「ワーク」とはⅡ 過程と構造

ワークのプロセス(過程)と促進

さて、ゲシュタルト療法のワーク(セッション)というものは、クライアントの方の内側から現れてくる「その時その時の自発的な欲求(プロセス)」にそって即興的に展開していきます。
巷によくある「できあいのステップ」に当てはめるだけのセッションではありません。

ワーク自体は、クライアントの方の語りや気持ちの変化によって、表面的にはあちこちに行き、紆余曲折して進行するかのように見えます。
しかし、内側(内面)では、欲求(感情)の自律的な性質によって、基本的には一貫したプロセスによって展開していくものです。
実際のワークの詳細については、下の「セッション(ワーク)の実際」をご覧ください。ここでの解説は、プロセスの幹の部分のみとなります。
「セッション(ワーク)の実際」


実際ワークがどのような流れやステップをとりがちなのかを別に見た目的①の「未完了の体験を完了する」タイプを例にとって見ていきたいと思います。
※「目的②」の葛藤解決タイプのプロセスも同じです。

1.「入口(ワークの開始)」
…まず、クライアントの方とファシリテーターは合意して、ワークという特別な時空に入ります。

2.「感覚・探索」
…クライアントの方は解決したいテーマに関連して、自分の中から湧いてくる感覚や感情のゲシュタルト(形)に注意を向けていきます。ファシリテーターは、その探索を促進するためのさまざまな焦点化や提案を行なってきます。

人間の生理というものは「未完了の体験」やその付近の感情を刺激されると、異物を吐き出すかのように「未完了の体験」の記憶を知覚の前面に押し出してきます。

クライアントの方は、自己の内的感覚・感情に触れ、そこへ没頭する中で、だんだんと軽度な変性意識状態(ASC)に入っていきます。そのため、普段は気づけないさまざまな微細な感情や感覚情報に、気づくことができるようになるのです。
※「変性意識状態(ASC)」という概念や理解は、古典的・教科書的なゲシュタルト療法にはありません。当スペースで独自に定義している部分です。しかし、この状態把握により、なぜ世間のゲシュタルト療法の効果にムラ(深浅)があるのか理解できると思います。

3.「未完了の体験(ゲシュタルト)の発見」
…そのような探索の中で、クライアントの方は、自分の中でつかえている、さまざまな未完了の欲求や感情を捕まえていきます。少しずつ表出して明確にしていきます。
一緒にファシリテーターも、その助けになるようなさまざまな焦点化を行なっていきます。玉ねぎの皮むきのように、クライアントの方の内側から次々と、より核心的な感情が湧いてくることになります。

4.「技法的な提案(介入)」
…ファシリテーターが、その未完了の体験(ゲシュタルト)を完了するための色々な技法的な提案を行なっていきます。

「こういうことを行なってみてはどうですか?」
「このように言ってみる(表現してみる)のはどうですか?」
などです。
場面設定の場合は、登場人物やセリフ・行為などの設定です。
その設定が、クライアントの方にとって、ピッタリと来た場合や興味が湧いた場合に、クライアントの方はそれを行なってみます。

5.「未完了の体験(ゲシュタルト)の完了」
…技法的な提案内容が、クライアントの方にとって適切なものであった場合、クライアントの方にとって深い感情表出と意識化(アハ体験・気づき体験)が達成されます。

エネルギーの大きな解放感、未完了の体験(ゲシュタルト)の完了、葛藤と苦痛の消失が達成されていきます。クライアントの方は、大きな統合感や力の獲得した感覚を得ることになります。

6.「出口(終了)」
…ワークという特別な時空から出ます。閉じるプロセスです。
クライアントの方は、ワークの内容を完了・主体化して日常的現実に戻っていきます。

さて、前段で、人間生理の自律的な性質と書きましたが、ワークの経過や展開というものは、クライアントの中で起きてくるプロセスを、きちんとフォローしていくと類型的な「自然のプロセス」を示していくものです。
そして、ファシリテーターの行なうことは、このプロセスの展開を阻害しないように、「促進(ファシリテート)」していくことだけなのです。


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セッション(ワーク)の実際

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。

動画解説 セッション(ワーク)の実際