- 「なんだかモヤモヤする…」それ、未完了の感情かもしれません。
- 「未完了の体験」とは何か?
- なぜ「未完了の体験」は繰り返されるのか?
- 本当の意味での「癒す」とは、完了させること
- 小さな出来事が、大きな重荷になることもある
- あなたの「やり残した感情」はなんですか?
私たちが何気なく抱えている「モヤモヤ」。
その正体が、「やり残した感情」であるとしたら、どう感じるでしょうか?
ゲシュタルト療法には、「Unfinished Business(やり残した仕事)」という概念があります。
「未完了の体験」「未完了のゲシュタルト」とも言います。
これは、「過去の出来事で、満たされなかった感情や伝えられなかった想いが、今もなお心の中に残っている状態」を指します。
◆「なんだかモヤモヤする…」それ、未完了の感情かもしれません。
誰にでも、理由ははっきりしないけれど、「なんとなく心が重い」「イライラする」「集中できない」といった瞬間があります。
実は、そんなときの多くが、過去に未処理のまま放置された「感情の断片」が影響しているのです。
たとえば、
・誰かに言われた一言が引っかかっている
・昔の失敗がふと蘇ってきた
・理不尽だった出来事に怒りが残っている
…そんな経験、ありませんか?
こうした「未完了の体験」は、心の中に、「ゲシュタルト(形)」として残り続け、無意識のうちに、私たちの今の行動や感情に影響を与えているのです。
ゲシュタルト療法では、人の心は「欲求→満足→完了」というサイクルで動いていると考えます。
たとえば:
1.「喉が渇いた」と感じる
2.水を飲む
3.渇きが癒され、欲求が満たされる。
このように、欲求が満たされてはじめて“完了”するのです。
しかし、もしもこのサイクルが途中で止まってしまったらどうなるでしょう?
・感情を伝えられなかった
・自分の欲求を我慢した
・許されなかった、拒絶された…
そのときの未完了な感情は、「喉に刺さった小骨」のように、心のどこかに残り続けます。
それがやがて「モヤモヤ」や「苦痛を繰り返す人間関係のパターン」として表面化してくるのです。
ゲシュタルト療法の創始者、フリッツ・パールズはこう語ります:
きちんと完了していない未完結状況というのは環境から自己への取り入れに失敗したものであり、現在まで残っている過去の遺産とも言えるものである。
パールズ『ゲシュタルト療法』倉戸ヨシヤ訳 (ナカニシヤ出版)
私たちの潜在意識は、「未完了の体験」をなんとか完了させようとして、似たような場面を繰り返し引き寄せる傾向があります。
たとえば:
・子どもの頃、父親に愛されなかった女性が
・大人になって「(父親に似たタイプの)愛してくれない男性」を選び、
・今度こそ愛されようと努力する
これは、過去のやり残した感情を完了させる「無意識のリベンジ」なのです。
ですが、残念ながらそのリベンジは、ほとんどの場合、うまくいきません。
むしろ、同じような痛みや挫折を繰り返す結果になります。
パールズの考えでは、トラウマとは、「出来事そのもの」ではなく、「その出来事を消化しきれなかったこと」が原因で生まれます。
つまり、「過去に何があったか」よりも、「その体験を消化できたか」「それが今も心に残っているか」の方が重要なのです。
そのため、ゲシュタルト療法では、過去の感情を言葉で分析するのではなく、「再体験」を通して感情を完了させるアプローチをとります
・言えなかった言葉を「今」伝える
・表現できなかった怒りや悲しみを「今」感じきる
・抑えた行動を「今」試しにとってみる
こうして、心の中に残っていた「未完了のゲシュタルト」を、一つひとつ完了させていくのです。
セッションを通して、よく驚かれるのは、
「まさか、あんな些細な出来事や一言が、自分にとってこんなに重かったとは…」
という気づきです。
・親のささいな言葉
・友達の軽いからかい
・教師の冷たい態度
子どもだった私たちは、それをどう処理すればよいか分からず、ただただ心の奥にしまい込むしかありませんでした(抑圧)。
それが何年、何十年もたった今も、「やり残した仕事」として、人生に影響を与え続けているのです。
◆「未完了の体験」が完了したとき、人生は変わる
ある人は、「言えなかった本音」をセッションで、声に出しました。
別の人は、「ずっと怒れなかった自分」が、はじめて怒ることができました。
その瞬間、ずっと胸につかえていた感情が解放され、スッと消えていき、「安心して自分の感情を感じられるように、許せるようになった」と、多くの方は語ります。
感情のエネルギーは、本来、行動や創造に使われるものです。
それが未完了のまま心に引っかかっていたために、心のある部分は、そこで止まっていたのです。人生が止まっていたのです。
でも、「完了」というプロセスを経ることで、私たちは再び動き出せようになるのです。
・その時、言えなかった言葉
・その時、飲み込んだ感情
・その滝、本当はやりたかったけどできなかったこと
それらが今も心の奥で、「未完了の体験/ゲシュタルト」「やり残した仕事」としてあなたに訴えかけているかもしれません。
もし今、「なんだかいつも同じパターンにハマる」「生きづらさがある」と感じているなら、それは、「過去の自分が助けを求めているサイン」かもしれません。
ゲシュタルト療法が提供しているのは、ただのカウンセリングではなく、
「未完了の感情を完了させる」という生き生きとした体験です。
小さな感情の完了が、人生の大きな変化をもたらす──
そんな体験が、ここにはあるのです。
【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)や意識変容、超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。