ブリージング・セラピー その1 呼吸法と事例

ここでは、「体験的心理療法」の典型として、「ホロトロピック・ブレスワーク」とその事例を紹介したいと思います。その治癒的な効果と、変性意識状態(ASC)の現れ方のあり様がよく分かると思われます。

ブリージング(呼吸法)を使ったセラピーは各種あります。呼吸は、私たちの意識と無意識をつなぐ、とても重要な媒体(要素)であり、そのため、古今東西の瞑想技法でも重視されているものです。

たとえば、私たちは、日頃よく「呼吸」を止めることで「感情」を抑制しようとします。思わず「息を止める」という行為です。

現代人にとって、これは、子供の頃からの習い癖となっていて、そのため、肉体自体(肺や横隔膜)が硬化して、呼吸が深くできないという人がいます。

しかし、そのことによって、その人は、その時は「生々しい感情」から守られていたことにもなります。しかし、その一方、その後に、生き生きとした生命力の不足に、悩まされることになったりもします。

そのため、呼吸をなめらかに滞りなく流すこと自体、自分の感情をなめらかに流していくことにつながります。各種のボディワーク・セラピーにおいては、身体の硬化したブロックを、直接的にほぐしていくことで、このプロセスを促進していきます。

自分の感情を抑えたり、コントロールすることを習い癖にしている人は、感情を深く体験することにはじめ恐怖を感じます。また、呼吸の開放によって、感情のコントロールを失うんじゃないかと恐れを抱きます。

しかし、心配は不要です。コントロールは、自然に働くものです。感情の開放と、呼吸のコントロールとの自然で統合的なつながり(流れ)を見出し、自分自身の新たな在り方(可能性とエネルギー)に気づくことができるでしょう。

さて、ブリージング・セラピーでは、このような呼吸の特質を使って、心の深層の次元に、アクセスしていく、力強い方法論なのです。

◆ホロトロピック・ブレスワーク

「ホロトロピック・ブレスワーク」とは、スタニスラフ・グロフ博士が、開発したブリージング・セラピーです。グロフ・ブリージング、ホロトロピック・ブリージングとも、呼ばれたりします。
↓グロフ博士のインタビュー

http://hive.ntticc.or.jp/contents/interview/grof)

博士は、当初、合法だったLSDを使った心理療法を行なっていましたが、LSDに法的規制が加わった後、ブリージング・セラピーでも、同様の内的プロセスを促進できることを発見し、その方法論を体系化したものです。詳しくは、S・グロフ博士の『自己発見の冒険』(吉福伸逸他訳 春秋社)などに、詳しい記述がありますで、そちらをご覧下さい。ここでは、ポイントだけを記していきます。

①セッションの方法

1セッションで、1時間から数時間かけて行ないます。

セッションは、二人一組になり、中心のクライアント(ブリーザー)とサポートする「シッター」と役割を決めて行ないます。

クライアント(ブリーザー)が行なうことは、セッションの間の数時間、大音響で音楽が流れる中、ただ「過呼吸」を行ない、生起して来る内的プロセスに、気づきをもって身を委ねるだけです。プロセスは、自然に生起してきます。その中で、起承転結が自然に起こるのです。

②内的プロセス セッションの経過

グロフ博士は言います。

「たいていの場合、ホロトロピックな体験は、オルガスム曲線を描き、感情のもの上がりとともに、身体的兆候が現れ、それが絶頂期を迎え、突如の解決に導くといった経路をたどる」(前掲書)

この内的・現象的・症状的な経過は、とても自然な流れで起こり、私たちの内部の〈自然〉の圧倒的な自律性(知恵)を感じさせる類いのものです。

セッションの間は、主観的には、この体験がどこに向かうのか、何が起こるのか、まったく予測がつかない状態ですが症状や体験過程が、ある程度、進行して来ると、そのプロセスに無理がなく、私たちの経験的な体感覚とマッチしていることもあり、とりあえずは、その過程の行く末に任せてみようという気になってきます。

◆「出生外傷(バース・トラウマ)」

「分娩前後マトリックス」

「出生外傷(バース・トラウマ)」は、フロイトや弟子のオットー・ランクらが、人間の深層にあるトラウマとして指摘していたものです。しかし、その指摘はどこか暗喩的なニュアンスがありました。

グロフ博士は、クライアントとの数千回にわたるLSDセッションを行なう中で、人間の深層に文字通りの物理的・体験的記憶として、「出生外傷(バース・トラウマ)」が実際に存在することを発見(判断)しました。

クライアントの「胎児として、子宮から、膣道を通って、出産される」という物理的な体験の記憶です。

これを、グロフ博士は、基本的分娩前後マトリックスBPM (Basic Perinatal Matrix)として、BPMⅠ~ BPMⅣまで4つのフェーズに分けて詳説しています。

実際の「産道体験」である同時に、その、それぞれのフェーズに、特徴的な存在状態の解説となっており、そして、どのフェーズで、トラウマな固着をもった場合に、人生でどのような傾向の問題(妄想)を引き起こすかを体系化したのです。


◆体験例

ここでは、筆者の体験を引用しておきましょう。ブリージング自体は、過去に何回も、行なっいますが、ここでは、はじめて、顕著な体験をした時のものを、拙著『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』より引用しておきます。

この時点で、既に何回か、ブリージングは、行なっていましたが、これといって、特別な体験は何も起こっていなかったので、

この時も、さしたる期待もなく、セッションを始めたのでした。

「……………………………
………………………
…………………

いつものように、
音楽に気を紛らわし、
過換気呼吸に、
集中していく…

過換気自体は、
不快なだけ、
苦しいだけ、
といってもいい…

探索するよう、
手さぐりするよう、
感覚と手がかりを求め…
呼吸を続けていく…

…………
………………
熱気が高まってきて…
顔や皮膚に、
ちりちりと、
蟻が這うよう、
痒さが走る…

茫漠とした不安に、
さきの見えない、
不快感が、
つのっていく…

呼吸に集中し…
気づきを凝らし…
内側から、
深層のプロセスが、
生起して来るのを、
見つめている…

光の斑点が、
眼の裏に、
交錯し、
輪舞する…

どのくらい、
経ったのか…
汗ばむ熱気の中、
苦しさは薄まり…
痺れとともに、
遠いところから、
満ちて来る、
生理の、
深いざわめきに、
気づく…

呼吸を続け、
その波を、
増幅し、
持続させることに、
集中する…

いつものよう、
手足のさきが、
痺れはじめ…
熱気の中、
斑らに現れる、
奇妙な汗ばみ…
冷たさの感覚… 

とりとめのない、
記憶や映像が、
夢の破片ように、
去来する…

どこへ向かっているのか、
予想もつかない…
しかし、
何かが、
満ちて来る気配…

内側の遥かな底に、
荒れ騒ぐよう、
何かが高まり、
生起する感覚…

呼吸を続け…
意識が、
途切れがちになる…
呼吸を保ち…
意識をただし…
気づきを凝らし…

………………………
………………
…………

どのくらい、
時間が経ったのか…
明滅する意識の向こうに、
ふと気づくと、
そこに、

「胎児である自分」

がいたのである…

それは、
記憶の想起ではなく、 
今現在、
今ここで、
「胎児である自分」
なのであった… 

感じとられる、
肉体の形姿が、
からだの輪郭が、
いつもの自分とは、
完全に違っている…

巨大な頭部に、
石化したよう、
屈曲した姿勢…
激しく硬直する、
腕や指たち…

手足のさきが、
堅く曲がり、
樹木のよう、
奇妙な形に、
ねじくれている…

からだ全体が、
胎児の形姿、
姿勢である…

そして、
気づくのは、
今ここに、
自分と重なって、
「その存在がいる」
という、
圧倒的な、
臨在の感覚である…
その存在の、
息吹である…

それは、
自分自身である、
と同時に、
かつて、
そうあったであろう、
「胎児である自分」
との二重感覚、
だったのである…

「いつもの自分」
の意識と、
「胎児である自分」
の感覚(意識)とが、
二重化され、
同時に、
今ここに、
在ったのである…

分身のよう、
多重化された、
肉体の、
感覚の、
意識の、
圧倒的に、
奇妙な現前が、
在ったのである…

そして、
ふと気づくと、
手足は、
異様なまでの、
硬直の激しさである…

その筋肉の凝縮は、
普段の人生の中では、
決して経験しない類いの、
岩のような硬直と、
巨大な圧力である…

自分の内部から、
このように、
途方もないエネルギーが、
発現している事態に、
驚いたのである…

肉体の深い層から、
生物学的で、
火山的なエネルギーが、
顕れていたのである…

………………
…………

何の感覚か…
まとわり、
ぬめるよう密閉感… 
粘膜のよう、
煩わしい、
冷たい汗ばみ…
奇妙な匂い…

内奥に、
深く凝集し、
細胞的に遅延する、
時間の感覚…
生理的な、
生物的な、
渇き…

胚のよう、
種子のよう、
濃密に凝縮する、
発熱の、
震え…

暗闇に、
ぼうと浮かぶ、
輝くような、
始源の感覚…
宇宙的な、
未明の、
けはい…

肉と骨の奥処に、
岩のよう、
苛烈な硬直の、
軋み…

烈火のよう、
力のエネルギーが、
尽きることない、
火力が、
終わることなく、
滾々と、
放出されていたのである…

………………………………
………………………」

さて、このセッションは、「胎児のとしての自分を見出し、体験する」ということを体験の絶頂として、身体の猛烈な硬直も、それ以上には進まず、終息に向かっていきました。

主観的には、この胎児との遭遇は、大きな感情的なインパクトを持ちました。生命の自律性に対する畏怖の感覚や、その原初の輝きを、目撃し、同一化する体験となったのです。


◆体験の後

さて、このセッションの目覚しい効果は、その翌日にすぐ現れました。

肉体の深層に埋め込まれていた、硬化した緊張感が、忽然と無くなり、膨大な量のエネルギーが解放されていたのでした。

からだが、信じられないくらい、軽くなっていたのでした。
そして、羽毛のように軽く、フワッと、身を起こしたのでした。

そして、あらためて逆算的に、過去を振り返ってみて、昨日まで、そのような膨大なエネルギーの、重圧感を抱えて生きていたことに、その朝、気づいたのでした。

普段、そのようなことは、気づきもしていませんでしたが、膨大な緊張感が無くなってみてはじめて、心身の深層に、そのような苦しく圧迫的なプログラムが、
埋め込まれていたのに、あらためて気づいたわけでした。

そして、自分がすでに、「解放された存在」になってしまったことに、その朝、気づいたわけでした。

 

※体験的心理療法や、変性意識状態(ASC)についての総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。

↓動画「ブリージング・セラピー(呼吸法)」

※多様な変性意識状態についてはコチラ↓動画「ゲシュタルト療法 変性意識 『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』」