大竹伸朗回顧展『全景』の記憶 無機的な痙攣する熱量

さて、別のところで、ボルヘスの作品について内容におけるその宇宙的な無限と、形式における硬質な掌編との、極度な対照性がその作品の過度なる圧力を生み出していることについて触れました。
宇宙への隠された通路 アレフとボルヘス

その両極的な振幅の大きさが、その効果の衝撃力を高めているというわけです。

そしてまた、その作品の背景には、宇宙的な(または鉱物的、無機的な)変性意識から日常意識までの広い帯域が、強度を持ってはらまれている可能性についても触れました。

さて、そのような両極の振幅が持つ極度な力を、特異な身体的な衝撃として体感できた稀有な出来事について、今回は取り上げてみたいと思います。

すでに、10年以上も前の事柄になりますが、現代美術作家、大竹伸朗氏の大回顧展『全景』が東京都現代美術館で行なわれました。

4トントラック25台で搬入されたとされる2,000点もの作品群が、美術館の全階層を占拠する巨大なスケールと大物量が投下された展示会でした。夜の館の外には「宇和島駅」の文字が、ネオンとして光っていたものでした。

そして、館内では、天井まで届くような巨大なオブジェから廃物のようなガラクタ様の小品、無数の濃厚なスクラップ・ブックまで、大小さまざま、様式も雑多な膨大な作品群が、空間を埋め尽くす姿は、あたかも建物空間そのもの、一つの複合した巨大な作品であるかのような観を呈し、見る者に対して肉体的な圧倒として体感されたのでした。

そして、その空間の巨大で重厚な濃密さが、より痛感された要因のひとつに、その作品群のおびただしい雑多さもありますが、とりわけ線や点における尖鋭、極度な震えの相があったのです。

というのも、一見ジャンク品のような作品のひとつひとつはよく見ると、その細部に、まるで濃縮され、凝視(幻視)されたミニチュアのように、非常に繊細な造形、膨大な情報量、激しい熱量が込められたからです。

そのミクロな先端と、マクロな広大さとの間の、両極の振幅。

刺すような極小な線の震えと、膨大かつ巨大な作品的身体との間にある振幅の大きさが、並外れて凝縮的なエネルギーと熱量を生み出していたのでした。

『全景』とはうまく名づけたもので、廃物や夢の残骸のような異形の作品群が積み重なる空間は、大袈裟にいえば一種のSF的な荒れ野、どこかの惑星の風景を連想させるようでもあったからです。

以前、LSDの体験セッションにおいて、鉱物群と同一化する、変性意識状態(ASC)の事例を取り上げましたが、これらの廃物的で、鉱物や残骸のような作品群には、そのような無機的な意識体とも通底するかのような強度に逸脱した、過剰な生のリアリティが感得されたのでした。

そして、巨大な熱量の塊、(それも、冷えた熱としての)無機的に振動するような熱量が、体験の記憶として、大きな感動とともに、筆者の肉体の底に刻まれたのでした。

それがために、10年以上の歳月が経っているにも関わらず、その時の興奮が変わらずに、今も、神経のうちに残っているわけなのです。

そしてまた、あのような大回顧展が、再び開かれることを願っているのは、決して、筆者ひとりだけではないとも思われるのです。

 

【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた解説、拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

気づきや変容、変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については、
拙著
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』

および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。