へリンガーのファミリー・コンステレーション

バート・ヘリンガー氏の創始した「ファミリー・コンステレーション」は興味深い心理療法です。
ネットなどでは、「怪しい」と検索されていますが、たしかに「怪しい」心理療法です。
それは、「科学的な」近代的心理療法ではないからです。
しかし、そういう意味では、大きく言うと、フロイトの「精神分析Psychoanalysis 」系由来のものは、皆そうだともいえるのです。
「無意識」「潜在意識」などは、仮説でしかなく、(一部の人が好きな)「科学的なエビデンス」などないからです。しかし、「科学的な」心理療法があまり効果を出してなく、「科学的ではない」心理療法の方が効果を出している実情を考えると、心理療法に、「科学」は必要ないとも言えます。
(「科学的」であることが正しいと考えていること自体が「迷信」です)
というのも、そもそも、「心」自体が、科学的ではないからということもあります。「心」は、科学に回収される浅薄なレベルのものではないからです。
また、そういう意味では、効果に、セラピスト個人の力量による違いが出やすいという面もあります。
聞くところを総合すると、この「ファミリー・コンステレーション」においては、特にその面が強いといえるかもしれません。それは、その内容を考えるとよくわかります。

さて、「コンステレーション」とは、配置、布置、星座という意味であり、ユング心理学などではよく使われる言葉です。

ファミリー・コンステレーションは、A.ミンデル博士のプロセスワークで行なう「ワールドワーク」の元ネタになったとも言われますが、実際にそのセッション(ワーク)を経験していくと、個人と集団(集合)、または個人的なテーマと集団(集合)的なテーマとの間にある一種不思議なエネルギー的な結びつきについて、感覚的な体験を深めていくことができます。

①ワークの方法

通常、心理療法のワークでは、セラピストが、クライアントの方の主訴を聞き、当然ですが、クライアントと直接に何らかのやり取り、働きかけを行なっていくことによりワークを進行させます。治癒のプロセスを促進します。

しかし、ファミリー・コンステレーションにおいては、まず、そこが違うのです。

セラピストが、クライアントの主訴を聞いた後、クライアントの家族や家系等についていくつかの質問を行ない、そのワークで使っていく「登場人物」を幾人か選定していきます。(多くは、家系に関係した、両親や親族です。クライアントが、実際に会ったことのない人物も含みます)

そして、クライアントに、「本人(自分)役」も含めて、その登場人物たちの「役」を演じてもらう人=「代理人」を、ワークショップの参加者の中から、
直観で選んでもらうよう要請します。

クライアントは、それぞれの役の「代理人」を、自分の役も含めて、数名(人数分)選び、部屋の中の、ここだと思う場所に、(登場人物たちの、「関係性」を、感じながら)空間配置します。

そして、そこから、面白いことです。
セラピストとこの代理人たちとによって、代理人同士のやりとりによってワークが展開されていくのです。

そして、クライアントは、それを、横で見ているのです。

これは、心理療法としては、大変、奇妙な(異様な)光景です。

②ワークの展開と体験

さて、代理人を演ずる参加者は、通常、クライアントのことを、ほとんど知りません。そのワークショップの当日に、会場で、初めて会ったからです。

しかし、代理人として、その、家族・家系関係の「場」の中、「空間配置」の中に立つと、他の代理人(家人)との関係が、エネルギーの強弱、快不快の身体感覚、感情的な情報として、なぜか感じられてくるのです。

その情報を、手がかりに、セラピストは、代理人たちとやり取りを進め、代理人たちに、空間移動をさせ、表現を促し、代理人(家人)のからだの向き、立ち位置や位置関係をさまざまに変えて調整していきます。

そのことにより、その家系(家族)の正しい位置関係や、その家系(家族)の中で排除した(欠落させた)人物やテーマを探っていくのです。

それは、あたかも、家系(家族)の関係性自体が、ひとつの生体として持っている自律的なエネルギーをほぐし、伸ばして、「整列」させるかのように展開していきます。(これを「もつれを解く」と呼びます)

そして、ワーク(セッション)では、その整列・展開の果てに、クライアントを、家系(家族)の配置の中に、招きいれ、その家族・家系の全体のエネルギーを正しく流れていくように調整していくのです。

クライアントに、自己の家系の存在と、そのつながりを理解してもらい、自分の存在の位置を、深く理解してもらうのです。

………………………

さて、ファミリー・コンステレーションの、ワーク(セッション)は、通常の心理療法とは、まったく進め方も体験の質も違います。

しかし、クライアントにとっても、役を演じた、代理人にとっても、とても不思議な印象深い体験となります。

私たちの背後に生きている、「家系のエネルギーの流れ」という、よくわからない力が、何らかのエネルギーとして存在していることを、(自分たちに影響していることを)体験する貴重な機会となるからです。

そしてまた、そのようなテーマが、一定の心理療法的なセッションの中でも、実は浮上していること、そして、関わっていくことができることに、気づくからです。

それはまた、セッションの新たな可能性を、見出していくことにもなります。ミンデル博士が、ワールドワークを着想していったようにです。

実際、筆者自身も、その後の経験の中で、ファミリー・コンステレーションで、体験した要素は、ゲシュタルト療法その他の、セッションの中でも、人物たちの場の配置や、エネルギーの流れにより色々と現れていることを、その後、確認していきました。

そして、ファシリテーションの幅を、広げていく霊感にもなったのです。

変性意識状態(ASC)についてのより総合的な方法論は拙著↓
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。