◆夢の力を取り出す
さて、別の記事に、「創造と夢見の技法」ということで、心理学でいう「投影 projection」の原理をもちいて、目標とするアウトプット(作品、企画内容等)に、心身の感覚(イメージ)を投影することで、私たちの潜在意識(夢)が湧出してくるという創造性のプロセスについて解説しました。
→「創造と夢見の技法 NLP・ゲシュタルト・夢見 その2」
この仕組みの背後には、哲学者メルロ=ポンティのいう「画家は、その身体を世界に貸すことによって、世界を絵に変える」(『眼と精神』木田元他訳、みすず書房)という原理が働いています。
この「投影 projection」状態を、感覚的に理解し、自分のスキルとするには、逆パターンの事例から、体感・類推するのが分かりやすいと思われます。ここではそのことについて書いてみます。
つまり、私たちが、何らかのアウトプット、例えばアート(音楽、映画、物語、絵画)等の創作物に触れた際に、自分の内側に惹き起こされる感情や衝動、感覚的なイメージについて「意識的」になることです。
私たちが、なぜ、赤の他人の作った創作物に、強く惹かれ、過度な思い入れを持つことができるのかと言えば、それは、心理学的には「投影 projection」によるものだからです。
自分が心の内に持っているけれとも、普段は解離している(直接触れられない)大切な心理的な因子を、その対象物に見出して(投影して)強く惹かれる事態になっているわけです。
そこにあるのは、自分の隠された感情そのものなのです。
「見出す」といっても、実際にそこに在るわけでもないものを、勝手にそこに見出す(映し出す)だけの話です。恋愛と同じく「勝手な想い」です。
また、しかし、そうはいっても、或る創作物が、世の一定量の人々の、投影の受け皿として働くには、それなりの受け皿の要件(要素・因子)があります。最大公約数的な要素を持っていなくてはならないのです(これも、恋愛の場合と同じです)。
それは、創作物のテーマの普遍性や、そのジャンルの美的形式における妥当性と新奇性のバランスなど、さまざまな要素が考えられます。このこと自体は、大変、興味深いテーマではありますが、別の機会に譲りましょう。
ところで、さて、さきに、他人の創作物に投影される「勝手な想い」について触れました。実は、この「勝手な想い」の深い部分に棲息しているのが、私たちの潜在意識の夢の力なのです。(この深い「夢」の内実については、拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』をご覧下さい)
そして、当スペースの考え方では、私たちは、他人の創作物に投影した想い(夢)を、自分自身に取り戻すべきであると考えます。
そうでないと、他者の表象世界と他者の夢を消費するだけで、その表象世界の中に閉じ込められて、隷属的(不自由)になってしまうからです。
「自分自身の夢の力」を展開して、自分自身の人生を創造的に生きていていくことができないからです。
作品の上に投影した「勝手な想い」を自分に取り戻して、自分の意識とつなげてあげる必要があるのです。そのことで、私たちの中に、創造性のエネルギーが回復され、自分の夢を生きる作業がはじまるからです。
◆レッスン エクササイズ
そのためには、自分が何か作品なりに「体験」したことについて、書き出し、アウトプットしていくことが必要です。これがエクササイズです。
批評のように、「その作品について」書くのではなく、「自分はこう感じた」「自分の中のイメージはこうだ」と、自分の体験を作っているものについて書くのです。自分の中に生きている感動、「生きた何物か」を抜き出し、アウトプットしていくのです。
言葉は、制限が多いので、絵や落書きなどの方がはじめはやりやすいでしょう。とにかく、直観的に、自由に書きなぐっていくのです。色や線を置いてみるのです。自分の中の痕跡やエネルギーを外部に出すのです。
そして、その感覚を、〈塊〉〈イメージ〉〈夢〉として外在化させていくのです。自分自身の「夢の力」の要素として、濃密に実体化して対象化していくのです。
そして、心に響くものや惹かれるものに対して、数多くそのような作業(エクササイズ)をしていくと、段々と自分の夢の力も、〈実体性〉を獲得していきます。これを濃くすることが大切です。
そして、そのように外在化された自分の夢の力というものは、意識して注目していくと、関連の事象が寄せ集められてきて、大きな現実的なパワーをもって 人生を牽引することにもなっていくのです。
それらを日々、考え見返すことを、おすすめします。
そのため、「勝手な想い」にこだわって探求と追跡をすることは、より核心的で充実した、夢の力の増幅に、最終的に私たちを導くことにもなるのです。
それは、後から、人生を振り返ってみた場合、明瞭な線として浮かび上がって来る類いの「導きの糸」なのです。
【事例】サイケデリック・ビートルズの恩寵
さて、当スペースが、変性意識状態(ASC)や、人間の意識の拡張といったテーマに焦点化するきっかけも、元はと言えば、そのような「投影」によって引き起こされた夢の力の活性化にあったのです。
ところで、ビートルズ Beatles といえば、1960年代のポップ・ミュージックを一新し、現在のポップ・ミュージックの祖形を創った天才バンドですが、同時代として、当時のカウンター・カルチャーの思潮と同期したこともあり、その中盤期の音楽は、いわゆるサイケデリック・ロックといわれるものでした。
筆者自身が、それらを知り、聴いたのは随分と後の時代であり、「サイケデリック Psychedelic (意識拡張的)」という言葉さえ、周りの誰も説明できないような時代でした。知っていても「幻覚剤云々」といった表面的な定義であり、その体験の内実を語れる人などいなかったのです。今さえ、その状態がなんであるかを正確に語れる人はわずかしかいません。
しかしながら、中学生の筆者は、(何の経験値も、環境も持たないにも関わらず)サイケデリック時代のビートルズの背後にある、〈何か真実なもの〉を心理的投影を通して嗅ぎつけたのでした。ビートルズの音楽的天才が表現したものの向こうに何かを直観したのでした。
それは、それまでの人生でまったく想像していなかったような、途方もなくまばゆい輝く生の状態(姿)でした。
ほとんど子どもであった筆者の、日常意識の背後に、どんな夢の力や変性意識状態(ASC)が隠れていて、サイケデリック時代のビートルズの表現(表象)によって、活性化し、閃光的なイメージを引き出されたのであろうかと少し不思議な気もします。しかし、それらは間違いなく存在していたのです。
その後、「勝手な想い」やその幻想的なイメージにこだわり、実際にさまざまな探求をしていくことで、結果的に変性意識状態(ASC)を知り、「サイケデリック(意識拡張)」な実在をまざまざと感得することになったのでした。
そして、今、そのような並外れたまばゆい光量の創造的な世界を得るための具体的な方法論を、他の人々とシェアできるという僥倖を得ているわけなのです。
元はと言えば、サイケデリック時代のビートルズの表象に、筆者が、自己の隠れた夢を投影し、それに目覚め、動かされたことがきっかけなのでした。
◆「自分の」夢の力を増幅して生きる
さて、自分の潜在意識にある夢の力を生きることは、人生に、まばゆい彩りと意味、動機づけをもたらすものです。
ところで、先進国の中で、日本人の「幸福度」が大変低い調査結果については、以前よりさまざまな指摘がありました。
その要因のひとつに、日本人が「他人の(価値観による)人生」を生きてしまっているということが挙げられます。
日本はもともと横並び社会であり、他人の目や他人の承認に過度に重きをおく社会ではありますが、他人に主権を与えてしまうような人生は、人を無力化させるものです。
それは、自分の人生を、自分のコントロールの外側に置いてしまうものだからです。自分から、選択と自由、独立を奪うものだからです。
自分で、自分の人生を、コントロールできている時、人は充実した人生を生きているということができるのです。
ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズの有名な「ゲシュタルトの祈り」は、そのことをぶっきらぼうなタッチで告げています。
「私は私のことをやり、
あなたはあなたのことをやる。
私は、あなたの期待に応えるために、
この世界にいるのではない。
そしてあなたも、私の期待に応えるために、
この世界にいるのではない。
あなたはあなた、私は私。
もし私たちが出会えるとするならば、
それは素晴らしいことだ。
もしそうでないならば、
それは、いたしかたないことだ」
この言葉を引き受ける時、私たちは、より健全な現実の息吹に触れられていると言えるでしょう。
その上で、自分の心の底から湧いて来る、自分の夢の力を生きていくことができるのです。それは、使命にも似た自己の深い必然に根ざした人生となっていくのです。
さて、今回は、他人の創作物の中に投影を通して現れて来る、自分の夢について取り上げてみました。
自分の好きな物を取り上げて、その夢の力を取り出すエクササイズをぜひとも、実践してみていただければと思います。そのことからだけでも人生というものは実に変わっていくものだからです。
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→「彼方的ロック/ポップス」名盤10選
【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた解説、拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。
気づきや変容、変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については、
拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。。