一粒の砂に世界を、
一輪の野花に天国を見る、
君の掌のなかに無限を、
ひとときのうちに永遠をとらえるウィリアム・ブレイク『無垢の兆し』
これは、18世紀末~19世紀初頭に活動した詩人・画家であり、(生前は奇人扱いされ不遇に没した)稀代の幻視家ウィリアム・ブレイクの詩の一節です。長編『無垢のきざし』の冒頭の四行です。
(ちなみに、作品自体は、この続きの展開も素晴らしいものです。この冒頭四行がテーマになって、その後がカラフルに展開される、ジャズみたいな感じです)
この冒頭の四行だけが、ひろく知られるようになったのは、ここに描かれている世界への感覚が、私たちの直観に訴える「何か本質的なもの」を持っているからでしょう。
この言葉のように、「今ここの瞬間」の中に、永遠や無限を直観し、感じとる感受性というのは、人類に普遍的なものとしてあります。
古今東西のさまざまな宗教家や表現者たちが、似たような感覚を表現しているのです。
では、このような直観や感受性は、私たちのどのような感覚を表しているのでしょう?
これらは決して、「単なる比喩」ということでもないのです。
私たちの「意識 consciousness」に本来ひそむ、本質的な構造から顕れてきていると言えるのです。
ところで、先般、NHKの番組で、『サイケデリック・ルネサンス』という、欧米で復興しつつあるサイケデリック医療についての特集が組まれました。
→フロンティア サイケデリック・ルネサンス 精神医療の最前線
日本では、「サイケデリックス(精神展開剤/幻覚剤)」というと、何か「ドラッグ」のように勘違いされていますが、元々は、1950~1960年代に、精神医療の中で使われていた薬剤です。
非常に強い意識変容の作用を持つために、医療以外の場面で、娯楽的に世間で乱用されるようになってしまったため、法律的に禁止されてしまったものです。それは、医学的な理由というよりも、政治的な理由によるものでした。
ところで、近年、研究者は、地道な取り組みの結果、「サイケデリックス(精神展開剤/幻覚剤)」の使用再開が、各国の先端的な精神医療の中ではじまったのです。
NHKの番組の中では、そのような各国の取り組みが、日本のものを含めてさまざまに紹介されたのでした。
それは、「サイケデリックス(精神展開剤/幻覚剤)」が目覚ましい形で、私たちの心の可能性を開くものであるからなのです。
→サイケデリック psychedelic (意識拡張)体験とは何か 知覚の扉の彼方
それは、例えば、上記のウィリアム・ブレイクの言葉にさえ、光をもたらすものであるのです。
例えば、1960年代のサイケデリック研究の大家であり、チェコで数千回にわたるサイケデリック(LSD)・セッションを主導したスタニスラフ・グロフ博士は、そこで現れてくる「意識」の特徴を次のように語ります。
「サイケデリック体験の重要な特徴は、それは時間と空間を超越することである。それは、日常的意識状態では絶対不可欠なものと映る、微視的世界と大宇宙との間の直線的連続を無視してしまう。現れる対象は、原子や分子、単一の細胞から巨大な天体、恒星系、銀河といったものまであらゆる次元にわたる。(中略)
経験論的観点からいえば、小宇宙と大宇宙の区別は確実なものではない。どちらも同じ経験内に共存しうるし、たやすく入れ替わることもできる。
あるLSD被験者が、自分を単一の細胞として、胎児として、銀河として経験することは可能であり、しかも、これら三つの状態は同時に、あるいはただ焦点を変えるだけで交互に起こりうるのである」「非日常意識状態についてふれておきたい最後の驚くべき特徴は、自我(エゴ)と外部の諸要素との差異、もしくはもっと一般的にいって、部分と全体との差異の超越である。
LSDセッションにおいては、自己本来のアイデンティティを維持したまま、あるいはそれを喪失した状態で、自分をほかの人やほかのものとして経験することがありうる。自分を限りなく小さい独立した宇宙の一部分として経験することと、同時にその別の部分、もしくは存在全体になる経験とは相容れないものではないらしい。
LSD被験者は同時にあるいは交互に、たくさんのちがったかたちのアイデンティティを経験することができる。その一方の極は、一つの物理的身体に住まう、分離し、限定され、疎外された生物に完全に同一化すること、つまりいまのこのからだをもつということだろう。こういうかたちでは、個人はほかのどんな人やものともちがうし、全体のなかの無限に小さな、究極的には無視してかまわない一部分にすぎない。
もう一方の極は、〈宇宙心(ユニヴァーサル・マインド)〉ないし〈空無(ボイド)〉という未分化の意識、つまり全宇宙的ネットワークおよび存在の全体性との完全な経験的同一化である。」グロフ『脳を超えて』吉福伸逸他訳、春秋社) ※太字強調引用
サイケデリック体験の中では、このように、時空の大小のスケールを、自在に超える「意識」の不思議な能力が現れてくるのです。
そこには、「一粒の砂」と「世界」とを、「一輪の野花」と「天国」とを、瞬時に、無媒介に貫き浸透させる、透視的な宇宙感覚があるのです。
ここには、私たちが、探求していくべき、「意識」の豊穣な諸次元があると言えるのです。
後の時代のサイケデリック・カルチャーへ絶大な影響を与えた名著、オルダス・ハクスリーの『知覚の扉』という書名が、同じウィリアム・ブレイクの詩句からとられたということも、決して偶然のことではないのです。
▼南米ペルーに在住のMiyukiさんとコラボセミナーをやります。
現地の生きたシャーマニズムの中でのサイケデリックス(アヤワスカ)など、色々な事柄を話します。
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【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
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ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめたこちら↓
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』







