モビルスーツと拡張された未来的身体

さて、拙著『砂絵Ⅰ』の中では、「夢見の技法」に関連して、私たちの心理的投影と身体性がどうかかわるのかについて紙数を割きました。
→拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』

メルロ=ポンティのいう「画家は、その身体を世界に貸すことによって、世界を絵に変える」『眼と精神』木田元他訳(みすず書房)という言葉などを素材に、私たちが、世界を投影した身体性を通して理解するその仕方について検討をしてみました。そして、そのことが、夢見の技法として、どのように利用可能なのかについて考察してみました。

さて、ここでは、そのような文脈で、拡張された(投影的な)身体性と、意識拡張との関係について考えてみたいと思います。

 

◆モビルスーツの身体領域

「モビルスーツ」とは、一時代を画したアニメ作品『機動戦士ガンダム』の中に登場する戦闘用の機体(ロボット)のことです。

アニメ作品『機動戦士ガンダム』は、初回作品とその玩具(プラモデル)が、一世代の熱狂を引き起こし、シリーズ化されていったものです。

また、その作品の物語設定についても、独特の仕掛けがさまざまあり、セカイ観を売り物にする、その後のアニメ作品群の先駆けになったともいえるかもしれません。

しかし、筆者が、ここで、特にテーマとしたいのは「モビルスーツ」というロボット(機体)の拡張された身体性としての意味合いなのです。

ところで、モビルスーツは、それまであったアニメ作品、たとえば『マジンガーZ』のような偶発的なロボットとは趣を異にし、未来国家の量産型の軍事兵器という設定で登場します。

元々は、番組から玩具をつくり出すマーケティング上の必要性があったわけですが、物語の設定上でも高度に発達した未来社会の戦争においても、なぜ、ロボット同士の白兵戦が必要であるのかという納得性(設定)を形成することで、高機能化し進化していくモビルスーツの、必然性をつくり出すことになったわけでした。

ところで、一方、実際、後に、玩具としてヒットするわけですが、モビルスーツの、ある種の美的で不思議なデザインがなければ、時代の(その後の)熱狂をつくり出すこともなかったとも思われるのです。

特に、玩具商品のラインナップの大部分であった、ジオン軍のモビルスーツの持つ、ガウディの作品のような曲線を多用した異形性と新奇性、あの有機的なデザインが無ければ、そこまでの支持は得られなかったとも類推されるわけです。

また、玩具自体について言えば、それまでのプラモデルにあまりなかった、関節の「可動性」を高めた点も重要なポイントでしょう。子どもたちは、自らの身体性を人形に投影するものです。人形の可動性の高さは、そのまま、子どもたちの感覚の自由度を高めることにもなるからです。

現在でも、フィギュア商品の、可動域の広さが商品の売りとなるのは、そのような意味合いだとも考えられるのです。

 

◆拡張する未来的身体と、意識の拡大

さて、物語の展開にしたがって、軍事兵器としてのモビルスーツは、次々と高機能化し、進化していくわけですが、興味深いことは、その進化にともなって、物語の終盤には、進化したパイロット(ニュータイプ/超能力者)も現れて来るということです。

ストーリー的には、偶然、特殊進化(超能力化)したパイロットに合わせて、進化させたモビルスーツが作られたようにも見えます。物語的には、宇宙空間に出た人類が、自然に生物種として進化していくというイメージです。

しかし、通常、このような生物の能力進化とは、環境と生体との相互作用(苦闘)の結果であり、どちらかが原因であるとは一概に特定できないものなのです。

フロー体験に見られるように、環境と表出(表現)と、内容(生体)とのギリギリの極限的な相互フィードバック(苦闘)の中で生成して来るものなのです。

つまり、物語の設定に合わせていえば、宇宙における戦争・戦闘という極限状態の中での、拡張された表出身体(モビルスーツ)と、内容(パイロットの知覚力・意識)との、高度的な相互フィードバック(協働)の中で生成して来るものなのです。

モビルスーツがなければ、ニュータイプも生まれなかった。

こう考える方が、面白いと思います。宇宙空間を高速で稼働する機械の身体があったからこそ、知覚能力の進化が加速されたと考えるわけです。

アスリートのZONE(ゾーン)として知られる「フロー体験」について分析されるように、通常、私たちは、挑戦的な困難な状況の中での、的確な(拡張された)身体活動によって知覚力や意識が拡張されていくわけです。

そのような事柄が、この物語作品の中では、一定の納得性をもって描かれたために、一見無理やりで荒唐無稽にも見える、ニュータイプの設定が、表現としての強度を持ちえたのでした。事実は、そんなにニュータイプな事柄ではなかったのです。むしろ、古典的(神話的)ともいえる事象だったわけです。

 

◆日常生活におけるモビルスーツ(拡張する先導的身体)

さて、ここで、焦点化したい事柄は、モビルスーツのような宇宙空間において、高速で稼働する疑似身体(拡張された)が、ニュータイプ的能力を覚醒させ、拡張させていった原理的な仕掛けです。

新奇で、一歩先を行く表現活動(形態)が、私たちの拡張された知覚力や意識形態を引き出していくという点です。

そして、この能力の特性は、決してSF的な事柄に限定されるものではないからです。この日常的現実で、普通に起こっている事柄なのです。

さて、私たちは、身体という場で、世界と出遭っています。

そして、この身体は、肉体に限定されるだけでなく、モビルスーツにように、投影的で、創造的な活動領域全般に延長されているものです。

そのため、私たちが、自分の知覚力や意識をより拡張し、能力をより高めていきたいと考える場合には、活動しているフィールド(場)を、私たちの能力が引き出され(拡張され)やすいように焦点化して、設定してしなければならないのです。

宇宙(人生)を高速で横切るかのように、自分に課す日々の活動内容や人生の目標などを、自分の限界を超えるかのように、全身全霊で取り組まざるを得ないように、場や標的を創り、推進していく必要があるのです。

それには、戦闘状態のように、つねに、気づき awareness(覚醒)が求められる強度をはらんだ持続性が必要です。

徹底的に追い求めることにより、能力というのは、一線を超えた力を発揮はじめるのです。

そして、そのような強度の果てに、困難や既知の自己を超えはじめた時に、
(ベイトソンのいう)学習の階層が上がり、私たちは、意識と人生の新しい次元(宇宙)を見出しはじめることができるのです。

 

【ブックガイド】
気づきや統合、変性意識状態(ASC)へのより総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』

および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』

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