セッション(ワーク)の実際【詳細版】 

【内容の目次】

セッション(ワーク)の構造とその文化的普遍性
セッション(ワーク)の流れ【要約版】
【詳細解説】ワークとは

 0.信頼できる安全な空間(場)
 ①あつかうテーマを決める
 ②感覚をひろげて、気づいていく
 ③深い感情(欲求)に焦点化し、気づきと表現を深める
 ④気づきを深め、感情(欲求)を展開する。体験を通して変容する
 ⑤現実に、より着地(統合)する
 ⑥ワークの終了


▼セッション(ワーク)の構造とその文化的普遍性

※セラピーにおいては、セッション時間の中に、或るテーマを扱う「ワーク」というものがあるのですが、一般になじみのない概念/言葉ですので、ここでは互換的に使っていきたいと思います。

さて、当スペースで行なっているセッション(ワーク)は、深化/進化型のゲシュタルト療法となります。
一見したところは外観は、通常のゲシュタルト療法のセッション(ワーク)と同じですが、より本来のゲシュタルト療法のプロセス指向、流動性、即興性、創造性をベースに、変性意識状態(ASC)を利用して、さらには他の流派の方法論も取り込んで、クライアントの方が、よりご自身の深い変容や統合を進めていただけるように深化発展させた形となっています(※注1)

ところで、ゲシュタルト療法のセッション(ワーク)というものは、感覚に浮上してくる「ゲシュタルト」―刻々、瞬間瞬間の感情や感じ、心やからだの気になること―に丁寧に気づいて、感情表現するプロセスとともにじっくりと進んでいきます。
感情表現がメイン(主)であり、論理的・理性的に表現することに、あまり効果は期待できません。理性に、心の実体をつくるエネルギーはないからです。
あくまでも、心の実体をつくるエネルギーは、感情(欲求)なのです。フロイト的にはいえば、リビドーです。
(「思考を離れ、感覚になれ」―フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法創始者))
そのため、その展開はとてもナチュラル(自然)で、人間の生理的プロセス、生体組織の自律的な治癒過程をたどっていくものとなっています。
感情は生理的プロセスだからです。
そのため、興味深いことに、セッション(ワーク)のプロセス/体験過程というものは、昔から知られている、古今東西の「昔話」「おとぎ話」「神話」のストーリーと大変似かよったプロセスをたどっていくことになるのです。
人類学や神話学などが指摘するように、
昔話や神話とは、人類が長い歴史的な時間をかけて、自らの心の姿(構造)を映し出したものであり、私たちの深層的な心の構造が映し出されているものであることを考慮すると、それも納得のいく話かと思われます。
そのパターンとは、
「主人公が、別世界(異界)に冒険に行って、怪物(モンスター/影/シャドー)を倒し、魔法の力(癒し、秘密のパワー、宝物、変容)を獲得して、元の世界に戻ってくる」
という形です。
セッション(ワーク)も、短い時間の間に、このような冒険物語(英雄の旅/ヒーローズ・ジャーニー)に似たプロセスをたどっていくのです。
この文化的に普遍的なパターンが、私たちの心にとって強い納得性を持つものであるがために、ハリウッド映画のシナリオ作成などにも、ジョゼフ・キャンベルの「神話モデル(英雄の旅)」の枠組みが下敷きに使われる理由ともなっているのです。
英雄の旅 (ヒーローズ・ジャーニー) とは何か

さて、当スペースの深化/進化型のゲシュタルト療法セッション(ワーク)も、そのような神話物語のストーリーと似たパターンを持っています。
この類似性は、ワーク(セッション)というものが、まさに、人間心理の普遍的構造に根ざした「刷新(再生)のメカニズム」であることを意味しているのです。
そのため、ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズが「自分はゲシュタルト療法の創始者ではなく、再発見者にすぎない」「ゲシュタルト療法は地球の歴史と同じくらい古い」と言ったのはそのような意味合いからです。
そのため、ゲシュタルト療法は、狭い心理療法というだけではなく、潜在意識のさまざまな領域(可能性と創造性)を探り、解放するのに、とても最適なメソッドとなっているのです。
それは、ゲシュタルト療法のグループ界隈の人よりも、むしろ外部から気づかれることの方が多い事柄ともいえます。
たとえば、ユング心理学の流れをくむプロセスワーク(プロセス指向心理学)の創始者アーノルド・ミンデルはこう指摘します。

「現代のゲシュタルト療法の創始者であるフリッツ・パールズは、先住文化のシャーマンがいれば間違いなく仲間として歓迎されたであろう。パールズは、自己への気づきを促すために、夢人物(ドリーム・フィギュア)や身体経験との同一化ならびに脱同一化法を用いた。そして、モレノの「サイコドラマ」から、夢見手が自分や他者を登場人物にすることによって夢の内容を実演化する方法を借用している」(ミンデル『ドリームボディ』藤見幸雄監訳、誠信書房)

このあたりの要素が、ゲシュタルト療法を、単なる凡庸な心理療法を超えて、トランスパーソナル心理学や、ホドロフスキーの「サイコマジック/サイコシャーマニズム」につながる、可能性に満ちた解放メソッドとして、深化/進化型に展開できる要素ともなっているのです。奇しくも、筆者自身も、20年前から、「ゲシュタルト・シャーマニズム」というコンセプトを見出していた理由でもあるのでした。

そして、さらには、トランスパーソナル心理学ケン・ウィルバーも指摘していることですが、(そして日本ではほとんど理解されていないことですが)ゲシュタルト療法のような実存的で心身一元論的セラピー(ウィルバーはケンタウロスのセラピーと呼びます)というものは、その体験と統合を充分に深めていくと、隣接した「個人性を越えた超越(超出)的領域」「トランスパーソナル(超個的)な領域」が自然に開いていくことにもなっているのです。
実際、ウィルバーは、次のように、その証拠(事例)として、ゲシュタルト療法でのセッション風景を取り上げてもいるのです。日本では、認知度・理解度ともに低い事柄ですので、少し長い文章になりますが、引用しておきましょう。また、文中に「微細(サトル)」「微細(サトル)エネルギー」「微細(サトル)」等、物質(粗大)次元を超えたものを表現する「東洋/アジア」の概念が出てきますが、こちらは、→「.東洋的モデル(諸相)の示唆」をご参照ください。アメリカ人に教えられるのも変ですが…。

「自我的、文化的な図式化の被覆を取り除かれた感覚意識そのものが、覚醒時の領域に衝撃的ともいうべき鮮明さと豊かさを持ち込んでくる。さらにここまでくると、感覚意識はもはやただの“植物的”ないし“動物的”なものでも、単に“有機的”なものでもなく、より高次の微細(サトル)エネルギーや超個的な諸エネルギーの流入した一種の超感覚的意識になってくる。オーロビンドはいう。『内なる諸感覚を利用して――つまり、感覚力そのものの純粋で……微妙な活動……を用いて――われわれは感覚経験を認識し、周囲の物質的環境の組成に属さない事物の姿やイメージを認識することができる』。
 この“超感覚的”意識は、多くのケンタウロス・セラピストによって報告されており(ロジャーズ、パールズほか)、ダイクマンによって論ぜられ、神秘的洞察の初期段階の一つとしても知られているものである(人がケンタウロスのレベルに上昇し、さらにそれを超越するにつれて現れる)。
 思うに、実存主義の人々さえ、ときとしてさまざまな“超個的”リアリティ――彼ら自身の言葉である――を直観しはじめることがあるのはこの理由によるものだろう。フッサールもハイデッガーもそろって、しだいに超越的哲学への傾きを強めていった(マルセル、ヤスパース、ティリッヒなどの有神論的実存主義者たちはいうまでもない)。メイ博士自身、「非個的なところから個的なものをへて、超個的な意識次元へ向かう」運動について語っている。
 そして、ゲシュタルト・セラピーにおけるフリッツ・パールズの偉大な後継者の一人ジョージ・ブラウンは――なお、パールズ自身、ゲシュタルト・セラピーは純粋な実存主義のセラピーであると認めている――〈今ここ〉への集中というケンタウロス的変換を与えられた個人が、やがて一つの袋小路に突きあたるさまを次のように描写している。
 袋小路はさまざまに言い表すことができる。そこには超個的な諸エネルギーがかかわっており、人々は浮遊感、静けさ、平和といったものを口にする。しかし、われわれはそこで無理強いはしない。『けっこうです。つづけて、自分に何が起こっているか報告してください』と答える。そしてときには、そこに何か触れることのできるものがあるかどうかと尋ねる。もしできなければそれでいい。それができた場合、よくある例として何か光が見えはじめる〔真の微細領域〕。これは、超個的段階への動きと考えよいだろう。光が見えると、人々はしばしばそれに向かっていく。すると、戸外に出て、太陽が輝き、緑なす樹々や青い空、白い雲といった美しいものがある。それから、その体験が完了して目を開くと、色彩は前よりも鮮明になり、ものがずっとはっきり見え、知覚力が高まっている〔超感覚的ケンタウロスの意識〕
 その時点で、彼らはもろもろの幻想や病理によってかぶせられていたフィルター〔自我的・メンバーシップ的フィルター〕を切り払ったのだ。こうして見ると、実存的ケンタウロスは、単に自我、身体、ペルソナ、影(シャドウ)のより高次の統合であるばかりでなく、同時に、さらに上位にある微細(サトル)および超個的諸領域への主要な転換点でもある(スタニスラフ・グロフの研究は、これを強力に裏づけるものであることに注意)。このことは、ケンタウロスの“超感覚的”モードについても、直観、志向性、ヴィジョン・イメージといったその認識プロセスについてもいえることである。それらはすべて、超越と統合を実現したより上位の領域の前ぶれにほかならない

ケン・ウィルバー『アートマン・プロジェクト』吉福伸逸他訳(春秋社)
※太字強調引用者



さて、それでは、以下では、当スペースの、「深化/進化型のゲシュタルト療法」のセッションが、どのようなプロセスを持つものかを解説していきたいと思います。

(※注1)もともと、ゲシュタルト療法には、ファシリテーターによって、さまざまなタイプがあります。「普通のゲシュタルト療法」や「標準的なゲシュタルト療法」というものはありません。最近、自己啓発系のメソッドやNLP(神経言語プログラミング)などの出来合いのフォーマットを当てはめる、マニュアル型メソッドが流布したせいか、セッションとは、なにか出来合いのフォーマットを、個々人のケースに当てはめるものだと勘違いしている人もいます。
しかし、ゲシュタルト療法のセッション(ワーク)は、そういう「型にはまった」ものではありません。音楽の即興演奏のように、その場に現れてきたクライアントの方のプロセス(コード)に合わせて、自由自在に展開するものなのです。そして、ファシリテーターの個性や能力によって、セッション(ワーク)のタイプは千差万別です。ゲシュタルト療法に興味がある方は、実際にもさまざまなファシリテーターのセッション(ワーク)を体験してみて、その多様さやレベルの違いをご自身で確かめてみていただければと思います。

 

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。
おとぎ話や神話が持つ、深い意味合いは、コチラ↓
『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
変性意識や気づきについての入門は、コチラ↓
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」



体験者(お客さま)の声より

ミラクルな体験でした。予測だにしなかったこと。
まさに welcome to the new world でした!
ワークを体験したことで、なにかこの世界に対しての核心のようなものを得ることができたと思いました。愛の雲に明晰さという光のスペクトルが限りなく広がっていく、まるで最後には荒野からその上空の雲海に舞い上がったような体験でした。これは自分にとって世界への確信的な自覚でもありました。まさに新世界。この意識経験は、世界に対しての絶対に信頼できる体験というか、これまでのそして今後の自分の人生のクサビというか、転換点になるような体験でした。 (O・Hさん 男性40代)


セッション(ワーク)の流れ【要約版】

0.信頼できる安全な空間(場)
…クライアントの方が、安心して探求できる空間がつくられます。

①あつかうテーマを決める
…クライアントの方に、セッションであつかうテーマを決めていただきます。もしくは、ファシリテーターと一緒に決めていきます。

②感覚をひろげて、気づいていく。
…クライアントの方に、テーマに関連した出来事や感覚を話していただき、関連した気になる感覚・感情を、自分の心身の中に探っていただきます。ファシリテーターが、問いかけ、焦点化、提案を行なっていきます。

③深い感情(欲求)に焦点化し、気づきと表現を深める
…その場に現れている、気になる感覚・感情を充分に体験していっていただきます。その感覚の奧(背後)にあるものを次々に感じ探っていきます。追跡していきます。(このプロセスへ没入の中で、クライアントの方は軽度な変性意識状態(ASC)にも入っていきます。これが深化/進化型セッションの違いです)

④気づきを深め、感情(欲求)を展開する。体験を通して変容する。
…見出した感情・感覚の深い姿に気づいたり感じたりしていって、その都度、表現・表出していただきます(ゲシュタルトを明確にしていきます)。そうすると、小さな欲求(感情)が解放され、自然に、より深い感情(欲求)が出やすくなります。そのように、感情(欲求)の発露プロセス(自律性)が活性化し、さらなる感情(欲求)発露のプロセスが続きます。
その中で、分裂した自我状態の葛藤などが現れてくるので、エンプティ・チェアの技法などを使って、その自我状態を明確にし、その深層にある感情(欲求)のもつれをほどいていきます。解放と統合が起こっていきます。
(意図せずに、クライアントの方は、深い変性意識状態(ASC)にあります)

(付記)……変性意識状態の中では、クライアントの方は、普段、同一化している日常的自我や日常意識から離脱して、さまざまな深層意識、潜在意識の内容に気づくことができます。

⑤現実に、より着地(統合)する
…新たに見出したご自身の新しい統合的状態、欲求(感情)を、日常生活で支障なく活かせる感覚を確認します。クライアントの方は日常意識を取り戻しはじめます。しかるべき「統合」の感覚を得ます。

⑥ワークの終了
…クライアントの方が、日常意識と日常感覚の中で、統合感(着地感)がしっかりと得られたと感じられた時点でワークは終了します。ワークの空間を閉じます。


動画「セッション(ワーク)の実際」


【詳細解説】


▼ワークとは

ゲシュタルト療法では、セッションの中で、自らの心理的テーマに取り組み、それを解決していく作業 work のことを「ワーク」work と呼びます。
ゲシュタルト療法同様、米国西海岸系の体験的心理療法では、クライアントとして或るテーマに取り組むことをよく「ワーク work (作業)する」と言います。そのため、厳密にいうと、セッション時間の中に「ワーク」という「取り組みの単位」があるという構造になっています。

さて、ワークは、クライアントの方とファシリテーターとの相互のやりとりで、進行する取り組みのものとなっています。1つのワークは、大体30分~90分くらいかけて行なわれます。

ここでは、実際にゲシュタルト療法のワークでは、どのような事柄が行なわれるのかについて描いてみたいと思います。クライアントの方がどのようなことをして、内的体験して、どのように解放や心理的統合を得るのかについて、そのプロセスについて描いてみたいと思います。

古典的なゲシュタルト療法はグループセラピーですので、ワークを希望するクライアントの方が挙手をして参加者皆の前で、ファシリテーターとワークを行ないます。個人セッションの場合は、クライアントの方とファシリテーターと二人で以下のようなことを行なっていきます。

◆気づき awareness の力の重要性

ところで、ゲシュタルト療法のセッションにおいては、クライアントの方にご自分の感情や欲求に刻々と「気づいてawareness」、感じていただき、表現してもらうということを行なっていただきます。
これがセッションの核心となります。
この点、「気づき awareness の重要性」をまず、ワークの前提として解説しておきたいと思います。
私たち現代人は、普通に育って生きている限り、このような「気づき awareness 」の能力を使うことは一切ないからです。

さて、この「気づき awareness の力」については、最近では「マインドフルネス」という言葉とともに、その本当の能力(機能)が知られるようになってきました。
「気づき awareness 」とは、単なる認知や認識とは違います。ましてや、思考とは別物です。
よく混同され、勘違いされている「メタ認知」などでもありません。それも思考の延長です。
厳密にいうと、「気づき awareness 」は、西洋的な認知の概念に収まりきりません。
インド思想における、瞑想的段階や意識状態の理解の方が、気づき awareness を理解するのに適しているといえます。

「気づき/マインドフルネス」の機能は、私たちの通常の日常意識や思考、注意力に対して、より上位の、メタ的な位置と働きを持っているものなのです。これが事態の核心です。そして、その働きを正しく使うと、私たちの心理的統合と自由、成長を大いに促進するものなのです。
逆の言い方をすると、普段の私たちはほとんど「気づきを持たない状態」で生活しているといえるのです。
ゲシュタルト療法のセッションやマインドフルネス瞑想をきちん行なうと、このことに気づかれると思います。

マインドフルネス瞑想を一般にひろめた立役者であり、「マインドフルネスとは、気づき awareness である」と語るカバットジン博士の言葉を見てみましょう。

「さて、瞑想をする時のように自分の心の動きに注意をしていくと、自分の心が、現在よりも過去や未来に思いを馳せている時間のほうがずっと長いことに気がつかれると思います。つまり、実際、“ 今”起きていることについては、ほんのすこししか自覚していない、ということなのです。そして、私たちは、“ 今”というこの瞬間を十分に意識していないために、多くの瞬間を失ってしまっているのです。この無自覚さがあなたの心を支配し、やることすべてに影響を与えるのです。私たちは、自分のしていることや経験していることを十分に自覚しないまま、多くの時を“ 自動操縦状態”で習慣的にすごしているのです。いわば半眠半醒の状態にあるようなものなのです。」(『マインドフルネスストレス低減法』春木豊訳、北大路書房) ※太字強調引用者

マインドフルネス、気づきとは、「今起きていることについて刻々気づく」「今という瞬間を充分に意識する」ということなのです。そして、マインドフルネス瞑想の実践について語ります。

「彼らが行っているのは、“ 何もしない”ということです。そして、一つの瞬間から次の瞬間へと連なっていく、一つひとつの瞬間を自覚し、意識するために、一つひとつの瞬間に意欲的に集中しようとしているのです。つまり、彼らは、“ 注意を集中する”トレーニングをしているのです。別の言い方をすれば、彼らは自分が“ 存在すること”を学んでいるともいえます。彼らは、何かをすることによって時をすごすのではなく、意図的に何かをするのをやめ、“ 今”という瞬間の中で、自分を解放しようとしているのです。心に気がかりなことがあったとしても、体が何か不快感を感じていたとしても、その瞬間の中で、意図的に、心と体に安息を与えようとしているのです。“ 生きている”ということ、“ 存在している”ということの本質に踏み込もうとしているのです。彼らは、何かを変えようとするのではなく、ただ自分の置かれているありのままの状況と共にその瞬間を過ごそうとしているのです。」(前掲書) ※太字強調引用者

次に、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズの言葉を見てみましょう。

「『気づく』ことは、クライエントに自分は感じることができるのだ、動くことができるのだ、考えることができるのだということを自覚させることになる。『気づく』ということは、知的で意識的なことではない。言葉や記憶による『~であった』という状態から、まさに今しつつある経験へのシフトである。『気づく』ことは意識に何かを投じてくれる。」(パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版) ※太字強調引用者

そして、

「『気づき』は常に、現在に起こるものであり、行動への可能性をひらくものである。決まりきったことや習慣は習された機能であり、それを変えるには常に新しい気づきが与えられることが必要である。何かを変えるには別の方法や考え、ふるまいの可能性がなければ変えようということすら考えられない。『気づき』がなければ新しい選択の可能性すら思い付かない。『気づき』と『コンタクト』と『現在』は、一つのことの違った側面であり、自己を現実視するプロセスの違った側面である。」パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版) ※太字強調引用者

ワークを通して、クライアントの方は、マインドフルネス的な静かな自己集中を行ない、このような〈気づき〉の状態をまざまざと体験していくこととなります。そして、その中で自分のさまざまな感情(欲求)に気づき、それらを取り出し、解放していきます。そして、自分が人生で刻々と新しい行動をとれる存在であることを、新しい心の解放とともにまざまざと体感していかれることになるのです。


0.信頼できる安全な空間(場)


さて、まずワークでは、それが行なわれる「場/空間」の性質が大切な要素となります。
これは、どんなセラピーにおいても重要な点ですが、きちんと取り上げられていないので、ここでは、「前提」となる要素として触れておきたいと思います。
この「安全な場/空間づくり」は、第一にはファシリテーターの仕事(役割)です。そのため、通常ファシリテーターからクライアントの方へその空間でのルールや取り決め事項などをさまざまな事柄を説明させていただきます。そして、クライアントの方の疑問や疑念に、クリアに答えられなければなりません。
一方、クライアントの方には、そのセッション空間やファシリテーターの存在(人格の統合レベル/質)信頼に足るものであるか否かを、ご自分の感覚/嗅覚/直観で確かめていただく必要があります。
ファシリテーター自身が達成していない「人格統合のレベル」を、ファシリテーターは、クライアントの方に提供することはできません。そのため、クライアントの方は、そのあたりのレベルも、よくよく感じとっていただくように努める必要があるのです。

さて、ワークが効果的に行なわれるためには、クライアントの方にとって、その空間(ワークショップ、セッション・ルーム)が「安心できる、守られた空間」であることが大切となまりす。
それがなければ、クライアントの方は安心して、自分自身の心の底に降りていき、深い感覚や深い感情に気づいたり、触れたりすることなどできないからです。ましてや話したり表現することなどはできないからです。

(また、「とても安心できる信頼できる空間である」と、クライアントの方が本心で感じたならば、プロセスの中で、クライアントの方はごく自然な形で意識の変容状態である変性意識状態(ASC)に入っていくことにもなるからですそして、その状態は、自然治癒のような形でクライアントの方の深い潜在意識を活性化させ、癒し(統合)を行なうセラピーの大きな下支えとなってくれるのです。伝統的な儀式、ネイティブ・アメリカンの儀式(セレモニー)などからは、このことの深い智慧を強く学ぶことができます)

そのためにも、セッションの空間が、信頼できる空間であるか否かというのは、セラピー全般にとって、とても重要な要素となっているのです。クライアントの方はこの部分については、その時の周りの意見や情報に振り回されずに、ぜひご自身の直観や嗅覚を信じていただければと思います。


①あつかうテーマを決める


通常は、ワークのはじめに、クライアントの方が、そのセッションであつかってみたいテーマを挙げます。テーマについては、それがクライアントの方自身の気持ちに(感情的に)強く訴えているものであれば、すべてあつかえます。
実際のところは、セッションに来た時点でも、クライアントの方自身が自分のテーマが何なのか明確になっていないケースもとても多いものです。
「とりあえず、何か探ってみたくて来た」というパターンです。しかし、それでも全然かまわないのです。

実際、ワークのとっかかりとしては、クライアントの方が、今現在、気になっていること(気持ち、出来事)を色々と話していかれる中で、ファシリテーターがその話を受けて、質問をしたり、焦点化することで、ワークのテーマを一緒になって見つけていく(提案させていただく)というパターンも多いのです。

テーマはおおよそ、クライアントの方がその時、特に気になっている生活上の課題や願望、快苦に根ざしたテーマを取り上げていきます。今現在の、気持ちの中で「感情的」に表に現れてきている事柄からは、解決策、治癒、変容、統合が得られやすいからです。それが、ゲシュタルト療法で言われる、緊急性の高いものが「ゲシュタルト」の前景にやって来るという意味合いです。

・今、課題や障害と感じていること(感情や行動)。
・今持っている心の迷い・葛藤・苦痛
・今、自分が強く望んでいる事柄
・人生の中で達成したいテーマ

・最近(また昔から)、気になっていること
・人生の課題で答えが欲しいこと
・気になる身体症状や夢

などを話されていく中で、その時、扱うのに相応しいテーマが浮上してきます。

いくつかテーマを用意しておいて、ワークの直前に「心の中で高まってきた事柄」があつかうのにもっとも適したテーマです。それは心自身が発しているシグナルだからです。

ところで、ゲシュタルト療法のワークにおいては、以下に見るように、「今ここ」の感覚(感情)に焦点化して、そこで現れてくる欲求(感情)に丁寧に気づき、それをたどっていくことで必ず重要な(核心的な)テーマにたどり着けるという考え方(理論)があります。そのため、はじめに設定するテーマについては、あまり詰めて考えなくともいいといえるのです。


感覚をひろげて、気づいていく


さて、ここからが、セッションの本編に当たる部分です。おおよそのテーマや方向性が決められた後、クライアントの方の持つテーマの内実を感覚的・感情(欲求)的に探索していく段階となります。

ところで、ワークの最中に、クライアントの方に行なっていただくこといえば、基本的には、心を静かにマインドフルネス(気づき)の状態になり、ご自分の奥から湧いくる感情(欲求)や感覚の動きに、気づきを向け続けていき、それを表現してもらうということだけです。

ファシリテーターはそのシェアを受けて、その体験をさらに深めていただくための、またより深い展開を行なっていただくためのさまざまな焦点化や提案を行なっていくのです。
そして、クライアントの方には、それら提案に興味が湧いた場合にのみ、また自分の心の表現としてそれが「ピッタリ来た」「興味が湧いた」「響いた」と感じられた場合に、それらを「実際に行なって」いただくのです。
また、ご自身で「よりぴったりとした表現」「別にもっとやりたいこと」が浮かんできた場合は、それを行なっていただきます。

つまり、さまざまな体験や表現を、
・より感じてみたり、
・より気づきの焦点を当ててみたり、
・より大きく表現してみたり、
していくわけです。

また、気づいて awareness いくことに関していえば、心をマインドフルネスの状態にして、「3つの領域(主に、内部領域)」湧いてくる欲求(感情)を拾いあげ(ピックアップし)ていくことが行なっていただくことです。
3つの領域とは、別に記したように。ゲシュタルト療法が考える、注意力が向けられる3つの領域のことです。

①肉体の中の感覚世界や感情世界である内部領域
②まわりに見える外部世界を感じている外部領域
③思考や空想の行き交う中間領域 です。
→「気づき awareness の3つの領域」

ワークで重要なのは、①の内部領域です。
そこに生きた感情(欲求)のもつれ(葛藤)が存在しているからです。
クライアントの方には、
たえずご自分の内部・外部・中間領域で起こるさまざまな感覚や感情のシグナルに気づきを向けていただくわけです。

そのため、ワークの際中、ファシリテーターはしばしば問いかけます。

「今、何に気づいていますか?」
「今、何を感じていますか?」
「今、何を体験していますか?」
「今、何が起こっていますか?」

クライアントの方には、ワークの進行に合わせてさまざまな表現を行なっていきますが、常に戻ってくるのはこの地点です。この「気づき awareness 」の地点が、ワークのアルファ(始点)でありオメガ(終点)であるのです。

「その感じ(感情)を、充分に感じてみてください」
「その感覚(感情)に、充分に気づいてみてください」

このようにファシリテーターは言います。
その感覚・感情・欲求により焦点化して感じていただくためです。
その感情(欲求)の中
にこそ「必要な答え」があるからです。
その感情(欲求)とそこに在るものが「必要な答え」を知っているからです。
今ここで自分に起きている感覚や感情にただまっすぐに気づき、感じていくだけで、変容(治癒と解放)のプロセスは自然に活性化し、私たちの調整機能はグッと深まっていくものなのです。

自分の内的欲求(感情、快苦)に今ここで刻々気づいていること、そこにすべての出発点と答えがすでにあるのです。ゲシュタルト療法が「今ここのセラピー」といわれる所以です。

中間領域の思考や空想や連想に流されしてまうのではなく、それらに流されずに、内部領域の深い感情(欲求)プロセスにただ気づいていくという支点が、変容と統合をつくっていく要であるのです。
これが、気づき awareness の力重要性なのです。

………………………………………………………………………………

さて、ワークの具体的場面(風景)をもう少し細かく説明しますと…

ファシリテーターは要所要所で、上記のように、クライアントの方の中で起こっている欲求(感情)について問いかけと確認を行なっていきます。クライアントの方にご自分の感覚を澄ましていただき、3つの領域のさまざまな感覚チャネルの欲求(感情)に気づいていただきます。気になっていることをシェアいただきます。例えば以下のようにです。

▼肉体の感覚・欲求に気づく
→胸のあたりにモヤモヤしたものを感じます。
→お腹のところに凝りの痛みを感じます。
→肩のところが急に重くなったように感じます。

▼視覚/イメージ/ヴィジョンに気づく
→昔の学校のクラスの風景が見えます。
→何か黒い塊のようなイメージがそこにあります。

▼聴覚/声/言葉に気づく
→こんな言葉のフレーズがしきりと浮かびます。
→知り合いが昔こんなことを言ってました。
→耳を刺すような硬い音が痛いです。

▼記憶に気づく
→こんな出来事が浮かんできました。
→こんな夢の場面を思い出しました。

クライアントの方のシェア(言葉)を受けて、ファシリテーターはさらなる感覚や感情への焦点化やその奥にものを探るためのさまざまな提案を行なっていきます。
このようなやり取りを行なう中で、クライアントの方はご自身の中の「より気になる感情(欲求)」というものを明確にしていくこととなるのです。
そのプロセスを通じて、自己の内部への潜入がどんどんと深まっていくこととなるのです。(また、深化/進化型のゲシュタルトにおいては、この過程でだんだんと軽度な変性意識状態(ASC)入っていくということも起こってくるのです)


③深い感情(欲求)に焦点化し、気づきと表現を深める


さて、ゲシュタルト心理学の世界では、生体(生物の生理)にとって緊急かつ必要な欲求(感情)が、「図」となって感覚の前景に現れてくると考えています。ゲシュタルトとは何か

ワークの実際の場面でいうと、気になった欲求(感情)というものは、そこに気づきを当てるとあたかも異物を吐き出すかのようにその奥底の欲求(感情)を前面に押し出してくることとなります。そして、その奥底の欲求(感情)に気づいて表出(放出/吐き出し/解放)していくと、弛緩が起こり、さらにその奥底の欲求(感情)が出てくることとなるのです。
そこで
だんだんとエネルギーが流れてくるのです。そして、このような気づきと焦点化を深める中で、その欲求(感情)の深い本質現れてくることになるのです。
そのプロセスが進む過程においては、肉体的に緊張の弛緩が起こったり、小さなアーハ体験(小さなサトリ)が起こったりします。何か「わかった感じ」に触れるのです。それが、ワークを進めるサインやシグナル、道標となります。
このようなプロセスでワークは進んでいきますが、クライアントの方の欲求(感情)への探索が深まっていきますと、やがて少し強めの欲求(感情)の塊/鉱脈たどり着くこととなります。
それは、緊張や葛藤や硬直といったけはいを持ちます。

これが、クライアントの方が、普段の日常意識ではなかなかつかまえられない核心的なテーマ(とその入口)であるのです。
テーマは、心の中でさまざまな形で存在しています。
ご自分の中にある複数の相反する欲求(感情、自我状態)が対立しているために、心にストップや制限をかける「葛藤状態」や、過去の体験が未消化に終わっているため、心の中でストップをかけている「未完了の体験(ゲシュタルト)」「やり残した仕事 Unfinished Business」などです。

ところで、「葛藤状態」や、「未完了の体験」というものは、通常、私たちの中では、記憶や抑圧の重層性にしたがって、ミルフィーユのように多層状になって構成(存在)されているものです。そのため、強い感覚にたどり着いたといっても、それは大概、入り口(表面)にたどり着いたに過ぎないのです。
そこから一皮一皮剥いて、さらにその奥底にある核心に向かっていくというのがワークのプロセスとなります。ただ、ここにおいては、クライアントの方はすでにプロセスの流れの中におり、また、一種の変性意識状態(ASC)に入っているため、比較的スムーズな形でそのプロセスを内奥の世界まで探求(追跡)していくことができるのです。
ワークが終わった後で、まるで別世界(異界)に入って行った体験だったと振り返ることが多いのもそのためです。逆に、日常意識のままでいたため、深い体験ができない場合もありますが、古典的ゲシュタルト療法では、意識状態についての概念を持たないため、そのようなことになってしまう場合も、まま見受けられます。

◆ゲシュタルト療法の介入技法の意味 (心を可視化する)

ところで、ゲシュタルト療法といえば、エンプティ・チェア(空の椅子)の技法や、身体の動きや表現を使った技法など、比較的派手な?技法がイメージされがちです。
これらの技法は、そもそも何の効果を狙ったものかといいいますと、上で見たような感情(欲求)より焦点化したり、増幅(促進)するために行なうものなのです

通常、私たちの感情というものは、悶々とした塊の状態(俗にいうモヤモヤ)にあり、その感情のさまざまな内訳(内容明細)を、私たちは明確にはとらえられてはいません。また、ワークの最中においても、さまざまな感情がもつれつつ行き交っているので、その中にどんなさまざまな感情があるのかよく分からないのです
この個々の感情のゲシュタルトを明確にして、解放(解消)していくのが、プロセス展開の肝となります。
そうすると、より深い階層の感情(欲求)にアクセスしていくことができるようになるからです。
技法的な工夫によって、このゲシュタルトを明確にし
「心を可視化」し、欲求(感情)を表出しやすくするというが各種の技法的介入の意味なのです。
クライアントの方の欲求(感情)を焦点化したり、切り分けたり、増幅したりするためにこれらの技法を使うのです。

【例】
「その感覚(気持ち)はどんな姿(形、色、感触、冷熱、硬軟)をしていますか?」
「その感覚は、からだのどこにありますか?」
「からだのその部分は、なんと言っていますか?」
「たとえば、この椅子に、その○○という感覚を取り出すことができますか?」
「ここに置いたその感覚/気持ちは、どう見えますか?」
「たとえば、○○と言ってみる(表現してみる)のはどうですか?」
「実際にそう言ってみて、どんな感じがしますか?」
といったような具合です。

このようにして、現れてくる欲求(感情)のゲシュタルトを細かく感じて、表現していくと、そのゲシュタルトの感情(欲求)は解放・解消されていきます。
そして、心の自律的なプロセスが活性化しはじめ、心のさらに深い層の欲求(感情)が、さらに前景(表面)に出てくるようになるのです。


④気づきを深め、欲求(感情)を展開する。体験を通して変容する


さて通常、或る程度深い欲求(感情)の気づきが得られ、表現を通して解放された後でも、さまざまな別の欲求(感情)が残っている(待機している)ものです。
前に触れたように、欲求(感情)はミルフィーユのように幾層にも渡って、層状に構成されているものだからです。
それら表層のものから次々と解放を行なっていき、核心的な層(腑に落ちる層)の感情(欲求)を解放することまでをワークは目標とします。
そのように、人間の心は層状に(本当はクラスター状に)積み重なって構造化されているので、或る心のテーマ(欲求・感情)が解放されると、その下の層からさらなる次のテーマ(欲求・感情)が、自然に浮上してくることになります。
このプロセスの繰り返しにより、心のより深い層まで探索していけることとなり、日常生活では予想もできなかったような深い解放と変容、統合を得ることができるのです。
このプロセスをゲシュタルト療法では、「玉ねぎの皮むき」と呼んでいるのです。
この深化と解放のプロセスは、詳述すると大変な記述量になりますので、詳細は、別セッションをご覧いただければと思います。
5層1核 感情表現(表出)の階層性

そして、この探索の深まりと解放の次元の深さが、通常のカウンセリングやコーチング、NLPなどと較べた場合の、ゲシュタルト療法の持つ圧倒的な効果の秘密でもあるのです。また、ある種、アーノルド・ミンデルが指摘するようにシャーマニズム的な深さでもあるのです。

(補注1)変性意識状態(ASC)の体験とスキル

さて、古典的・教科書的なゲシュタルト療法がよく理解していないことですが、重要な要素でもある変性意識状態(ASC)について少し補足解説してみたいと思います。

このようにワークのプロセスの中、ご自身の感情(欲求)に深く没頭していく過程で、クライアントの方は、だんだんと軽度な変性意識状態(ASC)に入っていくこととなります。それが理由で、普段は気づけない微細な事柄に色々と気づけたり、普段行なわないような表現を(あまりまわりを気にせずに)大胆に行なえるようにもなるのです。これは、変性意識状態(ASC)においては、日常意識の硬化した価値観や知覚力が希薄になり、潜在意識の欲求(感情)や自我状態とよりダイレクトなつながりができているためです。
また、変性意識状態(ASC)自体が、クライアントの方の深部にある潜在意識の活性化と自律性を増大させ、自由な解放状態や創造的な統合状態へと運んでいくことにもなるのです。

くわえて、変性意識状態(ASC)は、クライアントの方が普段同一化している自我状態や日常意識から、クライアントの方を強く解き放つ作用も持ちます。
これがワークの中で、クライアントの方が、しばしば、超越的でトランスパーソナルな(個人性を超えた)新世界を体験する理由でもあるのです。それはしばしば、鮮やかな知覚的光明に満ちた意識拡張体験になったりもするのです。

(補注2)体感を通した表現スキルの獲得

ところで、また、ゲシュタルト療法の特徴でもありますが、クライアントの方には、実際に感じた欲求(感情)について「心身で体感を通して」表現していただくことを行ないます。心身一元論的な理論に裏付けられたものですが、ここが重要なポイントとなります。

このような身体的アウトプット(表出・表現・外在化)の体験が、クライアントの方の心身の中で組織化され、心理的統合と表現力の決定的な力となっていくからです。
それは、頭の中(中間領域)だけではなく、実際に「物理的(内部領域・外部領域)に」表現することは、心身の神経的・脳的・物理的・エネルギー的に直接作用することになるからです。肉体動作を通して、その体感エネルギーを通して、物理的・神経的に書き換えることになるからです。
そのため要所要所で、ファシリテーターは、クライアントの方の物理的な表現を促していくこととなります。それはそれがとても決定的な統合(心身の組織化)の効力を持つためであるからなのです。

さて、クライアントの方は、ワークの中でこのような気づきと物理的表現、小さなアーハ体験を繰り返す中で、やがてひとつの感情的な納得、統合的な腑に落ちる段階(地点)に到達することとなります。
その地点で、ひと一区切りの創造的解決(解放と統合)がもたらされるのです。
そして、クライアントの方のある種の解放感、充実感、統合感、着地感をもって、ワークは終了していくのです。
クライアントの方にとってその感覚は、自分の本当にやりたいことを、葛藤や妨げなくできるような充実感、もしくは自分の欲求がひとまとまりになったような統合感、集中された「まとまり感」、主体感として感じられるものとなるのです。


⑤現実に、より着地(統合)する


ワークの最後の段階では、クライアントの方の深い部分から出てきたばかりの、まだ柔らかい新しい欲求(感情)、統合感を、日常生活で充分に活かしていけるか確認を取っていきます。
ワークの異界(変性意識)の中でとらえられた、その新しい欲求(感情)感覚が、日常的現実できちんと活かされるように統合的調整をとっていきます。

新しい心の要素(意欲、能力、欲求)は、過去の人生の中で理由があって抑圧されていた自我の要素となります。
そのため、その新しい自我(意欲、能力、欲求)が、既存の日常生活の中でもしっかりと自立し、新しい力を発揮できるように居場所と防具(結界)を持つことが大切となるのです。

そのため、ワークの最後の場面では時間をかけて、(変性意識状態から抜け出ていくとともに)新しく現れてきた自我状態(意欲、能力、欲求)と既存の自我状態との統合を定着させていきます。
外部領域との接続・統合を深めていきます。

具体的な手法としては、現実の実務的な場面のリハーサルや、(グループの場合などは)巡回対話の技法など色々ありますがここでは省略いたします。

この場面は、ワークとしては、新しい自我状態をサポートし、たくましく育てていく方向づけとして、決定的に重要な場面(局面)でもあるのです。


⑥ワークの終了


クライアントの方が、日常意識と日常感覚の中で、統合感(着地感)をしっかりと得られたと確認された段階で、ワークは終了します。ワークの空間が閉じられていきます。


さて、以上、長くはありましたが(また大枠を単純化して書きましたが)、ワークの中核的なプロセスを解説いたしました。

実際のワークは、クライアントの方のさまざまな想いや逡巡を探索しつつ、あちこちに寄せては返す波のように行きつ戻りつしながら進んでいくものです。
しかし、展開するそのプロセスの背後(核心)には、クライアントの方が元来持っているパワフルで素晴らしい自律性と創造的変容の力が必ず待っているものなのです。

そして、このようなワークの探索を通じて、クライアントの方の人生は、確実に変化・変容していくものであるのです。ぜひ実際のワークを体験してみていただければと思います。

 

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。

気づきや統合、変性意識状態(ASC)へのより総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』

および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。

↓動画解説 セッションの効果