【内容の目次】
◆はじめに
◆「英雄の旅」の構造/パターン
◆心理変容メカニズム 異界と変容のパワー
◆「英雄の旅」の詳細プロセス
◆英雄の旅と体験的心理療法の類似性
はじめに
「英雄の旅 Hero’s journey」とは、神話学者のジョゼフ・キャンベルが、世界中の神話より抽出した「英雄神話」の普遍的な構造/パターンのことです。
キャンベルの影響を強く受けた映画監督ジョージ・ルーカスが、『スター・ウォーズ』のストーリーの下敷きに、「英雄の旅」のパターンを使ったことで、この理論が一般にも広く知られることとなりました。
そもそも、神話のストーリー・パターンというものは、人類や民族の長い歴史の中で、多くの人々が語り継ぎ、洗練させていったものなので、私たちの心の構造(本質/共通性/普遍性)を映し出す、鏡のような特性を持っています。
特に「英雄神話」というものは、古今東西、世界中の民族に見られるように、私たちの心の構造を顕著に浮かび上がらすものです。
現代においても、映画やドラマなど多くのエンタメ作品が、ほとんどヒーロー/ヒロイン物語の形態をとっていることを見ても、英雄物語は、私たちの心の構造を反映させたもの、私たちの心にとても強く訴えかける何かの構造/パターンを秘めているものであると考えてよいのです。
その構造/パターンは、人類に普遍的であるがゆえに、私たちにも子供の頃からなじみ深い、とてもよく見る、典型的な(ありきたりな)ヒーロー物語の形式(パターン)となっています。
キャンベルは、そのパターンを要約的に語ります。
「英雄は、あえて、日常の世界を後にして、超自然的で、不思議なものの住む世界へと、足を踏み入れ、そこで、驚異的な存在に出会い、決定的な勝利をおさめる。英雄は、この神秘的な冒険で、仲間への恩恵となる力を得て、帰還する」(『生きるよすがとしての神話』 飛田茂雄他訳、角川書店)
このようなストーリーは、私たちにも、子どもの頃からなじみ深い冒険物語の形ではないでしょうか?
子ども向けの童話や、現代の映画でも、主人公は、普段の日常生活から(どのような形であれ)逸脱し、非日常的な空間(事件の空間/異界/異世界)に入り込み、そこでの稀なる経験(冒険)を経て、その力をもって、日常生活に戻ってくるというパターンを持っています。
そのような物語パターンの納得性もあり、「英雄の旅」理論は、ジョージ・ルーカスの喧伝や、そのことを咀嚼した「ハリウッド映画式のシナリオ作成術」のひろまりにより、世間でも広く知られるようになりました。
つまり、人々の心を深く魅惑し納得力を高めるために、(ストーリーの下敷きに)普遍的な神話のパターンを意図的に利用するというテクニック(方法論)です。
そしてまた、ビジネスの世界でも、マーケティングやコピーライティングの方法論として、一部では基本的なものとして取り込まれることになりました。神話のストーリー性を盛り込むことで、人々への影響力や感化力を高めようという考え方です。
また、NLP(神経言語プログラミング)、コーチングの世界では、「ヒーローズ・ジャーニー」として、S・ギリガン氏とR・ディルツ氏らのワークショップをはじめ、「英雄の旅」のモデルは、ひろく認知を得ることになったのです。
いずれにせよ、これらの普及や流行の背後には、この神話モデルが、さまざまな事柄に実際的に役立つということを教えてくれているのです。
そして、人間の心理変容(意識拡張、能力覚醒)をあつかう現場、心理セッションの実場から見て重要なことは、この神話モデルが、きわめて実践的で、実際的なものとして応用できるという点にあります。これらの神話パターンは、直接的に、私たちの心に働きかける強い力を持っているということなのです。
その点を、少しご説明しましょう。
心理学的に見れば、「英雄」が表わしているものは、私たちの普段の、この「自我 ego /私」であると見なせます。
私たちは、自分の「自我 ego /私」を、「英雄」に投影して、その冒険を追体験します。
そのため、この神話のパターンは、
私たちの「自我 ego /私」が、人生で経験しがちな変容プロセス、つまり、人生の困難(事件や敵との戦い)の中をくぐり抜け、課題を克服し、そのことで変容(再生)していくプロセス
というものを表わしているのです。
そのため、この神話モデルは、心理的な「自我 ego /私」の変容についてのヒント、私たちが、自分の深層意識(潜在意識)からさまざまな能力(資源/リソース)を引き出す、きわめて実際的なヒントとなっているのです。
(そのため、拙著でも、一章をとって、このモデルについて詳細に検討を加えたわけなのでした。
→拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』)
このセクションでは、「英雄」のように、変容の旅を進めて、私たちの未知の創造力を取り出す方法として、英雄の旅モデルがどのように役立つのかを以下に見ていきたいと思います。
◆「英雄の旅」の構造/パターン
さて、英雄の旅のパターンを、キャンベル自身がもう少し詳細に、要約している部分を以下に引用してみたいと思いますが、彼の文章は、学問的な厳密さを狙ったがゆえに、分かりづらい(面倒くさい)表現になっているので、その前に、大枠の、骨組み的なパターンを示してみたいと思います。
この骨組み的なパターンは、決して厳密なものではありませんが、心の変容をあつかう現場、セラピーやカウンセリングの現場では、より実効的・実際的なモデルとなっています。
さて、英雄の旅(そして、心の変容)は、以下のような冒険的な変容のプロセスを持っているということです。
「出発」(召命)
↓
旅の拒絶(抵抗)
↓
助言(導き)
↓
越境・異界参入
↓
援助(仲間、守護者)
↓
超越的な力(怪物/魔霊)との戦い・試練
↓
最大の試練(臨死)
↓
聖なる結婚/真の父の承認、統合/融合
↓
魔法の力(霊薬 Elixir )の獲得/変容
↓
「帰還」
以上となります。
英雄的な物語(と心の変容)は、このような推移をたどりがちであるということです。
では、このことをもう少し詳細に、キャンベル自身が要約している部分を、少し長いですが引用してみましょう。
「神話英雄はそれまでかれが生活していた小屋や城から抜け出し、冒険に旅立つ境界へと誘惑されるか拉致される。あるいはみずからすすんで旅をはじめる。
そこでかれは道中を固めている影の存在に出会う。英雄はこの存在の力を打ち負かすか宥めるかして、生きながら闇の王国へ赴くか(兄弟の争い、竜との格闘、魔法)、敵に殺されて死の世界に降りていく(四肢解体、磔刑)。
こうして英雄は境界を越えて未知ではあるがしかし奇妙に馴染み深い〔超越的な〕力の支配する世界を旅するようになる。超越的な力のあるものは容赦なくかれをおびやかし(テスト)、またあるものは魔法による援助を与える(救いの手)。
神話的円環の最低部にいたると、英雄はもっとも厳しい試練をうけ、その対価を克ちとる。勝利は世界の母なる女神と英雄との性的な結合(聖婚)として、父なる創造者による承認(父親との一体化)として、みずから聖なる存在への移行(神格化)として、あるいは逆に―それらの力が英雄に敵意をもったままであるならば―かれがいままさに克ちうる機会に直面した恩恵の掠盗(花嫁の掠奪、火の盗み出し)としてあらわされうる。
こうした勝利こそ本質的には意識の、したがってまた存在の拡張(啓示、変容、自由)にほかならない。のこされた課題は帰還することである。超越的な力が英雄を祝福していたのであれば、かれはいまやその庇護のもとに(超越的な力の特使となって)出発するし、そうでなければかれは逃亡し追跡をうける身になる(変身〔をしながらの〕逃走、障害〔を設けながらの〕逃走)。
帰還の境界にいたって超越的な力はかれの背後にのこらねばならない。こうして英雄は畏怖すべき王国から再度この世にあらわれる(帰還、復活)。かれがもちかえった恩恵がこの世を復活させる(霊薬)」(キャンベル『千の顔をもつ英雄』平田武靖他訳 人文書院)
さて、なかなか、わかりにくい表現ではないでしょうか。
しかし、このような物語の展開や道具立ては、映画などでもしばしば目にするものだと思います。
◆心理変容メカニズム 異界と変容のパワー
「神話の英雄、シャーマン、神秘主義者、精神分裂病患者の内面世界への旅は、原則的には同じもので、帰還、もしくは症状の緩和が起こると、そうした旅は、再生―つまり、自我が「二度目の誕生」を迎え、もはや昼間の時空の座標軸にとらわれた状態でなくなること―として経験されます。そして、内なる旅は、いまや、拡張された自己の影にすぎないものとして、自覚されるようになり、その正しい機能は、元型の本能体系のエネルギーを時空の座標軸をもつ現実世界で、有益な役割を果たすために、使わせるというものになります」キャンベル『生きるよすがしての神話』(飛田茂雄他訳 一部改訳、角川書店)
これも、なかなかわかりづらい表現ですが、ここでは「英雄の旅」的なプロセスとは、私たちの心の深層にある「拡張された本来の自己」を回復するプロセスであることが示唆されています。
つまり、この理論の前提には、私たちの心の深層には、構造化された「元型の本能体系のエネルギー」というものがあるというわけです。そのため、神話の英雄や伝統社会のシャーマン、宗教的な神秘主義者や精神分裂病(統合失調症)患者に共通して、同じような変容プロセスが現れるというものです。
ところで、「元型」とは、心理学カール・グスタフ・ユングが提唱した概念で、私たちの心の深層に潜むとされる(個人を超えた)基底的・普遍的・集合的な、心の構造的因子(動因、元因)のことです。
ただ、元型自体は、あまりに深く根源的なものなので、私たちの浅い意識ではそれ自体を認識することはできないとされます。私たちは、その元型から湧出する「元型的イメージ」を体験できるだけです。
そして、さらにいうと、むしろ、その元型から、私たちの人格やその他もろもろの要素が生まれてくるというわけです。極端な見方をすれば、私たちの人格は、元型の作り出した結果ともいえるわけです。
そして、神話も同様に元型(集合的無意識)から生まれたものであるというわけです。
ユング自身は、この理論を、彼の観察した精神病患者の心に現れた自発的内容(表象/イメージ)と、古今東西の神話に見られる内容(表象/イメージ)との共通性を根拠に、この理論を唱えました。
キャンベル自身は、ユングに近い考え方をしているというわけです。
※この非常にわかりにくい「元型的/集合的無意識」的世界を、私たちが実際にわかりやすく体験するものひとつが、人間を強烈な変性意識状態(ASC)に導く「サイケデリック体験」です。サイケデリック体験においては、普段、目にすることのできない「元型的/集合的無意識」を目の当たりにすることもあるのです。人は、古来から、サイケデリック・メディスン(薬草)を使って、そのような魂の深い次元に触れていました。そのことが、宗教の深い由来であることもあるのです。
→サイケデリック・シャーマニズムとメディスン(薬草)―概論
→アヤワスカ―煉獄と浄化のメディスン
さて、話を戻しますと、キャンベルが語っていることは、私たちは、「英雄のような心理変容の旅」を通して、深層の深い(元型的な)エネルギー、つまり、潜在意識の基底的本源的な能力/エネルギーを、現実的な日常世界で、意識的に、普段の自我(私)の中で生かせるようになるということです。
そして、そのような本源的(元型的)なものが回復された心の状態とは、世間に生きる因襲的で表層的な自我(私)の「昼間の時空の座標軸にとらわれた状態」でなくなるということです。
これは、日常的自我とは違うレベルの、いわば拡張された意識状態(拡張された自己)、さまざまな深い本源的な要素が統合的に獲得された状態であるということです。
上記の引用では、(神話の話なので)比喩的には語られていますが、実際には、「自我の変容過程」において多くの人々が体験している事柄なのです。
実際に、人は大きな心理的な変容(旅)を経験すると、自己の内側に非常に新しく強い、本源的な力を感じるようになり、かつては絶対的に感じられていた日常的自我の価値観(昼間、世間一般)を、ちっぽけなものとして乗り越えて相対化して)しまうものなのです。
つまりは、「意識の、したがってまた、存在の拡張(啓示、変容、自由)」が達成されてしまうのです。
いわゆる、自己実現や自己超越的な事態が訪れるのです。
→【図解】心の構造モデルと心理変容のポイント 見取り図
さて、ところで、筆者自身、実践現場(体験的心理療法、ゲシュタルト療法、変性意識状態(ASC))に関わる中で、多くの人々のさまざまな心理的変容を見てきました。
それは、世間一般の人々が想像する以上に「ぶっ飛んだ」世界です。
人間の潜在意識というものは、それほど不可思議な力に満ちているものだからです。
そして、そのような人々の変容プロセスをサポートするにあたって、この神話モデルが、事実を反映しているとともに、かつ、とても人々に有意義に働く様子を見てきたのです。
それは例えば、人格変容過程の中で生じる通過儀礼的なプロセス、苦しく困難な再生のプロセス、いわゆる「魂の暗夜 Dark Night Of The Soul 」の体験や「夜の航海 night sea journey 」の体験を、位置づけ、サポートするに際して、とても有効に作用するのでした。
それらは、現代社会では、暗い「鬱」の体験として現れてきたりします。
英雄の旅においては、それらは「冥府降り」「地獄降り」「怪物と戦い」として表象されているものです。
異界をめぐり、怪物=影(シャドー)と戦い、魔法のパワーを獲得していくという、英雄のふるまいは、投影された(分裂した/抑圧した)影を統合し、自己の全体性(全体的な自己)を回復するという、心理統合のプロセスを表わすものとして、また、創造力発掘(魔法の力の獲得)のために、自己の深い部分(影)、危険な深層領域(異界)を探索することをイメージさせるものとして、クライアントに、とても説得的・実感的に働くのでした。
心を支え、導きの霊感を与える神話モデル、ロールモデルになるのでした。
そのような意味でも、この「英雄の旅モデル」は単なるおとぎ話ではなく、私たちの内なる力を取り戻し、人生を航海するためのツールとして実際的なものであるといえるのです。
◆「英雄の旅」の詳細プロセス
さて、「英雄の旅」のプロセスは、そのように変容プロセスの普遍的な姿を示しているものですが、キャンベルによって細かく区分けされている要素を少し単純化して示すと、前に記したように以下のような形となります。これなども、通俗的なヒーロー物語によく見られる共通のパターンといえます。
「出発」(召命 Calling )
↓
旅の拒絶(抵抗)
↓
助言(導き)
↓
越境・異界参入
↓
援助(仲間、守護者)
↓
超越的な力(怪物/魔霊)との戦い・試練
↓
最大の試練(臨死)
↓
聖なる結婚/真の父の承認、統合/融合
↓
魔法の力(霊薬 Elixir )の獲得、変容
↓
「帰還」
さて、このストーリーの「大枠」だけ切り取って見てみると、「①出発-②通過儀礼-③帰還」の構造となっており、はじまりと終わりを持つ、いわゆる、通過儀礼(イニシエーション)的なモデルとなっていることが見て取れます。
通過儀礼(イニシエーション)のモデルとは、人類学者のファン・へネップが記し、後にヴィクター・ターナーが敷衍した、古今東西の民族に見られる、「通過儀礼過程」のモデルです。
それによると通過儀礼に参加する者は、次の3つのプロセスを経て、通過儀礼(イニシエーション)を完了していくとされます。
①分離・離脱 (separation)
②周縁・境界 (margin/limen)
③再統合・集合 (aggregation)
【※参考】
→ゲシュタルト療法 通過儀礼とコミュニタス
→伝統的なシャーマニズムと心理学的シャーマニズムについて
さて、「英雄の旅」おいては、物語のはじまりは「召命 calling 」であり、何らかの「呼びかけ」に従う形で、冒険は始まります。
そこには、主人公の生い立ちに関する、特殊な情報も含まれていたりします。
出自/出生の謎は、たいがいは半人半神(神の血/血筋)のような秘密が含まれているものですが、これは、私たちが、(自分では忘れてはいるが)本来は、途方もない潜在意識(魂の全体性/トランスパーソナル/高次の由来)に起源を持った存在であることを暗示しているわけです。その忘れられた「魂の全体性/高次性」を取り戻していくプロセスが、英雄の旅であるというわけなのです。
また、その次に現れる「旅の拒絶(抵抗)」のテーマは、冒険への逡巡や恐れ、日常世界へのしがみつきなど、物語のはじめによく見られるパターンです。
私たちにとって、未知の冒険とそれによって起こる「自分の素晴らしい潜在能力」に出会うことは、実はとても恐ろしいことでもあるからです。特に現代人は、「本当の自分」が持っているパワーの大きさに、恐れを抱いているものなのです。 それには、子供の頃からの社会的な命令「自分を小さくしろ」の要因もあります。
一方、潜在意識の中には、エネルギーを全開し、潜在能力を150パーセント使いたい冒険的な本性もあります。
私たちは、心の奥底には、爆発的に解放された才能と自由とに満ちた、素晴らしい自分自身がいることを知っているのです。
しかし一方、それよりも、ほんの数パーセントの能力だけを使って、小さく「さえない自分」であることに安心している日常的な自分もいるのです。
ここに「葛藤」があります。
これは、私たちの「自我 ego (私)」と「自己 SELF (魂の全体性/高次性)」にまつわる、神話的なパターン(葛藤)でもあるのです。
そして、この「旅の拒絶」場面で、退屈なこの日常世界にくすぶったまま居続けるのか、それとも、恐ろしいけれども未知の興奮を誘う、冒険に出かけるのか(素晴らしい自分に出会うのか)選択を迫られるのです。
これなども、映画の前半部などでよくよく見かける主人公の葛藤シーンです。
その次の、中間の「通過儀礼」の部分は、物語の核心である「異界めぐり(冥府/地獄降り)」「超越的な力」との遭遇・戦い・試験といった大きな試練の場となっています。
その試練が、英雄の主体を、限りなく死に近づけるような過酷な体験(臨死的な冒険)であることを示しています。
それは、主体にとっては、自分を変容・刷新させてしまう類の、「死の体験」「再生の体験」となるものです。
しかし、そのような苛烈な過程の中で、主人公(私たち)は「超越的な力(または悪の力)」の中に潜む(その実、自分の深層に潜む)本来の、本質的な力を獲得していくことになるのです。
それが「変容過程」の中心部分です。
それが、最終的には、魔法のような特別な力(霊薬)となるのです。
さて、終わりの「帰還」は、通過儀礼としての旅の成果(霊薬)をわがものとして統合したうえで、この世(共同体)にもたらし、還元する過程を示しています。
その力でもって、もとの世界を豊かにし、豊饒に再生させるのです。
このように、英雄の旅の物語は、「冒険譚」という形式の中で、超人間的な経験(魂の全体性/高次性)を自分に取り込み成長していく、主体的な体験過程(変容過程)を示しているのです。
そのため、「英雄の旅」的な映画を見ると、私たちは未知の根源的な力に拡充(充電)されたかのような高揚感や、核心の感覚を覚えるのです。
そして、このような経験パターンは、娯楽的な物語だけではなく、私たちの生活の、さまざまな場面(事件)において、実際に経験されているものなのです。
◆「英雄の旅」と体験的心理療法の類似性
ところで、ここで興味深いことのひとつは、このような「英雄の旅」を、単なる物語としてだけではなく、実際に体験できる場があるということなのです。
例えば、上に見たような「英雄の旅」のプロセスと、別で見た、深化/進化型のゲシュタルト療法などの体験的心理療法のセッションのプロセスには、平行した構造やプロセス(体験過程)が見られるのです。
「英雄の旅」が、心理的変容のプロセスの表現であることを考えるとそれは納得的ではありますが、それでも、短時間のセッションの中で、そのような「異界めぐり」「影との闘い」「統合/変容」が起こるというのは、実際の光景を真に当たりにすると、興味深くも感動的なことであるのです。
このような洞察をもとに、当スペースでは、クライアントの方に、「英雄の旅」としての変容プロセスに、気づきと体験を深めてもらうようにしているのです。
そけらの体験を通して、クライアントの方は、日常生活にない形で、ご自身の深層意識(異界)に降りていき、深層にいる影/敵(苦痛)を倒し、自らの魔法の力を見出し、それを取り戻すという、「英雄の旅」のプロセスを体験していくことになるのです。
その内容詳細は、サイトの他のセクションや、拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法』に譲りますが、この神話モデルは、そのような意味でもきわめて実践的なものであるということができるのです。
→セッション(ワーク)の実際
→詳細紹介『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
◆関連記事
→アヤワスカ―煉獄と浄化のメディスン(薬草)
→サイケデリック・シャーマニズムとメディスン(薬草)―概論
アヤワスカなど、強烈なサイケデリック・メディスンを使って行なう部族のセレモニー(儀式)の中では、人はまるで「地獄降り」「冥府への下降」「怪物との戦い」に似た、「英雄の旅」そのものの苛酷で不可思議な体験を持つこととなります。それらの体験の意味を解き明かし、一層深みを持たせるためにも、「英雄の旅」のモデルは、決定的に重要なモデルとなっているのです。
→映画『マトリックス』のメタファー(暗喩) 「残像としての世界」
映画『マトリックス』は、心の深層=異界=変性意識状態が教えてくれる、私たちの現実世界をとてもうまく感覚的に表現した作品となっています。絵空事ではなく、『マトリックス』的世界を生きる方法について書いています。
→映画『攻殻機動隊』ゴースト Ghost の変性意識
映画『攻殻機動隊』も、心の深層=変性意識状態の心を考える上で、ヒントを多く与えてくれる作品となっています。英雄的再生=心の「上部構造にシフトする」ことについて、検討をおこなっています。
→モビルスーツと拡張された未来的身体
1stガンダムに登場した「ニュータイプ」のコンセプトも、変性意識状態と知覚拡張について、私たちにさまざまな霊感を与えてくれるものです。
→ 「聖霊」の階層、あるいはメタ・プログラマー ジョン・C・リリーの探求から
→ロートレアモン伯爵と変性意識状態
→クライストと天使的な速度
→なぜ、セックス・ピストルズは、頭抜けて覚醒的なのか
→サバイバル的な限界の超出 アウトプットの必要と創造性
※変性意識状態(ASC)やサイケデリック体験、意識変容や超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。