マインドフルネスの光明その2 無為のゲシュタルト

さて、前回、ゲシュタルト療法に、長く取り組む中で、ワーク(セッション)の中で、「しないこと」が重要になる側面について取り上げました。

「しないこと」の中で、気づきの力を働かすことが、ゲシュタルト療法でいう気づきの連続体 awareness continuumをより深め、自発的な心の動きを湧出させることについて触れました。

「しないことのゲシュタルト」という姿勢が、気づきと自由の確保のために必要となって来るというわけなのです。
しないことのゲシュタルトへ マインドフルネスの光明

そして、この「しないこと」ができるようになると、逆に、真に「すること」もできるようになって来るのです。

そして、ここが重要な点でもあるわけなのです。

それは例えば、次のような事柄を思い起こさせます。

精神分析家のD・ウィニコット Winnicottの概念に「独りでいられる能力 the capacity to be alone」というものがあります。

子どもの心理発達の中で、母子一体の融合状態から、子どもが徐々に分離成長して、人が自分自身になっていく過程の中で育って来る能力です。

親がそばにいてもいなくても、平然と自立して、内的な意味で「独りでいられる」能力です。

それは、最終的な成長の姿としては、大勢の人の中にいても(いなくても)他者(他の人々)に妨げられないで、泰然と独りで完結した「自分自身でいられる」という、自立的・自律的・独立的な能力につながっていきます。

しかし、「独りでいられる能力」が低い人、つまり「独りでいられない人」とは、大勢の人の中にいると他者の存在が気になって、(他者の存在に毀損されて)自分独りという完結した存在(自分自身)になかなかなりきれないものなのです。自分の中に他者がいるわけです。

「独りでいられる能力」とは、「自分自身でいられる能力」ともいえるものなのです。

つまり、逆にいうと、「独りでいられない人」とは「自分自身でいられない人」とも言い換えられるのです。自己肯定感の低い人は、しばしばそうなりがちです。

そして、「独りでいられない人」においては、本当の意味で、「他者と出遭う」ことや、「他者と共にいる」という力もまた弱くなってしまっているのです。自分自身の存在が、霞のように曖昧で、自立していないからです。

つまり、真に「独りでいられる人」のみが、真に「共にいるwithness」ことができる人ともいえるのです。

これは、真に「しないこと not doing」ができるようになると、真に「すること doing」ができるようになることとも、一脈通じる事態であるのです。

そして、「何もしない not doing」という完全な無為が、完璧に統合・集中された、稲妻のような行為 doingを生み出す基盤となっていくのです。完全な休息が、完全な行為の基盤なのです。

そして、この「しないこと」を育てるためにも、マインドフルネス瞑想はとても有効な方法論となっていくものなのです。

 

◆マインドフルネス瞑想について

それでは、マインドフルネスを巷に広めたジョン・カバットジン博士の言葉をいくつか見ていきましょう。

「私はこの“注意を集中する”ということを、“マインドフルネス”と呼んでいます。今では、瞑想の意味はかなり知られてきています。注意を集中することは、いつもとまではいえなくても、誰もがふだんから行っていることです。つまり、瞑想は、かつて考えられていたような得体の知れないものではなく、生活の中で私たちがふだん体験しているものなのです。」(『マインドフルネスストレス低減法』春木豊訳、北大路書房)


ところで、博士は、別のところで、マインドフルネスとは気づき awarenessであると言っています。このことは、一般的な言葉遣いの中では、少し分かりにくいところなので解説しましょう。

まず、注意力と気づき awarenessでは、心の中における階層が少し違います。(当然、それらは地続きで重なっていますが)

そして、注意を「集中する」状態とは、注意力を「意図的」に働かせている状態であり、注意力そのものより上位の働き(意図・能力)が「少し」加わっている状態なのです。

注意力を、「意図的に」操作できるのは、注意力よりも上位の力です。

この上位の力の中に、気づき awarenessは含まれているのです。

そのため、以下のような気づき awarenessも可能となって来るのです。

「さて、瞑想をする時のように自分の心の動きに注意をしていくと、自分の心が、現在よりも過去や未来に思いを馳せている時間のほうがずっと長いことに気がつかれると思います。つまり、実際、“ 今”起きていることについては、ほんのすこししか自覚していない、ということなのです。そして、私たちは、“ 今”というこの瞬間を十分に意識していないために、多くの瞬間を失ってしまっているのです。この無自覚さがあなたの心を支配し、やることすべてに影響を与えるのです。私たちは、自分のしていることや経験していることを十分に自覚しないまま、多くの時を“ 自動操縦状態”で習慣的にすごしているのです。いわば半眠半醒の状態にあるようなものなのです。」(前掲書)


ここでは、「注意を集中する」プロセスの中で気づかれて来るさまざまな状態、「無自覚」「自動操縦状態」「半眠半醒の状態」などが洞察されています。

ところで、ゲシュタルト療法においては、今、実在する目の前の風景から離れて、実在しない過去や未来に対して無益な空回りをすることが、神経症的態度だとかつてより指摘していたものでした。

実在していない未来に対する行き場のない危惧の興奮を指して、「不安とは、抑圧された興奮である」と言ったのはフリッツ・パールズです。

まずは、その興奮の実在(エネルギー)にコンタクト(接触)して内容を知れという意味合いでです。

また、さきの文中で言われる「自動操縦状態」「半眠半醒」などの言葉が、別に見たG・I・グルジェフの言葉と響きあうものであることも、まことに納得的な事柄でもあるのです。
グルジェフの自己想起 self-remembering の効能

そして、醒めた状態 awakenessとは、気づき awarenessの持続された状態であるわけなのです。

カバットジン博士は、私たちの心が、普段、ストレスに満たされた時の無自覚な心の状態を次のように描写します。

「心の中を、許容範囲以上の不満足感や無意識が支配するようになると、おだやかさやリラックスした感じは、味わえなくなります。その代わりに、分裂した感じや追い込まれる感じにさいなまれるようになります。「ああだ、こうだ」と考え、「ああしたい、こうしたい」と思うようになります。ところが、えてしてこうした想念は互いに矛盾しあい、その結果、何かを行う能力を、大きく狂わせてしまいます。こんなとき、私たちは自分が何を考えているのか、何を感じているのか、何をしているのかがわからなくなっているのです。さらに悪いことに、私たちは、自分がわかっていない、ということにも気づくことができなくなっているのです。」(前掲書)


このような時にこそ、自己の心に対して、気づき awarenessを持つことが必要となります。

そのため、ゲシュタルト療法では、ワーク(セッション)の空間において分裂した感情や自我のそれぞれに、丁寧に気づき awarenessを当て、それらを解きほぐし、統合していくということを行なっていきます。

そして、そのためにも、まず第一に、自己に注意を集中することや気づき awarenessを働かせることが必要となって来るものなのです。

博士は、述べています。

「注意を集中することによって、文字どおりあなたは目ざめていきます。
意識せずに、機械的にものごとを見たり、行ったりするいつものやりかたから
脱出することができるのです。このように、自分が何かをしている最中に、自分がしていることを意識できるようにするのが、『マインドフルネス瞑想法』の本質です。『マインドフルネス瞑想法』には、特に変わったところも神秘的なところもないということがおわかりいただけたと思います。瞑想とは、瞬間、瞬間の体験に注意を向けるためだけに行うものなのです。そして瞑想によって、自分の人生を見つめ、瞬間の中で生きるという新しい生き方ができるようになっていくのです。“ 現在”という瞬間には、その存在を認めて尊重しさえすれば、魔法のような特殊な力が秘められています。それは、誰もがもっているかけがえのない瞬間なのです。私たちが知らなければならないのは、“ 現在”という瞬間だけです。“ 現在”という瞬間だけを知覚し、学び、行動し、変え、癒さなければなりません。だからこそ、“ 瞬間瞬間を意識する”ということがとても大切になってくるのです。瞬間をより意識できるようにする方法は、瞑想トレーニングを通じて学んでいくことになりますが、そこでは、努力するということ自体が目的なのです。努力することによって、あなたの体験はより生き生きしたものになり、人生はより本当のものになっていくのです。」前掲書)


……………………

さて、以上、カバットジン博士の言葉を見てみましたが、このようにマインドフルネス瞑想の姿勢は、ゲシュタルト療法の方法論と大変共通したものであるといえるものなのです。

そして、ある面では、ゲシュタルト療法がややもすればおろそかにしてしまう、本来的な意味での気づき awarenessの力を、唯一の技法としているという点においても、マインドフルネス瞑想はゲシュタルト療法を補完するという意味でとても有効なアプローチといえるものなのです。

 

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