人生のロロ・トマシ ―日々の中の「英雄の旅」

「ロロ・トマシ」とは、映画『L.A.コンフィデンシャル』の中で、決定的な意味を持つ名前です。
そして、この寓話とイメージから、私たちは、人生のとても重要な事柄を、比喩的に学ぶことができるのです。
(以下ネタバレあり)

その名は、映画の登場人物「エクスリー警部補」が、自分がなぜ刑事になったのかを語る、わずかな昔語りの中で現れます。彼の刑事だった父親は殺されたというのです。しかし、犯人はわからずじまいでした。
そのため、エクスリーはその犯人を「ロロ・トマシ」と自分で名付け、「罪を逃れてほくそ笑むやつら」の代名詞として、その後の人生を生きることにしたのです。

そのような挿話(エピソード)が、署内で「出世亡者の嫌われ者」として描かれていたエクスリー警部補の人生の背景、刑事になった由来として語られるのです。

そして、映画の中では、それまで積み上げた出世をフイにしてでも、今関わっている事件の真犯人「(いわば)ロロ・トマシ」を捕まえたいという渇望に駆られ出した(心を蘇らせはじめた)エクスリー警部補の姿を映し出す、象徴的な名前となっているのです。

そして、映画の仕掛けとしては、彼がゆくりなくも語ったこの秘密の名前が、思いがけず事件を解決する糸口、導きの糸となっていくのです。

というのも、そのエピソードを聞かされたヴィンセンス刑事が、意外な真犯人に殺されるまさにその際に、その名をダイイング・メッセージとして呟いたことが(この場面のケヴィン・スペイシーのかすかな微笑が素晴らしい)、その後、真犯人が誰であるかをエクスリーに告げる決定的な鍵となったからです。

この「ロロ・トマシ」の名は、私たちの中に、強い印象を残します。

なぜなら、私たちの人生の中にも、映画におけるような現実の悪党ではありませんが、心の中に影(シャドー)のようにつきまとう「ロロ・トマシ」がいるからです。

それは、私たちを苦しめる存在として、人生の随所で、その姿をちらつかせていたからです。
それは、私たちを駆り立て、怖れさせ、渇かせ、思いもよらない形で、私たちの人生に影響を与えてきたからです。
色々と残念な行動をとらせてきたからです。

普通、それが、何か「名前」を持っていることはありません。
明確にとらえられていることもありません。
私たちは、ただ漠然と、うっすらと、そのいつも、そいつの「存在のけはい」を感じているだけです。

私たちは、その本当の姿をよく知りません。

そして、若い頃は、私たちは、おおむね誰もが多感なため「ロロ・トマシ」を身近に感じています。

しかし、歳をとっていくと俗世間の雑務にまみれて鈍麻し、映画のはじめにあったエクスリー警部補のように、「ロロ・トマシ」のことに思いをはせなくなっていきます。
また、見ないようにしていきます。
忘れていきます。

そして、完全に忘れた頃になって、それが病気や病になってやってくる、または大惨事になってやってくる、ということもしばしばです。
結局、正体はわからずじまいで、ただ、怖れだけを一生感じて過ごすということもしばしばです。

しかし、その「けはい」に敏感でいて、それを思い出したり、捜しつづけたりすること、また見つけ出すことは、実は、とても大切なこと、甲斐のあることでもあるのです。

なぜなら、「ロロ・トマシ」という真犯人、その影(シャドー)の背後、その向こうにこそ、私たちの真の人生が待っているからです。

「ロロ・トマシ」の、影(シャドー)のような存在をそれとなく予感できること、感じられることだけでも、人生の導きの糸となります。

やがては、その暗い力、大きな力と戦わないといけない場面もやってきたりします。
「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー」の物語/神話は、そのことをつねに私たちに教えてくれているのです。

そして、「ロロ・トマシ」を忘れずに追いかけ、紆余曲折しながらも、捜しつづけ、ついに扉の向こうに彼を追い詰めた時、そいつを捕まえた時(退治した時)、私たちの人生は、あたかも何かがほどけたかのように、別の〈明るいもの〉に変わっていくことになるのです。

人生の違う白日の中に、私たちは入り込んだことになるのです。
人生の次の次元に、移っていくのです。

私たちの隠れた心(潜在意識)は、この人生の「真犯人」を、「ロロ・トマシ」を、暗い影(シャドー)の中に、鍵のようにひそませています。

自分の中の、気づきにくい影の中にこそ、見たくない、認めたくない悪の中にこそ、私たちの人生を解く鍵があるのです。

そのため、私たちは、その暗いけはいを感じとり、「彼」が今どこにいるのかを問いつづけ、捜しつづけることがとても大切なことなのです

 

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