夢をあつかうワーク 「夢のワーク」について

さて、「夢」は、無意識にいたる王道とも言われ、心理療法の各派が重視しているものです。
ゲシュタルト療法においても独自の理論やワークの技法を持っています。

実際のところ、ゲシュタルト療法の夢のワークは大変ユニークなもので、新鮮な気づきを得ることができるものとなっています。

たとえば、ユング心理学の流れをくむ、プロセスワーク(プロセス指向心理学)の創始者アーノルド・ミンデルは、とても夢を重視する実践家ですが次のように指摘します。

「現代のゲシュタルト療法の創始者であるフリッツ・パールズは、先住文化のシャーマンがいれば間違いなく仲間として歓迎されたであろう。パールズは、自己への気づきを促すために、夢人物(ドリーム・フィギュア)や身体経験との同一化ならびに脱同一化法を用いた。そして、モレノの「サイコドラマ」から、夢見手が自分や他者を登場人物にすることによって夢の内容を実演化する方法を借用している」
(ミンデル『ドリームボディ』藤見幸雄監訳、誠信書房)

実際、ゲシュタルト療法の「夢の扱い方」にはこのような面が見られるのです。
ここでは、その方法論や手順について記していきましょう。

①理論

ゲシュタルト療法では、夢に登場してくる人物や事物(風景の含めて)とは、クライアントの方の「断片化された自我」であると考えます。クライアントの方の心の全体が、夢のディテールとして現れていると考えるわけです。

そのため、通常のワークと同じく、クライアントの方がそれぞれの自我状態をよく体感し、気づきを得て、自我同士の交流や統合を図っていくことがワークの目的となります。

②手順1 現在形で話してもらう

まずは、クライアントの方に、夢の話をしてもらいます。
この時、ポイントがあります。夢の話を「現在形で」話してもらうのです。
通常、人は、夢の話をする時に、「~であった。~でした。」と過去形で話します。

しかし、このワークでは、それを、夢を見ている当事者になって、
「今~しています」
「今、~が~しています」
と現在形で話してもらうのです。

夢とは、常に生きつづけている無意識の表現です。
このような話し方に変えることにより、クライアントの方は、夢の無時間的な力にダイレクトにつながることができます。

また、過去形の回想形式では、要約されてしまうことによって見過ごされてしまう小さな場面や細部、または情動の反応に細かく気づくことができるようになるからです(クライアントの方の情緒的な反応が顕著な場合は、そこからすぐに通常のワークに移行します)。

③手順2 実演化する(登場人物になる)。

夢をひととおり話してもらった後に、クライアントの方に気になる場面をピックアップしてもらいます。その「場面」をワークの素材としていきます。
その場面の中で、クライアントの方が「気になる」色々な登場人物や事物をエンプティ・チェアに置いていったりします。
そして、エンプティ・チェアのワークと同様に、その夢の役(登場人物)になってもらい、その夢人物の背後にどのような欲求や自我状態がひそんでいるか探っていくのです。
エンプティ・チェアのワークと同様に出てくるプロセスにしたがって、ワークを展開していくのです。

ところで、通常、夢の中で現れる自分=主体は、普段の日常的現実の中で、自分が同一化しがちな「或る自我状態」です。
一方、自分以外の登場人物(他者・事物)は、たいがい自分が排除し切り離して disownいたり、周縁化 marginalizeしている自我状態が多いものです。

しかし、実際にそれらの自我状態になってみると(同一化してみると)、それはたいがい秘めた欲求(感情)や知性を持っており、現在の人生に対するさまざまなヒントを与えてくれることが多いのです。
パールズが「夢は実存的なメッセージである」と言ったわけです。

さて、以上が、ゲシュタルト療法における夢のワークの進め方のあらましとなります。

夢のワークは、実際に体験してみると、私たちの心の中に存在している隠された欲求(感情)や潜在能力を知る実に新鮮な機会となります。また、私たちの内的世界への信頼を深め、内なる創造力に接触する機会にもなるのです。

 

※ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著↓
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。

動画解説 夢をあつかうセッション ゲシュタルト療法

↓ゲシュタルト療法については、拙著『ゲシュタルト療法ガイドブック:自由と創造のための変容技法』をご参照ください。