◆NLP(神経言語プログラミング) ―内的状態(ステート)の編集
さて、一見したところのNLP(神経言語プログラミング)の魅力は、自分の内的状態(感覚、感情)を簡単にコントロールすることによって、自分の内的状態(ステート)、ひいては、人生そのものをコントロールできるようになるというコンセプトにあります。
特に、現代社会では一般的に、私たちの内的状態(感覚、感情)というものは、生まれつきのものや過去の経験によってプログラムされた、自分ではどうすることもできないものだと、考えられているからです。
それらに対して、一種SF的に介入し、プログラムを書き換えるのが、NLPであるというわけです。
NLPでは、それら私たちの内的状態/内的体験に対して、あたかもコンピューターのプログラムを修正するように、簡単に書き換えることができる、もしくは、機械の作動を変えるように簡単に改変してしまえるかのようなイメージがあり、人生に新しい選択肢をもたらすかのように見えるのです。
また、操作的に、他者とのラポール(つながり、信頼)を築いたり、影響を与えたり、もしくは他者の内的感覚・状態を推察したりと、人間関係においても、新しいコントロールの感覚を持ち込むもののように見えるわけです。
また、NLP自体の売り込み、マーケティング的にもそのように喧伝されているわけです。
さて、このことについていえば、実際のところ、軽微なレベルでの「一時の知覚修正」ということでしたら、NLPの技法でも、充分有効に働きます。そのため、「NLPは効かない」と言われつつも、詐欺とまでは言われないわけなのです(ファシリテーターのレベルによっては、そういう場合もありますが)。
そのため、認知イメージのパターンを、一時的に中断したり、新しいイメージを想像してみるという使い方はできるのです。意欲的に人生を変えていこうとする人には、コーチングなどのオプションのテクニックとして、(使わないよりかは)使っていくことが望ましいテニックとなっているのです。
それだけでも、怠惰で文句ばかり言って、頭でわかったつもりになって、人生を浪費している人々との「違い」は創り出すことができます。
しかしながら、もう少し深層の、問題ある心理的プログラム修正というものは、NLPテクニックでは対応が難しいのです。NLPテクニックが扱えるのは、浅い心の知覚的表層であり、その深いプログラムの層までは侵入することができないのです。
深いプログラムの層は、より潜在意識の層、自発的な感情(欲求)領域であり、NLPが扱える知覚的表層とは、心理システム階層(ロジカル・タイプ)が違うものだからです。
◆ゲシュタルト療法 ―気づき・霊感・行動
ところで、ゲシュタルト療法は、NLPの元ネタの一つですが、NLPよりもはるかに深い領域に届く方法論です。NLPは、ゲシュタルト療法がら難しい要素を省いて方法論化したのですが、そのせいで、深い深層領域にアクセスする能力も失ったのです。
また、ゲシュタルト療法は、意識と無意識(潜在意識)の両面からのアプローチです。
ゲシュタルト療法は、気づきの技法という面では、比較的、意識的なレベルで感覚や感情をとらえていくのですが、この感覚や感情に、集中的な交流を深めていく過程で、人はだんだんと軽微な変性意識状態(ASC)に入っていくことになります。この状態が、いわば、日常意識と潜在意識の世界との交流を可能にしていくわけです。
強い感情の流れが起こり、深い内的状態のプログラムが、表層に浮上してきます。そこで、それらのプログラム(感情)を、意識(気づき)と交流する中で、発散していくことで、プログラムの改変を行なうことができるのです。ここに、ゲシュタルト療法が、NLPテクニックでは行なえない、深い層でのプログラム改変を行なえる理由があるのです。
この状態は、クライアントの方も、自分の意識状態が変わり、心の深いレベルにコンタクト(接触)していることは、明瞭に体感できる状態です。その状態の中で、新しい行動選択への可能性を、閃光のように気づき、試していくことができるのです。そして、別の新しい感情表現を試し、自分が、その境界(限界)を拡大していく様子を鮮明に実感できるのです。
ゲシュタルト療法の創始者フリッツ・パールズは言います。
「『気づく』ことは、クライエントに自分は感じることができるのだ、動くことができるのだ、考えることができるのだということを自覚させることになる。気づく』ということは、知的で意識的なことではない。言葉や記憶による『~であった』という状態から、まさに今しつつある経験へのシフトである。『気づく』ことは意識に何かを投じてくれる。」
「『気づき』は常に、現在に起こるものであり、行動への可能性をひらくものである。決まりきったことや習慣は学習された機能であり、それを変えるには常に新しい気づきが与えられることが必要である。何かを変えるには別の方法や考え、ふるまいの可能性がなければ変えようということすら考えられない。『気づき』がなければ新しい選択の可能性すら思い付かない。『気づき』と『コンタクト』と『現在』は、一つのことの違った側面であり、自己を現実視するプロセスの違った側面である」(パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳、ナカニシヤ出版)
このような気づきが、セッションの中では、起こって来るのです。
それは、通常の日常生活では、決して経験しないタイプの深い気づき(目覚め)の体験であり、人生そのものの拡大をもたらす新たな経験領域の獲得となっていくのです。
ところで、このようなゲシュタルト療法の体験の層と、NLPの軽微な体験の層とは、現実的には地続きとなっています。そのため、実際のセッションの中では、これらの各領域を、自在に行き来することにより、自分の内的体験を編集したり、デザインしていくことができるのです。
◆夢見のシャーマニズム ―アウトプット(表現)と世界と関わること
さて、拙著『砂絵Ⅰ』では、「夢見の技法」と題して、意識的なプロセスと、潜在意識な夢のプロセスとを、交錯させる創造的な技法について取り上げました。
→拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容(改訂版)』
いわば、日常意識と夢の世界とを、地続きで交流・生成させて組織化していく技法です。そのことにより、より拡充した現実世界(日常意識+潜在意識)の地平を、創り出していくという取り組みです。
ところで、私たちが何かをアウトプット(表現)するときは、対象(作品の枠組み/形式)に集中するとともに、心身の潜在意識的な内容を「投影 projection」して、対象に、(私たちの気づけない)潜在意識にある内容が生み落としていきます。外的世界の対象に投影された感覚(心理内容)から、アウトプット(創出)の流れが自然に生まれてきます。
この集中的な心理的な「投影」が、アウトプットを、自己の内側から引っ張り出して来るのです。
そのため、アウトプットすることは、それを行なっている当人にとっても、無意識の未知なるものと、出遭う体験となるのです。心理学者ユングは、私たちは、投影を通してしか、自分の無意識(潜在意識)を知ることができないと言ったのは、そのような意味合いです。自分の潜在意識にあるものを、人は、そのままで知ることはできないからです。
これが、アウトプット(表現)を経由した、夢見の技法であり、私たちの創造力や世界体験を拡大するとともに、新しい意識拡張や、創造力流出の機会ともなるものなのです。
◆NLP(神経言語プログラミング)・ゲシュタルト療法・夢見のシャーマニズム
さて、これらNLP((神経言語プログラミング)、ゲシュタルト療法、夢見のシャーマニズムもまた、体験領域の層においては、地続きでつながっているものです。
これらを有機的に連携させて、デザイン的に組織化することで、より新しい拡充された現実の層を実現しようというのが、当スペースの創造性開発・意識拡張のアプローチ方法となっているのです。