葛藤状態とは、私たちの中で複数の欲求(感情)が対立や競合を起こし、苦痛を生み出している状態です。
ところで、当スペースでは、葛藤の背後に「複数の自我状態(私)」の存在を見ています。
私たちの人格の中にある「複数の自我状態(私)」によって分裂が引き起こされてしまうのです。
→複数の自我 (私)について 心のグループ活動
さて、私たちは、そのように複数の自我状態を持っているのですが、通常普段はどれかひとつの自我に完全に同一化しているため、自分が複数の自我状態(私)を持っているということに気づけないでいるのです。
そのため、主観的には、ただ悶々とした感情や苦痛、抑うつ感や罪悪感、自信のなさや生きづらさしか感じとれないでいるのです。
ゲシュタルト療法では、セッション(ワーク)では、この自我たちを、目に見える形で取り出して、自我状態の間の交流や調整を図っていくのです。そうすることで、この葛藤状態を解消(統合)していくことになるのです。
ところで、よく葛藤とは「アクセル」と「ブレーキ」を同時に踏むようだと言われます。
しかし、厳密な機能で考えてみると(深層の部分では)その表現は少し違います。
つまり、ブレーキをかけているような自我の欲求(言い分)を深く解き明かしていくと、必ずその自我の深い部分に本当には肯定的な意図が存在しているのです。
つまり、実はブレーキではなく、両方ともアクセルなのです。アクセル同士が別のベクトルを向いているため、互いを牽制しあい葛藤が生じてしまっているのです。
◆「やる気が出ない」は正しい
「やる気が出ない」ということがありますが(変な言い方ですが)、それは正しい状態なのです。
つまり、それは理由があって「やる気が出ない」という気分(表現)になっているからです。
そのため、必要なのは、その理由(真の意図)を知ることなのです。
そして、そこ(潜在レベル)には必ず自我状態の間の葛藤があり、それぞれの自我は深い「肯定的意図」をもってそのように作用しているということなのです。
その意図がくみ取られないと、葛藤状態は解消されることがないのです。
そのさまざまな「自我状態たちの本音」を知っていくことは、自己自身をより深く知っていくこと、自己のダイナミックな創造力を生きることにつながっていくのです。
(そのため、葛藤自体は一概に悪いものでもないのです。パールズらはそう考えたのでした)
ところで、世の中には、「モチベーションUP」の書籍が氾濫しています。多くの人がそう願っているからでしょう。現代社会の風景を見ればそれも頷ける現象です。
しかし、いくら本を読んでも、その場かぎりの表面的なモチベーションしか上げることはできないでしょう。
まず、気づくべきは、やる気を上げたいと欲しているのは、今の自分が同一化している「やる気を上げたい自我状態」でしかないからです。
その他の自我状態には、何かそのことに反対する積極的な理由(意図・欲求)があるからなのです。
安直な(場合によっては逃避的な)モチベーションUPを望むのではなく、自分の心の底にあるものに深く気づいて、そこを丁寧にひも解くことによって、真のモチベーションの展開と、自分の心の全体性を生きるという創造的なプロセスがはじまるのです。
◆ワーク(セッション)において
さて、実際のセッションにおいては、葛藤している各自我状態をエンプティ・チェア(空の椅子)の技法などを使って取り出し、各自我状態の深層の欲求を聞き出し、自我間の交流と統合をはかっていきます。
これがなぜ可能になるかと言いますと、私たちは普段は、通常「どれかひとつの自我状態にしか深く同一化できない」のですが、ゲシュタルト療法の技法においては、(その他の自我状態を引き出してきて)「その他の自我にも同一化すること」が可能になるからです。
たとえば、エンプティ・チェアの技法を使うと、個々に対立していた各自我状態の本音が引き出せ、その間に情報的エネルギー的な交流が起こり、自我間の対立する要素が減ります。
別の個性・特性(グループの仲間)として、互いを尊重したり協力したりできるようになります。
お互いを妨げることなく、より相乗的にパワーを発揮できるようになるのです。
セッション(ワーク)では、そのことを実現するために、時間をとってじっくりと個々の自我状態の言い分(欲求・意図)を聞いていきます。
そのことで、私たちの中に、複数の自我状態の融合や統合が起こってくることになるのです。
【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著↓
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。
変性意識状態(ASC)へのより総合的な方法論は、拙著↓
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。