状態)が競合・対立することによって生ずる「葛藤状態」についても見ました。
このことによって、私たちの中に、苦痛や妨害、能力の制限や心のブレーキが生じてしまうのです。
さて、ワークの第二の目的は、この「葛藤状態」を解消することです。
さまざまな技法を使い、「複数の欲求(自我)」を複数の椅子に分けて配置し、対話・交流を行なっていきます。
このようにすることで、分裂・対立していた欲求(自我)の間に情報の交流と融合が起こり、葛藤状態が解消されていくのです。
また、そのことで、心の底に隠されていた大きな潜在能力を引き出すことができるのです。
→葛藤解決の技法
→葛藤解決のポイント
→葛藤解決のポイント ネガティブな感情の扱い方
◆ワークの効果
ところで、セッションの中で「未完了の体験」や「葛藤状態」が解消されると、心の底に閉じ込められていた莫大なエネルギーが解放されていきます。
心の中の分裂状態がなくなった分、エネルギーが統合され、「統一し、まとまった自分自身」という力強い主体感覚というものを実感するようになります。
その結果として、人生全般に対して、能動的で肯定的な気持ちが生まれてくることになるのです。
何でもできる気になってくるのです。そして、実際、さまざまな行動をすぐに起こせるようになって来るのです。
次のエンカウンター・グループ経験者の言葉は、このあたりの実感をよく伝えています。
「私は、以前より、開かれ自発的になりました。自分自身をいっそう自由に表明します。私は、より同情的、共感的で、忍耐強くなったようです。自信が強くなりました。私独自の方向で、宗教的になったと言えます。私は、家族・友人・同僚と、より誠実な関係になり、好き嫌いや真実の気持ちを、よりあからさまに表明します。自分の無知を認めやすくなりました。私は以前よりずっと快活です。また、他人を援助したいと強く思います」(ロジャーズ『エンカウンター・グループ』畠瀬稔他訳/創元社)
ゲシュタルト療法においても同様に、このような実感が、獲得された効果として現れてくることになるのです。
→セッションで得られる効果と成果
【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。