先日、とある機会に、ゲシュタルト療法をまったく知らない人々に、
ゲシュタルト療法を説明する機会を得ました。
今回は、そんなビギナーの方々に向けての記事です。
シリーズで、色々と解説していこうと思います。
- ゲシュタルト療法とは? ―「今ここ」に自分を取り戻す心理アプローチ
- 「今ここ」とは、スローガンではない
- セラピーの現場では何が起きているのか?―心理ワーク
- なぜ、「今ここ」が癒しと変化につながるのか?
- 実践:1分でできる 簡単な「今ここ」セルフワーク
- 最後に:分裂ではなく、統合へ
「過去のことばかり考えてしまう」
「未来への不安で、今を楽しめない」
そんなふうに感じたことはないでしょうか?
私たちの心は、たいてい「今ここ」にはいません。
何かをしながら、別のことを考えている。
スマホを眺めながら、さっきの会話を後悔したり、明日の仕事を心配していたりする。
そんな風に、通常、私たちの「意識」というものは、
アチラコチラに、散らばってしまっています。
そのことで、私たちは、
「自分自身」から離れてしまい、
「自分自身」というものをよく体験できていないのです。
なぜなら、
「今ここの身体と意識」、
そこに、「自分自身」はいるからです。
そのように、「分裂した意識」を統合し、
“今・ここ(Here and Now)”に意識を戻すこと。
それこそが、ゲシュタルト療法の中心的な実践なのです。
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ゲシュタルト療法とは? ―「今ここ」に自分を取り戻す心理アプローチ
ゲシュタルト療法は、フリッツ・パールズによって、1950年代に体系化された体験的心理療法です。
精神分析とゲシュタルト心理学などをもとに、「体験」と「気づき」に重点を置いた、新しい体験的心理療法としてつくられました。
そして、1960年代、人々が、精神の解放を謳歌したアメリカ西海岸から、世界中にひろまっていきました。
ここでの“ゲシュタルト”とは、ドイツ語で「形態」や「全体性」を意味します。
私たちは、部分ではなく、全体として存在している、
という考え方。
過去の記憶、未来の不安、身体の感覚、感情、思考、あれこれ――
それら皆を、バラバラに切り離さずに、「今ここで感じられる全体性」として受け取る姿勢が、ゲシュタルト療法のエッセンスなのです。
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「今ここ」とは、スローガンではない
よく“今ここに生きよう”という言葉が使われます。
でも、ゲシュタルト療法における「今ここ」は、雰囲気だけのマインドフルネスやポジティブ思考ではありません。
ゲシュタルト療法の「今ここ」は、もっと具体的で深いものです。
それは、“今、私の中で何が起きているか?”に気づく行為です。
• {私は今、何を感じているのか?」
• 「私は今、何を気にしないように、スルーしたか?」
•「 今、何を言いたくて、飲み込んだか?」
• 「何を我慢しているのか?」
•「 今、どんな感情が腹の底にあるのか?」
「今この瞬間の自分」に目を向けること。
過去や未来のストーリーに逃げ込まず、
身体感覚・感情・言葉などを通して、この瞬間の“私”と向き合うことです。
そのことで、私たちは、「かぎりない豊かさ」を得ることができるのです。
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セラピーの現場では何が起きているのか?―心理ワーク
ゲシュタルト療法のセッションでは、次のような言葉がよく聞かれます。
「今、何を感じていますか?」
「今、何に気づいていますか?
「そう言ってみて、どんな感じがしますか?」
「身体のどこが反応していますか?」
「そのモヤモヤは、なんと言っていますか?」
「“私は”にして言ってみると、どんな感じですか?」
このような問いを通して、クライアントの方、は自分の感情や体験を感じながら、その場で「気づき」や「解放」を得ます。
気づいて、吐き出すことで、未完了の体験(過去の痛みや抑圧された感情)を完了させることができるのです。
これは「記憶を分析する」のではなく、“今ここ”で、体験し直すということです。
今ここに残っている「未完了の感情」を解き放ち、なくすことができるのです。
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なぜ、「今ここ」が癒しと変化につながるのか?
それは、「今ここ」にしか、「自分自身」はいないからです。
そこでしか、本当の選択も、解放も、心の癒しも存在しないからです。
私たちは、無意識のうちに「過去の防衛(抑圧)パターン」を繰り返しながら生きています。
でも、そのパターンは、「今ここ」で働いているからこそ、私たちにとって、邪魔や苦痛になっているからです。
そういう意味では、「過去の防衛(抑圧)パターン」は、「過去の」ものではなく、「今ここの」ものなのです。
そして、それが「今ここ」で働いている瞬間をつかまえて、パターンを壊し(修正し)、解放してあげるのです。
気づいた瞬間、つかまえてはじめて、それらを解放し、「別の選択」をすることが可能になるのです。
「今、私は本当は泣きたいのに我慢している」
「今、私は怒っているのに、それを抑えている」
「今、本当はここから逃げたいと思っている」
そんなふうに、「今ここ」の自分自身に気づいたとき、人は自分の人生を取り戻す準備が整うのです。
そして、自分のパワーを取り戻していくのです。
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実践:1分でできる 簡単な「今ここ」セルフワーク
1分でできる、簡単なゲシュタルト的な心理ワークをご紹介します。
1. 今ここで、静かに呼吸しながら、あなたの全身を、上から下まで、スキャンしてみます。
2. 身体のどこに緊張や凝り、違和感があるか、その場所(箇所)を見つけてみてください。その感覚にフォーカスします。
3. 身体の違和感のある場所(箇所)が、何か「セリフや言葉」を呟くとしたら、何というでしょうか? そのセリフを聴いてみてください。
4. 次に、その言葉を、実際に声に出して、繰り返して言ってみてください。
「○○だ。○○だ。○○だ。○○だ。○○だ。○○だ。私は○○だ。」
どうでしょうか? それだけで、その部分が弛緩し、なにか自分も気分が変わるかもしれません。「生きている感覚」が戻ってくるかもしれません。
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最後に:分裂ではなく、統合へ
ゲシュタルト療法は、あなたを「治す」というものではありません。
あなたが、あなた自身の“全体性”に気づく、それを実現するプロセスを支援するものです。
「人は、自分で自分自身を支えることができる」
これが、ゲシュタルト療法の信念です。
「今ここ」とは、
心と身体が一致し、
言葉と感情が一致して、
あなたが“自分の存在の全体として在る”
という確かな感覚なのです。
それは、一瞬の静けさの中で訪れます。
そしてその静けさが、
人生を変えていく第一歩になるのです。
【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)や意識変容、超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。