【内容の目次】
セッション(ワーク)の構造―その神話的構造
セッション(ワーク)の流れ【要約版】
セッション(ワーク)の流れ【詳細版】
ワークとは
①あつかうテーマを決める
②感覚をひろげて、気づいていく
③深い感情(欲求)に焦点化し、気づいていき、表現する
④気づきを深め、感情(欲求)を展開・変容させる
⑤現実に着地(統合)する
⑥ワークの終了
▼セッション(ワーク)の構造―その神話的構造
(注)体験的心理療法においては、セッション時間の中に、実際に或るテーマに焦点を絞って、解決のための施術(取り組み)を行なうことを。米国西海岸由来で、「ワーク」をすると言います。ただ、これは、一般にはなじみのない言葉使いですので、以下では「セッション」と「ワーク」という言葉をほぼ同じ意味で互換的に使っていきたいと思います。
さて、当スペースで行なっているセッション(ワーク)は、深化/進化型のゲシュタルト療法となります。
見た目は、通常のゲシュタルト療法のセッション(ワーク)と似ていますが、本来のゲシュタルト療法が根っこに持っていた、プロセス指向、即興性、遊戯性、創造性を大事にしながら、変性意識状態(ASC)を利用して、クライアントの方が、より深い変容や統合を進めていけるよう深化させた形となっています。そのような進化した形態のものとして、以下をお読みいただければと思います。
ただ、もともと、ゲシュタルト療法は、創始者パールズの生きていた頃でも、ファシリテーターによって、さまざまなスタイルのゲシュタルト療法がありました。そういう意味では、「型にはまった」ゲシュタルト療法というものはなく、ファシリテーター個人の個性を反映したものが奨励されていたのでした。そのため、多様なスタイルのゲシュタルト療法があったのでした。「普通のゲシュタルト療法」や「標準的なゲシュタルト療法」というものはないのです。
一方、最近では、セラピーでも、劣化コピーしたNLP(神経言語プログラミング)のように、出来合いのフォーマットを当てはめてやるスタイルが普及したせいか、セッションとは、なにか出来合いのフォーマットを、人に当てはめるものだと勘違いしている人もいます。
しかし、本来のゲシュタルト療法のセッション(ワーク)では、そういう「型にはまった」はありません。
その場に現れたクライアントの方のプロセス(コード)に合わせて、自由に展開するものなのです。
だからこそ、心の深いところにも届くのです。
当然、ファシリテーターの技量や能力によって、セッション(ワーク)のスタイルや効果は千差万別になります。
ゲシュタルト療法に興味がある方は、さまざまなファシリテーターのセッション(ワーク)を実際に体験してみて、その多様さや効果の違いを確かめてみていただければと思います。
さて、ところで、ゲシュタルト療法のセッション(ワーク)というものは、感覚の前景に浮かんでくる「ゲシュタルト」―心やからだの気になること―に丁寧に、刻々気づいていき、それを表現(表出)することでじっくり進んでいきます。
感情表現-表出がメインであり、論理的・理性的に表現することにあまり心理的効果はありません。
理性に、心をかたちづくる能力はないからです。
心の実体をつくっているエネルギーは、感情(欲求)であるからです。フロイト的にはいえば、リビドーです。
「思考を離れ、感覚になれ」とは、フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法創始者)の言葉です。
そのため、セッション(ワーク)のプロセスはとてもナチュラル(自然)で、人間の生理的プロセス、生体の自律的なプロセスをたどっていくものとなっているのです。
そのため、そしてまた、興味深いことに、セッション(ワーク)のプロセスというものは、昔から知られている、古今東西の「昔話」や「おとぎ話」、「神話」のストーリーと大変似かよったプロセスをたどっていくことにもなるのです。冒険物語(英雄の旅/ヒーローズ・ジャーニー)に似たプロセスです。
→英雄の旅 (ヒーローズ・ジャーニー) とは何か
ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズが「自分はゲシュタルト療法の創始者ではなく、再発見者にすぎない」「ゲシュタルト療法は地球の歴史と同じくらい古い」と言っていますが、そのような面も含んでいるのです。
そのようなことは、ゲシュタルト療法内部の人間よりも、むしろ外部の人々から気づかれることが多い事柄ともいえます。
たとえば、ユング心理学の流れをくむプロセスワーク(プロセス指向心理学)の創始者アーノルド・ミンデルはこう指摘します。
「現代のゲシュタルト療法の創始者であるフリッツ・パールズは、先住文化のシャーマンがいれば間違いなく仲間として歓迎されたであろう。パールズは、自己への気づきを促すために、夢人物(ドリーム・フィギュア)や身体経験との同一化ならびに脱同一化法を用いた。そして、モレノの「サイコドラマ」から、夢見手が自分や他者を登場人物にすることによって夢の内容を実演化する方法を借用している」(ミンデル『ドリームボディ』藤見幸雄監訳、誠信書房)
このあたりの要素が、ゲシュタルト療法を、単なる通常の(凡庸な)心理療法を超えて、トランスパーソナル心理学や、ホドロフスキーの「サイコマジック/サイコシャーマニズム」につながる、可能性に満ちたメソッドとして、深化/進化できる要素ともなっているのです。その点は、当サイトの別のセクションを色々とご参考にしていただければと思います。
さて、それでは、以下では、当スペースの、「深化/進化型のゲシュタルト療法」のセッションが、どのようなプロセスを持つものかを解説していきたいと思います。
体験者(お客さま)の声より
ミラクルな体験でした。予測だにしなかったこと。
まさに welcome to the new world でした!
ワークを体験したことで、なにかこの世界に対しての核心のようなものを得ることができたと思いました。愛の雲に明晰さという光のスペクトルが限りなく広がっていく、まるで最後には荒野からその上空の雲海に舞い上がったような体験でした。これは自分にとって世界への確信的な自覚でもありました。まさに新世界。この意識経験は、世界に対しての絶対に信頼できる体験というか、これまでのそして今後の自分の人生のクサビというか、転換点になるような体験でした。 (O・Hさん 男性40代)
シャーマニックの実践者です。
実践中に起こる内的旅路の感覚に近く自己理解が深まるセラピーが無いか、心理療法を探していました。
そしてゲシュタルトの祈りをみつけた時に、落雷が落ちた感覚を得た為、ゲシュタルトを探し、こちらに辿り着きました。
心理療法というと、味気なくつまらないイメージがあり、敬遠してた私のイメージを覆す、ユニークなサイトの世界観で、すぐにセッションを申し込みさせて頂きました。
セッションは予想を遥かに超え、本当に衝撃的でした!!
初回のオンラインセッションでビジョンが視え、体に起きる強烈な感覚は今も鮮明に覚い出せる程に、印象強く残っています。
数々のセラピーを試してきていますが、似たものは無く、別格で、自分自身の未知の領域に踏み込むセラピーです。
何かしらのツールを使わずとも人は、深い意識下に潜る事が可能であるという事を実感させて頂きました。
又シャーマニズムの事もサイトに書かれていますが、その事も同時に理解できました。悩みがあってセッションを受けた訳では無いのにもかかわらず、涙が枯れる程に泣き続け、思った以上に抱え込んでいる自分を知りました。
セッションでは全身を使い、想いや感情を実際に表現していく事により、自分がより明確になり、回を重ねる毎にバランスが取れていき、存在が磨かれていきます。
マインドも冴え、世界の見方が広がる変容を感じ、人生をより豊かに生きられると感じました。
その後、勉強を兼ねて、多くのゲシュタルト療法家の方よりセッションを受けましたが、こちらのゲシュタルト療法は、通常のゲシュタルトとは異なる独創的なセラピーです。セッションを継続しながら多くの事を親切、丁寧に教えて頂いています。
言わずとも、気持ちを汲み取って下さり、先を読み越した対応から、洞察力とご経験の深さを感じます。
誠意があり、信頼のおける方で、何を話しても受け入れて、理解して下さる様な、落ち着いた優しい雰囲気のある方です。
セッションでは心だけではなく肉体、刺さる様な肩の痛みを取って頂いた事もあり驚きました。
体と心の繋がりは知っていましたが、より確信したものです。セッションの中で得た気づきを素材にし、現実に行動する事で人生のスピードが上がります。
それに伴い、自身の存在が一段上がります。
プレイフルな手法なので、心に悩みがある方だけで無く、自己探求が好きな方や、自分の人生を充実させる手法を探している方にもおすすめのセラピーです。 (Mさん 女性40代)
セッション(ワーク)の流れ【要約版】
①あつかうテーマを決める
…クライアントの方に、セッションであつかうテーマを決めていただきます。もしくは、ファシリテーターと一緒に決めていきます。
②感覚をひろげて、気づいていく。
…クライアントの方に、テーマに関連した出来事や感覚を話していただきます。関連した気になる感覚・感情を、自分の心身の中に探っていきます。ファシリテーターが、問いかけ、焦点化、提案を行なっていきます。
③深い感情(欲求)に焦点化し、気づいていき、表現する
…その場に現れている、気になる感覚・感情を充分に体験していきます。その感覚の奧(背後)にあるものを感じ探っていきます。(このプロセスへ没入の中で、クライアントの方は軽度な変性意識状態(ASC)に入っていきます。これが深化/進化型セッションのポイントです)
④気づきを深め、感情(欲求)を展開・変容させる。
…見出した感情・感覚に気づきを深め、感じ、表現・表出していきます。そうすると、その小さな感情(欲求)が解放され、自然に、より深い層の感情(欲求)が出てきます。そのように、感情(欲求)の発露プロセス(自律性)が活性化し、さらなる感情(欲求)発露が続きます。
その中で、葛藤感情(自我の分裂)などが現れてくるので、エンプティ・チェアの技法などを使って、その自我状態の葛藤・対立を明確にし、深層にある感情(欲求)のもつれをほどいていきます。解放と統合が起こっていきます。
(この時、クライアントの方は、意図せずに、深い変性意識状態(ASC)に入っています)
(付記)……変性意識状態の中では、クライアントの方は、普段、同一化している日常的自我(いつもの自分)から離脱して、さまざまな深層意識、潜在意識の内容に気づくことができます。
⑤現実に着地(統合)する
…新たに見出したご自身の新しい統合的状態、欲求(感情)を、日常生活で支障なく活かせる感覚を確認します。クライアントの方は日常意識を取り戻しはじめます。しかるべき「統合」の感覚を得ます。
⑥ワークの終了
…クライアントの方が、セッション後の日常生活の中で、統合感(着地感)がしっかりと得られたと感じられた時点でワークは終了します。ワークの空間を閉じます。
動画「セッション(ワーク)の実際」
【詳細解説】
▼ワークとは
ゲシュタルト療法では、セッションの中で、自らの心理的テーマに取り組み、それを解決していく作業 work のことを「ワーク」work と呼びます。米国西海岸系の体験的心理療法では、「或るテーマ」に取り組むことをよく「ワーク work (作業)する」と言います。そのため、厳密にいうと、セッション時間の中に「ワーク」という「取り組みの単位」があるという構造になっています。
さて、ワークは、クライアントの方とファシリテーターとのやりとりで、だんだんと展開するものとなっています。1つのワークは、大体30分~90分くらいかけて行なわれます。
ここでは、実際にゲシュタルト療法のワークでは、どのような事が行なわれるのかについて描いてみたいと思います。クライアントの方がどのようなことをして、内的体験して、どのように解放や心理的統合を得るのかについて、そのプロセスについて描いてみたいと思います。
古典的なゲシュタルト療法はグループセラピーですので、ワークを希望するクライアントの方が挙手をして、他の参加者の前で、ファシリテーターとワークを行ないます。個人セッションの場合は、クライアントの方とファシリテーターと二人で以下のようなことを行なっていきます。
◆気づき awareness の力の重要性
まず、プロセス解説の前に、ゲシュタルト療法で核心となる事柄について触れておきたいと思います。
ゲシュタルト療法のセッションにおいては、クライアントの方にご自分の感情や欲求に刻々と「気づいてawareness」、感じていただき、表現してもらうということを行なっていただきます。
これがセッションの核心となります。
この「気づく awareness ことの重要性」を、私たちが、現代社会で普通に生きている限り、知ることはありません。 また、その能力を高めようと訓練することもありません。
この「気づき awareness の力」については、最近は、「マインドフルネス」という言葉とともに、その能力(機能)が少しずつ知られるようになりました。
「気づき awareness 」とは、単なる認知や認識とは違います。ましてや、思考とは別物です。
よく混同され、勘違いされている「メタ認知」などでもありません。それも単なる思考の延長です。
厳密にいうと、「気づき awareness 」は、実は、西洋的な認知の概念に収まりません(真の状態は定義不能です)。
むしろ、東洋思想やインド思想における、瞑想的段階や意識状態の理解の方が、気づき awareness を理解するのに適しているといえるでしょう。
「気づき/マインドフルネス」の機能は、私たちの通常の日常意識や思考、注意力に対して、より上位の、メタ的な位置と働きを持っているものです。
そして、その働きを正しく使っていくと、私たちの心理的統合と自由、成長を大いに促進するものなのです。
別の(逆の)言い方をすると、普段の私たちはほとんど「気づきを持たない状態」で生活しているといえます。
ゲシュタルト療法のセッションやマインドフルネス瞑想をきちん行なうと、このことに気づかれると思います。そのため、ゲシュタルト療法のセッション(ワーク)には、少し慣れる時間が必要となるのです。それは、心や感覚の力を育てる必要があるからです。
マインドフルネス瞑想を一般にひろめた立役者であり、「マインドフルネスとは、気づき awareness である」と語るカバットジン博士の言葉を見てみましょう。
「さて、瞑想をする時のように自分の心の動きに注意をしていくと、自分の心が、現在よりも過去や未来に思いを馳せている時間のほうがずっと長いことに気がつかれると思います。つまり、実際、“ 今”起きていることについては、ほんのすこししか自覚していない、ということなのです。そして、私たちは、“ 今”というこの瞬間を十分に意識していないために、多くの瞬間を失ってしまっているのです。この無自覚さがあなたの心を支配し、やることすべてに影響を与えるのです。私たちは、自分のしていることや経験していることを十分に自覚しないまま、多くの時を“ 自動操縦状態”で習慣的にすごしているのです。いわば半眠半醒の状態にあるようなものなのです。」(『マインドフルネスストレス低減法』春木豊訳、北大路書房) ※太字強調引用者
マインドフルネス=気づきとは、「今起きていることについて刻々気づく」「今という瞬間を充分に意識する」ということなのです。そして、博士は、マインドフルネス瞑想の実践について語ります。
「彼らが行っているのは、“ 何もしない”ということです。そして、一つの瞬間から次の瞬間へと連なっていく、一つひとつの瞬間を自覚し、意識するために、一つひとつの瞬間に意欲的に集中しようとしているのです。つまり、彼らは、“ 注意を集中する”トレーニングをしているのです。別の言い方をすれば、彼らは自分が“ 存在すること”を学んでいるともいえます。彼らは、何かをすることによって時をすごすのではなく、意図的に何かをするのをやめ、“ 今”という瞬間の中で、自分を解放しようとしているのです。心に気がかりなことがあったとしても、体が何か不快感を感じていたとしても、その瞬間の中で、意図的に、心と体に安息を与えようとしているのです。“ 生きている”ということ、“ 存在している”ということの本質に踏み込もうとしているのです。彼らは、何かを変えようとするのではなく、ただ自分の置かれているありのままの状況と共にその瞬間を過ごそうとしているのです。」(同書) ※太字強調引用者
次に、ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズの言葉を見てみましょう。
「『気づく』ことは、クライエントに自分は感じることができるのだ、動くことができるのだ、考えることができるのだということを自覚させることになる。『気づく』ということは、知的で意識的なことではない。言葉や記憶による『~であった』という状態から、まさに今しつつある経験へのシフトである。『気づく』ことは意識に何かを投じてくれる。」(パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版) ※太字強調引用者
また、
「『気づき』は常に、現在に起こるものであり、行動への可能性をひらくものである。決まりきったことや習慣は習された機能であり、それを変えるには常に新しい気づきが与えられることが必要である。何かを変えるには別の方法や考え、ふるまいの可能性がなければ変えようということすら考えられない。『気づき』がなければ新しい選択の可能性すら思い付かない。『気づき』と『コンタクト』と『現在』は、一つのことの違った側面であり、自己を現実視するプロセスの違った側面である。」パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版) ※太字強調引用者
ワークを通して、クライアントの方は、マインドフルネス的な静かな自己集中を行ない、このような〈気づき〉の状態をまざまざと体験していくこととなります。そして、その中で自分の底のさまざまな感情(欲求)に気づき、それらを取り出し、表現の中で解放していきます。そして、自分が人生で刻々と新しい行動をとれる存在であることを、新しい心の解放とともにまざまざと体感していくこととなるです。
では、以下で、セッションのプロセスを見ていきましょう。
①あつかうテーマを決める
通常、ワークのはじめに、クライアントの方が、そのセッションであつかってみたいテーマを挙げます。
テーマについては、それがクライアントの方自身の中で、感情的に強く存在するものであれば、なんでもあつかえます。
また、実際には、セッションに来た時点で、クライアントの方自身の中で、テーマが明確になっていないケースも多々あります。それでも、セッションは可能です。
ワークのとっかかりとしては、クライアントの方が、今現在、気になっていること(気持ち、出来事)を色々と話していく中で、ファシリテーターがその話を受けて、質問をしたり、焦点化することで、ワークのテーマを一緒になって考えるパターンも多いのです。
テーマはおおよそ、クライアントの方がその時、特に気になっている生活上の課題や不快に根ざしたテーマを取り上げていきます。「感情的」「制限的」に現れてきている事柄からは、解決策、治癒、変容、統合が得られやすいからです。それが、ゲシュタルト療法で言われる、緊急性の高いものが「ゲシュタルト」の前景にやって来るという意味合いです。
・今、課題や障害と感じていること(感情や行動)。
・今持っている心の迷い・葛藤・苦痛
・最近(また昔から)、気になっていること
・人生の課題で答えが欲しいこと
・気になる身体症状や夢
などを話されていく中で、その時、扱うのに相応しいテーマが浮上してきます。
また、ゲシュタルト療法のワークにおいては、「今ここ」の感覚(感情)に焦点化して、そこで現れてくる欲求(感情)に気づき、それを丁寧にたどっていくとで必ず重要な(核心的な)テーマにたどり着けるという確信(理論)があります。
そのため、はじめに設定するテーマについては、あくまでもとっかかりなので、あまり詰めて考えなくともいいといえるのです。
②感覚をひろげて、気づいていく
さて、ここからが、セッションの本編に当たる部分です。おおよそのテーマが決められた後、クライアントの方の持つテーマの内実を感覚的・感情(欲求)的に探索していく段階となります。
ところで、ワーク中に、クライアントの方に行なっていただくこといえば、心を静かにマインドフルネス(気づき)の状態になり、自分の奥から湧いくる感情(欲求)や感覚の動きに気づきを向け、それを表現してもらう、ということだけです。
ファシリテーターはそのシェアを受けて、その体験をさらに深めていただくための、またより深い展開を行なっていただくためのさまざまな焦点化や提案を行なっていくのです。
つまり、さまざまな体験や表現を、
・より感じてみたり、
・より気づきの焦点を当ててみたり、
・より大きく表現(変容)してみたり、
していくわけです。
このことで、変容が促進されるのです。
また、気づいて awareness いくことに関していえば、心をマインドフルネスの状態にして、「3つの領域」の主に内部領域で湧いてくる欲求(感情)を拾いあげ(ピックアップし)ていくことが行なっていただくことです。
3つの領域とは、別に記したように。ゲシュタルト療法が考える、注意力が向けられる3つの領域のことです。
①肉体の中の感覚世界や感情世界である内部領域
②まわりに見える外部世界を感じている外部領域
③思考や空想の行き交う中間領域 です。
→「気づき awareness の3つの領域」
ワークで重要となるのは、特に①の内部領域です。
そこに生きた感情(欲求)のもつれ(葛藤)が存在しているからです。
クライアントの方には、たえずご自分の内部・外部・中間領域で起こるさまざまな感覚や感情のシグナルに気づきを向けていただくわけです。
そのため、ワークの際中、ファシリテーターはしばしば問いかけます。
「今、何に気づいていますか?」
「今、何を感じていますか?」
「今、何を体験していますか?」
「今、何が起こっていますか?」
クライアントの方には、ワークの進行に合わせてさまざまな表現を行なっていきますが、常に戻ってくるのはこの地点です。この「気づき awareness 」の地点が、ワークのアルファ(始点)でありオメガ(終点)であるのです。
「その感じ(感情)を、充分に感じてみてください」
「その感覚(感情)に、充分に気づいてみてください」
このようにファシリテーターは言います。
その感覚・感情・欲求により焦点化して感じていただくためです。
その感情(欲求)の中にこそ「必要な答え」があるからです。
今ここで自分に起きている感覚や感情にただまっすぐに気づき、感じていくだけで、変容(治癒と解放)のプロセスは活性化し、私たちの調整機能はグッと深まっていくものなのです。
自分の内的欲求(感情、快苦)に今ここで刻々気づいていること、そこにすべての出発点と答えがすでにあるのです。
ゲシュタルト療法が「今ここのセラピー」といわれる所以です。
中間領域の思考や空想や連想に流されしてまうのではなく、それらに流されずに、内部領域の深い感情(欲求)プロセスにただ気づいていくという支点が、変容と統合をつくっていく要(かなめ)であるのです。
これが、気づき awareness の力の重要性なのです。
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さて、実際のワークの具体的場面(風景)をもう少し細かく説明しますと…
ファシリテーターは要所要所で、上記のように、クライアントの方の中で起こっている欲求(感情)について問いかけと確認を行なっていきます。クライアントの方にご自分の感覚を澄ましていただき、さまざまな感覚チャネルの欲求(感情)に気づいていただきます。気になっていることをシェアいただきます。例えば以下のようにです。
▼肉体の感覚・欲求に気づく
→胸のあたりにモヤモヤしたものを感じます。
→お腹のところに凝りの痛みを感じます。
→肩のところが急に重くなったように感じます。
▼視覚/イメージ/ヴィジョンに気づく
→昔の学校のクラスの風景が見えます。
→何か黒い塊のようなイメージがそこにあります。
▼聴覚/声/言葉に気づく
→こんな言葉のフレーズがしきりと浮かびます。
→知り合いが昔こんなことを言ってました。
→耳を刺すような硬い音が痛いです。
▼記憶に気づく
→こんな出来事が浮かんできました。
→こんな夢の場面を思い出しました。
クライアントの方のシェア(言葉)を受けて、ファシリテーターはさらなる焦点化やその奥にものを探るためのさまざまな提案を行なっていきます。
このようなやり取りを行なう中で、クライアントの方はご自身の中の「より気になる、核となる感情(欲求)」というものを明確にしていくこととなるのです。
そのプロセスを通じて、自己の内部への潜入がどんどんと深まっていくこととなるのです。
(また、深化/進化型のゲシュタルトにおいては、この過程でだんだんと軽度な変性意識状態(ASC)に入っていくということも起こってくるのです)
③深い感情(欲求)に焦点化し、気づいていき、表現する
さて、ゲシュタルト心理学の世界では、生体にとって緊急かつ必要な欲求(感情)が、「図」となって感覚の前景に現れてくると考えています。→ゲシュタルトとは何か
ワークの場面でいうと、気になった感情(欲求)というものは、そこに気づきを当てると、あたかも異物を吐き出すかのように、潜在意識が、その奥底の欲求(感情)を前面に押し出してくることとなります。
そして、その奥底の欲求(感情)を表出(放出/吐き出し/解放)していくと、心身の弛緩が起こり、さらにその奥底の欲求(感情)が出てくることとなるのです。
そのように、だんだんとエネルギーが流れてくるのです。そして、このような気づきと焦点化を深める中で、その欲求(感情)の深い本質が現れてくることになるのです。
そのプロセスが進む過程においては、肉体的に緊張の弛緩が起こったり、小さなアーハ体験(小さなサトリ)が起こったりします。何か「わかった感じ」に触れるのです。それが、ワークを進めるサインやシグナル、道標となります。
このようなプロセスでワークは進んでいきますが、探索が深まっていきますと、やがて少し大きめで強めの欲求(感情)の塊/鉱脈にたどり着くこととなります。
それは、緊張や葛藤や硬直といったけはいを持ちます。
これが、クライアントの方が、普段の日常意識ではなかなかつかまえられない核心的なテーマ(とその入口)であるのです。
テーマは、心の中でさまざまな形で存在しています。
ご自分の中にある複数の相反する欲求(感情、自我状態)が対立しているために、心にストップや制限をかける「葛藤状態」や、過去の体験が未消化に終わっているため、心の中でストップをかけている「未完了の体験(ゲシュタルト)」「やり残した仕事 Unfinished Business」などです。
ところで、「葛藤状態」や、「未完了の体験」というものは、通常、私たちの中では、記憶や抑圧の重層性にしたがって、ミルフィーユのように多層状になって構成(存在)されているものです。そのため、強い感覚にたどり着いたといっても、それは大概、入り口(表面)にたどり着いたに過ぎないのです。
そこから一皮一皮剥いて、さらにその奥底にある核心に向かっていくというのがワークのプロセスとなります。
ただ、ここにおいては、クライアントの方はすでに強いプロセスの流れの中におり、また、一種の変性意識状態(ASC)に入っているため、比較的スムーズにそのプロセスの奥底まで探求(追跡)していくことができるのです。
ワークが終わった後で、まるで別世界(異界)に入って行った体験だったと振り返ることが多いのもそのためです。
◆ゲシュタルト療法の介入技法の意味 (心を可視化する)
ところで、ゲシュタルト療法といえば、エンプティ・チェア(空の椅子)の技法や、身体の動きや表現を使った技法など、比較的派手な?技法がイメージされがちです。
これらの技法は、そもそも何の効果を狙ったものかといいいますと、上で見たような感情(欲求)により焦点化したり、増幅(促進)するために行なうものなのです。
通常、私たちの感情というものは、悶々とした塊の状態(俗にいうモヤモヤ)にあり、その感情のさまざまな内訳(内容明細)を、私たちは明確にはとらえられてはいません。また、ワークの最中においても、さまざまな感情がもつれつつ行き交っているので、その中にどんな感情があるのかよく分からないのです。
この個々の感情のゲシュタルト(背後の自我状態)を明確にして、解放(解消)していくのが、プロセス展開の肝となります。
そうすると、より深い階層の感情(欲求)にアクセスしていくことができるようになるからです。
技法的な工夫によって、このゲシュタルトを明確にし、「心を可視化」し、欲求(感情)を表出しやすくするというが各種の技法的介入の意味なのです。
クライアントの方の欲求(感情)を焦点化したり、切り分けたり、増幅したりするためにこれらの技法を使うのです。
【例】
「その感覚は、からだのどこにありますか?」
「からだのその部分は、なんと言っていますか?」
「たとえば、○○と言ってみる(表現してみる)のはどうですか?」
「実際にそう言ってみて、どんな感じがしますか?」
「たとえば、この椅子に、その○○という感覚を取り出すことができますか?」
「ここに置いたその感覚/気持ちは、どう見えますか?」
といったような具合です。
このようにして、現れてくる欲求(感情)のゲシュタルトを細かく感じて、表現していくと、そのゲシュタルトの感情(欲求)は解放・解消されていきます。
そして、心のさらに深い層の欲求(感情)が、さらに前景(表面)に出てくるようになるのです。
④気づきを深め、欲求(感情)を展開・変容させる
さて通常、私たちの欲求(感情)というものは、或る程度深い欲求(感情)の気づきが得られ、表現を通して解放された後でも、底の方では、さまざまな別の欲求(感情)が残っている(待機している)ものです。
前に触れたように、欲求(感情)はミルフィーユのように幾層にも渡って、層状に構成されているものだからです。
それら表層のものから次々と解放を行なっていき、ある程度、核心的な層(腑に落ちる層)の感情(欲求)を解放することまでをワークでは目標とします。
そのように、人間の心は層状に(本当はクラスター状に)積み重なって構造化されているので、或る心のテーマ(欲求・感情)が解放されると、その下の層からさらなる次のテーマ(欲求・感情)が、自然に浮上してくることになります。
このプロセスの繰り返しにより、心のより深い層まで探索していけることとなり、日常生活では予想もできなかったような深い解放と変容、統合を得ることができるのです。
このプロセスをゲシュタルト療法では、「玉ねぎの皮むき」と呼んでいるのです。
この深化と解放のプロセスは、詳述すると大変な量になってしまうので、詳細は、別セクションをご覧いただければと思います。
→5層1核 感情表現(表出)の階層性
そして、この探索の深まりと解放の次元の深さが、通常のカウンセリングやコーチング、NLPなどと較べた場合の、ゲシュタルト療法の持つ圧倒的な効果の秘密でもあるのです。また、さきに引用したような、ある種、アーノルド・ミンデルが指摘するようにシャーマニズム的な深さでもあるのです。
(補注1)変性意識状態(ASC)の体験とスキル
さて、古典的・教科書的なゲシュタルト療法では、よく理解されていないことですが、重要な要素でもある変性意識状態(ASC)について少し補足説明してみたいと思います。
ワークのプロセスの中で、自分の感情(欲求)に深く没頭していく過程で、クライアントの方は、だんだんと変性意識状態(ASC)に入っていくこととなります。それが理由で、普段は気づけない微細な事柄に色々と気づけたり、普段行なわないような表現を(あまり恥ずかしさも感じずに)大胆に行なえるようになるのです。
これは、変性意識状態(ASC)においては、日常意識の硬化した価値観や感覚が希薄になり、潜在意識の欲求(感情)によりダイレクトなつながり、それを表現したくなるからです。
そして、変性意識状態(ASC)自体が、クライアントの方の深部にある自律性を増大させ、解放や創造的な統合状態へと運んでいくことにもなるのです。
くわえて、変性意識状態(ASC)は、クライアントの方が普段同一化している日常意識から、クライアントの方を強く解き放つ作用も持ちます。これがワークの中で、クライアントの方が、しばしば、超越的でトランスパーソナルな(個人性を超えた)新世界を体験する理由でもあるのです。それはしばしば、鮮やかな知覚的光明に満ちた意識拡張体験になったりもするのです。
(補注2)体感を通した表現スキルの獲得
ところで、また、ゲシュタルト療法の特徴でもありますが、クライアントの方には、実際に感じた欲求(感情)について「心身で体感を通して」表現していただくことを行ないます。心身一元論的な理論に裏付けられたものですが、ここが重要なポイントとなります。
このような身体的アウトプット(表出・表現・外在化)の体験が、クライアントの方の心身の中で組織化され、心理的統合と表現力の決定的な力となっていくからです。
それは、頭の中(中間領域)だけではなく、実際に「物理的(内部領域・外部領域)に」表現することは、心身の神経的・脳的・物理的・エネルギー的に直接作用することになるからです。肉体動作を通して、その体感エネルギーを通して、物理的・神経的に書き換えることになるからです。
そのため要所要所で、ファシリテーターは、クライアントの方の物理的な表現を促していくこととなります。
それはそれがとても決定的な統合(心身の組織化)の効力を持つためであるからなのです。
さて、クライアントの方は、ワークの中でこのような気づきと物理的表現、小さなアーハ体験を繰り返す中で、やがてひとつの感情的な納得、統合的な腑に落ちる段階(地点)に到達することとなります。
その地点で、ひと一区切りの創造的解決(解放と統合)がもたらされるのです。
そして、クライアントの方のある種の解放感、充実感、統合感、着地感をもって、ワークは終了していくのです。
クライアントの方にとってその感覚は、自分の本当にやりたいことを、葛藤や妨げなくできるような充実感、もしくは自分の欲求がひとまとまりになったような統合感、集中された「まとまり感」、主体感として感じられるものとなるのです。
⑤現実に着地(統合)する
ワークの最後の段階では、クライアントの方の深い部分から出てきたばかりの、まだ柔らかい新しい欲求(感情)、統合感を、日常生活で充分に活かしていけるか確認を取っていきます。
ワークの異界(変性意識)の中でとらえられた、その新しい欲求(感情)感覚が、日常的現実できちんと活かされるように統合的調整をとっていきます。
新しい心の要素(意欲、能力、欲求)は、過去の人生の中で理由があって抑圧されていた自我の要素となります。
そのため、その新しい自我(意欲、能力、欲求)が、既存の日常生活の中でもしっかりと自立し、新しい力を発揮できるように居場所と防具(結界)を持つことが大切となるのです。
そのため、ワークの最後の場面では、(変性意識状態から抜け出ていくとともに)新しく現れてきた自我状態(意欲、能力、欲求)と既存の自我状態との統合を定着させていきます。
外部領域との接続・統合を深めていきます。
具体的な手法としては、現実の実務的な場面のリハーサルや、(グループの場合などは)「巡回対話の技法」など色々ありますがここでは省略いたします。
この場面は、ワークとしては、新しい自我状態をサポートし、たくましく育てていく方向づけとして、決定的に重要な場面(局面)でもあるのです。
⑥ワークの終了
クライアントの方が、日常意識と日常感覚の中で、統合感(着地感)をしっかりと得られたと確認された段階で、ワークは終了します。ワークの空間が閉じられていきます。
さて、以上、長くはありましたが(また大枠を単純化して書きましたが)、ワークの中核的なプロセスを解説いたしました。
実際のワークは、クライアントの方のさまざまな想いや逡巡を探索しつつ、あちこちに寄せては返す波のように行きつ戻りつしながら進んでいくものです。
しかし、展開するそのプロセスの背後(核心)には、クライアントの方が元来持っているパワフルで素晴らしい自律性と創造的変容の力が必ず待っているものなのです。
そして、このようなワークの探索を通じて、クライアントの方の人生は、確実に変化・変容していくものであるのです。ぜひ実際のワークを体験してみていただければと思います。
【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
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変性意識状態(ASC)のより総合的な方法論は拙著↓
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。