葛藤解決の方法(ポイント)Ⅰ

さて、ここでは、葛藤解決の方法(ポイント)について解説してみたいと思います。
別のページでは、ファシリテーター側の視点から葛藤解決の方法を解説いたしました。
エンプティ・チェアの技法など

今回ここでは、逆に自分がクライアントの側として自分の葛藤解決をする場合に、どのような体験過程(プロセス)に注意して、気づきや表出を深めると葛藤が解決していくのか、そのポイントについて解説してみたいと思います。

さて一般に、葛藤とは、私たちの心の中で、複数の欲求や感情がからまり、相反し、苦痛を生んだり、身動きが取れなくなる状態をいいます。私たちの中に、複数の欲求が併存していることは分かっているわけです。

ところで一般には、この複数の欲求というものが、その背後に「複数の自我状態」として存在していることは充分には理解されていません。
そのため、自分が何かやりたいことをしようとしている時にそれを邪魔する感情や欲求が湧いてくると、何か妨害されたような気分になり、苦痛を感じたり落ち込んだりします。
そして、自分や自分の欲求は「善」として考え、自分を苦しめたり妨害して来る欲求や感情は「悪」なる存在であると感じられるわけです。
それら「悪」なる欲求や感情にどこかに去ってもらいたい、消えてもらいたい、排除したいと考えているわけです。
そして、多くの人がそれらの邪魔して来るような感情や身体感覚は、子供の頃や若い頃から「自分のパターン」として認識しているもので「また、いつもの奴が出てきた」と感じたりもするものです。

さて、(深化した)ゲシュタルト療法の考え方では、そのような感情や身体感覚とは、私たちの無意識にある別の自我状態がなんらかの「意図」をもって働きかけている結果なのです。もしくは、普段私たちが同一化している「なじみの自我」と別の自我状態の意図とが「摩擦を起こして」いる症状といえます。

そのため、この苦痛な感情や身体感覚が「別の自我」という理由(わけ)ある存在との葛藤によって起こっていると知ることが、葛藤解決の第一歩なのです。

現れてくる感情や身体症状は、単なる偶然や余計なノイズではないのです。
それはシグナルを送っているというわけなのです。

次の第二歩は、その自我の正体や意図を知っていくことです。
そして、その自我の正体(意図)を知る際に、重要なのはその自我自身の内奥の感情を「体験的に」っていくことということです。

頭や思考で考えても、本当に知ることはできません(それができれば、葛藤はとっくに無くなっています)。
その感情のエッセンスに、その自我が何者であるかの秘密が潜んでいるのです。
そのため、自分の(その感情の)深いところに下降して、コンタクト(接触)して体験することが必要となるのです。

そうすると、一見表面的にはネガティブで「悪」であると見えた感情の奥底には、逆に能動的な渇望と欲求があることが分かってきたりするのです。

その自我欲求の「どうしたい」「何が欲しい」という根源的な欲求がそこにはあるのです。
それらは大概、本人が本当に生きるために必要な原初的で肯定的な、愛情や愛着にまつわる大切な欲求・渇望です。

葛藤のもつれをほどいていくには、そのような奥底にある渇望や欲求を「今ここで」充分に体験してみる必要があるのです。気づいていく必要があるのです。
そして、それらの渇望や欲求が人生の中で充分に生きられなかったため、(なんらかの理由で凍結したため)心の中の未完了の体験として存在していたと知ることが大切なのです。
同時にその欲求と渇望の力は死ぬことなく生き続けて、自分を駆り立てていた根源的なエネルギーだと知っていくことになります。

そのためには、まずはその心の渇望や欲求のあり様をよく体験し、気づき、認め、充分に受け入れていくことが必要となるのです。その渇望は、私たちがこれまで生きてくるに際してとても重要な役割を担っていたのです。
しかし、人生や生活の中で、また日々の処世術の中で、その渇望や欲求や深い感情は、抑圧され排除され、無いものにされていたのです。そのため、それらは何か関連する特有の機会に、身体感覚や刺激的な感情(苦痛)となって現れるようになったのです。

そのため、まずはそれらがいつも自分とともに存在していることを知り、真の姿は善きものであると、肯定的なエネルギーであると体験し、気づき認めることが第一歩となるのです。

ちなみに付け加えると、このような深い渇望をもった自我がどのような過去の出来事に由来したかということはあまり重要ではありません。過去の出来事自体が無かったことさえあるのです。
重要なのは、今現在実際に存在しているその感覚(渇望)の真意なのです。そのため、その渇望が今何を欲しているかその感覚を感じていくことが重要となります。

さて、ところで普通の現代生活の中では、このような人生で周縁化された感情や渇望や欲求をつかまえて、その真の姿を知り、葛藤を無くしていくような機会は基本的には訪れません。

通常はその分裂と葛藤を抱えたまま生涯生きていくのです。それはある意味、心の一部分にフタをしてしまって、生きていない状態でもあります。
そのため、その心の一部分は執拗に現れてきては私たちを苦しめるのです。それが「未完了のゲシュタルト」ということです。それが非常に強い場合は、鬱的な症状となって現れたりもします。

さて、ところでゲシュタルト療法においては、基本的な手続きと技法的な仕組みを使うことで、このような人生でないがしろにされていた重要な渇望や欲求をそれと認め、それらの存在を受け入れ、心理的に、自分のものとして統合していくということをセッションで行なっていきます。
その結果、「より十全に自分である」という感覚を持って生きていくことができるようになるのです。

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さて、次に実際のゲシュタルトのワーク(セッション)の中で、葛藤を解決するにあたって、また自己の内側を探索していくにあたって、どのようなことに注意すればよいかについて記してみたいと思います。

さて、まず葛藤状態が、ワーク(セッション)の中で浮かび上がってくるタイミングは、自分の中にある或る欲求(感情)の表現を試みようとした時、それを否定するような別の欲求(感情)の存在に気づいた時です。
そこには、色々なパターンがあります。
「○○をしたい」に対して、「○○したくない」というようなストレートな反対欲求(感情)がまずあります。
他にも、「○○をしたい」に対して「そんなの無駄なんじゃない(意味ないんじゃない)」という懐疑や否定、無価値化の欲求(感情)があります。
また、「○○したい」に対して「そんなことより、もっと別の○○すべきだ」という強制や優先の欲求(感情)があったりします。

このような別の声の存在をとらえることが重要です。そのような自己の内にある別の欲求(感情)の存在に気づいた時に、自分から(または、ファシリテーターの提案で)その別の欲求(感情)をエンプティ・チェア(空の椅子)に置いてみることにします。

自分の外にその存在を一旦切り分けてみるのです。自分の2つの欲求(感情)が2つのエンプティ・チェア(空の椅子)に空間的に配置されることになります。

自分を妨げる欲求(感情)の存在を自分の外に出すと、より自己一致して自分の欲求(感情)自身を深く感じとれる(味わえる)ようになります。

実際、妨げるものがなくなると私たちの欲求(感情)というものは、ふっと身軽くなったかのように自由になって、普段の日常ではわからなかったような内奥の真意を告げて来るものなのです。
それを充分に感じとり、身体化(受肉化)していくことが重要となります。

奥底から飛び出してきた、普段は隠れていた欲求(感情)というものは、孵化したばかりのヒナのように柔らかな存在なので、それを充分に現実的な存在にするには、身体的な表現なども交えて堅固に固めていく必要があるのです。

さて、この切り離した欲求(感情)の内奥の探索に際して、それを「充分なものにする」のは2つの側面(ベクトル)がポイントとなります。

①「底の方から」の側面
②「相手に向かって」の側面

です。
「底の方から」というのは、欲求(感情)の階層性に由来した視点です。
私たちの葛藤している欲求(感情)というものは、葛藤している別の欲求(感情)と相互拘束状態にあります。
互いが互いを縛っているがゆえに、その個々の欲求(感情)が生み出されているという逆説構造を持っているのです。
そのため、葛藤しているものから解放されていくと、欲求(感情)とはその本来性に根差したより深い欲求(感情)を告げてくるものなのです。

やり方としては、まず最初に、葛藤しているものから解放されるためにその欲求(感情)、先ほどまでの欲求(感情)を充分に感じて繰り返し表現していきます。
その欲求(感情)をひとしきり出し尽くすと(表出し終わると)、自己の枯れた井戸の底にふっとシフト(転換)が起こって、別の新たな欲求(感情)を現わしはじめるのです。

その欲求(感情)は、葛藤状態では鬱屈し歪められていた本来の欲求(感情)なのです。そして次に、その本来の欲求(感情)を「充分に」探索して表現・表出してみるのです。

葛藤の要素(自我状態)を(エンプティ・チェアなどで)切り分けた場合は、この状態(真の欲求)まできちんとたどり着く必要があります。そうでないと、その欲求(感情)は中途半端な、未完了感をどこかに残したものに留まってしまうからです。これが①の「底の方から」でいう大切なポイントです。

②の「相手に向かって」とは、切り離した欲求(感情)が誰に対してその欲求(感情)を持っていて、誰に対して欲求を成就する必要があるかという側面です。

それは、第一には対峙していた欲求(感情)に対してであるということです。そのため、欲求(感情)の感じ方・表出に際しても最終的には、その相手にきちっと欲求(感情)を伝えていくことやコンタクト(接触)していくことが重要となるのです。その意向の中で、欲求(自我)間のエネルギーの交流が物理的に生じていくことになるのです

そのことが、欲求(感情)を「現実化」と「統合」に向かわせるにもきわめて重要なポイントなのです。
また身体化(受肉化)していくにも大いに役に立つのです。

ここで、2つの欲求(自我)をきちんと接続(交流)できないと現実感と統合に不足が生じてしまうのです。
これが②の「相手に向かって」という重要なポイントです。

この①と②が充分に深められて練られてワークが行なわれていくと、葛藤解決はよりつよい強度をもった自己の統合として着地することができるのです。
ぜひ、試してみていただければと思います。

 

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著↓
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
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気づきや統合、変性意識状態(ASC)へのより総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
および、よれディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。

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↓動画「ゲシュタルト療法 葛藤解決の方法」↓

↓動画「葛藤解決の方法Ⅱ ネガティブな感情の扱い方」

動画エンプティ・チェア(空の椅子)の技法Ⅱ 葛藤解決」

↓動画解説 エンプティ・チェアの技法

↓ゲシュタルト療法については、拙著『ゲシュタルト療法ガイドブック:自由と創造のための変容技法』をご参照ください。