野生の気づきとは その1

さて、私たちが、野生の動物たちのいる世界に入って行っても、基本的には、(人馴れしていない)本来の野生動物たちに出会うことはできません。

自然の動物の世界とは忍びあいの世界です。お互い同士が、息を潜ませている世界です。そのような人間たちのいない基本的な野生の世界を、「ベースライン」の世界と呼びます。

私たち人間がズカズカと、自然に踏み込んでいく時(その大分前に)、動物たちは気配を感じて、いっせいに身を潜めてしまいます。

このような状態を「ベースラインが乱れる」と言います。

そして、人間が起こした乱れが、森に広がっていく姿を「波紋が広がる」と言います。

そのため、通常、私たち人間は、本来のあり様では、自然の姿をほとんど目にすることがないのです。

そのような、ベースラインの世界に通暁し、その世界の諸相について教えてくれるのが、狩猟民の人々です。彼らは、生きていく必要上から、そのような自然の世界の奥に潜り込む必要があったからです。

そして、彼らが教えてくれることは、私たち現代人が見失っている、生の奥義に触れる、繊細な生の技法なのです。

 

◆野生の視野 Wide Angle Vision

さて、両手を広げて、耳の延長上に掌を持っていきます。指をひらひらと動かしてみます。視界の端でそれをとらえます。視線を合わせるのではなく、焦点を合わせない視線で、白目の端でそれら両方を見ます。それが、自然界の視線 Wide Angle Visionです。

自然界は、忍びあいの世界です。いつ、敵が襲ってくるか、分かりません。そのため、広い角度で、視界にあるものをとらえる、というのが自然の企画です。特に、草食動物は、目が頭の両横についていて、視界が広くなっています。大型の肉食動物は、目が比較的、前についています。より攻撃に特化したためでしょう。

しかし、視線自身は、基本、Wide Angle Visionです。焦点化することは危険が伴うからです。一方、焦点化する視線を、Tunnel Visionといいます。視野狭窄の状態です。Tunnel Visionの視線は、エネルギーが高い不自然な状態であり、ベースラインの世界では、違和感として、人間の存在の特徴として、動物たちにすぐに感じとられるといわれています。

敏感な鳥類などは、肌感覚で、人間のTunnel Visionを感じとるといわれます。自然に入る時は、Wide Angle Visionでないといけないのです。そのため、私たちが、自然本来の姿を垣間見たいと思うなら、歩き方や忍び方は、もちろんのこと、視線のあり様、意識のあり様から変えていかないと野生本来の姿を目にすることはできないのです。


【ブックガイド】

ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

気づきや野生、変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については拙著
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』

および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。