変性意識状態(ASC)の「ホリスティックな治癒効果」

さて、変性意識状態(ASC)について非常に興味深い点は、変性意識状態それ自体が、とても深いホリスティック(全体的)な治癒効果(癒しの力)を持っているという点です。
深い変性意識状態(ASC)においては、非常に深い深層に潜んでいる、潜在意識のさまざまな感情/肉体・生理レベルの情報/内奥エネルギーが賦活され、活性化されて、意識の表層に押し出されてきます。
そのため、顕在意識でも、それらの微細な内容を意識化、気づきやすくなるため、
深い潜在意識のプログラムとの間にさまざまな情報的・エネルギー的な交流が可能となるのです。
その点が要素が、人間の治癒能力を増大させるポイントだと思われます。

①変性意識状態(ASC)の心身一元論的プロセス

また、変性意識状態(ASC)の多くは、基本的に心身一元論的なプロセスの性質を持ち、身体や生体の深い生命プロセス、自律的プロセスを活性化する傾向を持ちます。
ゲシュタルト療法の用語でいうと「内部領域」という体内(生体)領域が活性化するのです。
または、五層一核でいう深い層、「行き詰まりの層」「内破(爆縮)の層」「外破(爆発)の層」が現れやすくなるのです。
通常、これらの層は、緊張や硬化が固く強いため、なかなか容易には発現しない領域です。
ところが、変性意識状態(ASC)では、生理的次元からの活性化により、これらの硬化が弛みやすくなるのです。

その点が、この治癒(癒し)効果を強くする要因にもなっていると考えられるのです。

というのも、「日常意識」とは基本的には、抑圧的で、理性的な「自我」機能に拠るものです。
理性的な「自我」機能とは、ゲシュタルト療法の用語でいえば、「中間領域」の世界です。
精神分析的な心理構造でいえば、現実原則による二次過程を担当し、生体の組織でいえば、「表層的な部分」になっています。
それがために、理性的な「自我」機能は、外部の人間世界と辻褄を合わすことに長けているのですが、生体の内部の深層プロセスとは若干「解離的」な側面も持っているわけです。

変性意識状態(ASC)においては、この理性的な「自我」機能が弛んで、拘束が解除されて、意識が、活性化している生体の内部の深層プロセスにコンタクト(接触)しやすくなるのです。
この点が、変性意識状態(ASC)が心身一元論的に生体の深いプロセスを活性化するポイントとなっていると考えられるのです。

そして、身体の深層プロセスが活性化されることで、普段においては、硬化し滞っていた生命エネルギー・生体情報・感情が活性化してきて、生体のホリスティック(全体的)な活動が働きはじめるのです。
それは、心と肉体の潜在能力が深いレベルから解放された状態といえます。
その状態の中で、心身をきちんと整備しようとする「生体の自律的なプロセス、ホリスティックな自然治癒のプロセス」が、私たちを再調整・再統合していくこととなるのです。
それゆえ、変性意識状態(ASC)は、普段にない形で強い治癒作用を持つものとなるのです。自然本来の持つ自己回復機能が発現するといえるのです。

例えば、「ブリージング・セラピー」などは、テクニック面においては「呼吸」を利用するだけのシンプルな技法ですが、心身の深いプロセスを活性化して、そこで自然に生ずる強い変性意識状態(ASC)の作用によって、深い記憶の浮上、深い感情とエネルギーの放出、筋肉硬化の解除などによって、通常のセラピーでは起こらないようなホリスティックな変容をクライアントの方に起こすものとなっているのです。
ブリージング・セラピー その1
呼吸法と事例 

②変性意識状態(ASC)のシステム論的プロセス

また違うシステム論的に考えていくと、私たちは、変性意識状態(ASC)を通して、私たちがもつ未知のホリスティック(全体的)なシステムや高次階層システムにつながっていくという可能性も考えられるのです。

別のところでは、映画『攻殻機動隊』や(変性)意識研究の大家リリー博士の経験を参考に、私たちの心の階層構造について考えてみました。
つまり、聖書にある「聖霊にみたされる」体験を、システム的に意識(存在)が未知なる「上部階層」とつながり、整列させられる体験として考えてみたのです。
映画『攻殻機動隊』のラストでは、主人公の意識が、広大な上部階層の世界に溶け込むことでより、下位的な現実世界から消えてしまいます。
そのような上部階層のシステムとつながる体験であるがゆえに、下位存在がシステム的に整備(プログラム)されることにより、「ホリスティックな調整作用(治癒・癒し)」が働くとのではないかと考えてみたわけです。
つまり、「聖霊に満たされる」体験とは、上位のホリスティック(全体的)なシステムにつながり・整列することで、「私たちという下位のシステム」が整えられ、癒されることを表現しているのではないかと。
そのようにに考えると、「ホリスティックな癒し」とは何かについて、よりシステム的・機能的に考えることもできるようになるのではないかということです。
映画『攻殻機動隊』ゴースト Ghost の変性意識
「聖霊」の階層、あるいはメタ・プログラマー ジョン・C・リリーの冒険から

そのようなホリスティック(全体的)な高い階層のシステムが働いていると思われる「至高体験 peak-experience 」について、A.マズローは次のように語っています

「至高経験は、厳密な意味で、症状をとり除くという治療効果を持つことができ、また事実もっている。わたくしは少なくとも、神秘的経験あるいは大洋的経験をもつ二つの報告――一つは心理学者から、いま一つは人類学者から――手にしているが、それらは非常に深いもので、ある種の神経症的徴候をその後永久にとり除くほどである。このような転換経験は、もちろん人間の歴史においては数多く記録されているが、わたくしの知るかぎりでは決して心理学者あるいは精神医学者の注目の的となってはいないのである」(A.マスロー『完全なる人間』上田吉一訳、誠信書房) ※太字強調引用者


以上見たような理由からも、変性意識状態(ASC)に入るスキルを身につけることは、心理的な治癒においても、身体的な治癒においても、ともに大きな可能性をはらんだ効果を持っているといえるのです。

【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)のより総合的な方法論は拙著↓
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。

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