さて、別に、ゲシュタルト療法における葛藤解決の方法について、そのワーク中のコツについて解説してみました。ここでは、そのワーク中に現れる「主観的な気持ち」に関する部分で、重要なポイントを解説してみたいと思います。
さて、ゲシュタルト療法のワーク(セッション)では、自分の中で心理的葛藤があり苦痛が生じている場合に、エンプティ・チェアの技法などで、分裂している自分の自我を、それぞれの椅子に分けて置いていきます。
この時、大体、次のような形で、椅子にロール(役割)が分かれるものです。
一方の椅子には、もともと自分がそうであった(a)苦しめられている自分が置かれ、もう一方の椅子には、自分を(b)苦しめている自分が置かれるものです。
ところで、この時、(a)苦しめられている自分は、普段から自分にもなじみのある自分である場合が多いものです。「いつもの自分」というやつです。
一方、(b)苦しめている自分に関しては、普段から自分で「見たくない自分」「認めたくない自分」「自分であって欲しくない自分」であることが多いのです。
それは、自分の要素として在って欲しくない、居てほしくないネガティブな(陰性)な感情です。
それは、「批判的な自分」「意地悪な自分」「憎悪している自分」「激怒している自分」「悪意をもった自分」「冷酷な自分」「無力な自分」「怠惰な自分」などなどのネガティブな(陰性)感情です。
大概、人はそんな自分の要素を「それは本当の私ではない」(一時の衝動ではあっても)という気持ちで、普段は「切り離してdisown」自分の外にはじき出しています。
それを見ないようにしています。それを認めないようにしています。
しかし、葛藤解決のワークにおいてはこの「認めたくない自分」がもう一方の椅子に、しばしば現れてくることとなるのです。実際にワークをしたことのない人は、恐ろしい事柄と思うかもしれません。
しかし、実は、この点こそがゲシュタルト療法の決定的なパワーの秘密なのです。
ワークの中で、このようなネガティブな(陰性)感情の自分が出て来た時は、次の事柄に留意してワークを行なうとグッと快癒(統合)が進んでいくことになります。効果が出ます。
①素直に、それ自身になってみる。
②誇張して、表現してみる
の二点です。
①素直に、それ自身になる。
まずは、椅子に分けられたネガティブな(陰性)感情そのものに、誠実かつ正直に「素直に」なってみるということです。ワークのロールプレイは安全な空間での実験(遊び)です。
そのため、恐れることは何もないのです。嫌なら、やめればいいだけですから。少し抵抗はあるでしょうが、まず試しに「それ自身になって」みるのです。
そして、心を澄まして、深い部分でその感情を真っ直ぐに正直に味わってみるのです。体験してみるのです。表現してみるのです。
すると多くの人が、「なーんだ。大したことなかった」と思います。
ネガティブな(陰性)感情を拒否(抑圧)している時は、その感情が非常に恐ろしい悪魔的な感情に思えており、それに深く触れると自分がコントロールを失うんじゃないかとか、自分がその感情に乗っ取られてしまうんじゃないかとか、自分がなくなっちゃうんじゃないかとか考えます。
しかし、いざ、そのネガティブな(陰性)感情に接触し、それを味わってみると、全然そのような、恐ろしいことが起こらないのに気づくのです。脅威でもないし、害になるものでもないのです。
素直な気持ちで、それを感じてみると、むしろ、その中にある核となる力強い要素(本性、能力)に気がつくのです。
その感情を拒否している間は、単に悪魔的な感情にしか思えなかったのに、いざその中に入って見るとパワフルで能動的な(肯定的な)感情であったことに気がつくのです。ネガティブな(陰性)感情は、外と内では見え方がまったく違うのです。自分が拒絶していたために悪に見えていたにすぎないのです。
「クローゼット(押入れ)の中の骸骨」という譬え話があります。クローゼットの中に白骨死体があると思い込んでいると、怖くてクローゼットが開けられないのです。しかし、実際にクローゼットを開けて、中を見るとそこには何もないのです。しかし、実際に開けないことによって、恐ろしい妄想と恐怖は膨らむばかりなのです。
また、自分は泳げないと思い込んでいる人が、水に身を任せられないのも同じです。しかし、実際に水に身を任すと誰もが浮いてしまうので、むしろ溺れることの方が例外的なことだと分かるのです。
解決方法は「実際に見ること」「実際に体験すること」なのです。
ネガティブな(陰性)感情もこれと同じです。実際に、それ自身になって内側から感じてみると、大したことがない(普通の感情)とわかるのです。
②誇張して、表現してみる
さて、そのネガティブな(陰性)感情を充分に味わえ出したら、それを外部に表現することがとても大きな効果につながります。大概の人は、自分から切り離していた自分のネガティブな(陰性)感情をとても「恥ずかしいもの」「汚らしいもの」「悪いもの」と感じています。恥ずかしくて、外に表現できないと思っています。隠さなければならないと思っています。(そのことで、日々、疲れます)
実は全然そんなことはないのにです。ネガティブな(陰性)感情を持つこと自体は、生物としていたって正常なことです。本能的なパワーです。
そのため、実際にそのネガティブな(陰性)感情を外部に表現してみて、それが風景として全然おかしなものではないと、普通のことだと確認することも重要なこととなります。幻想(妄想)を吹き払い、グッと快癒を進めます。
また、その快癒をより推し進めるには少し誇張するくらいに、そのネガティブな(陰性)感情を表現してみるのも良い方法です。
少し誇張するくらいに、思う存分そのネガティブな(陰性)感情を表現してみるのです。
このように過度に表現してみても問題はないじゃないかと自分の中で、確証(確認)が取れるからです。また、その表現を「意識的」に行なうため、気づきと統合の統御感が加わるからです。
そのことは、自分の中で手応えと自信と確信を深めます。そして、実際にネガティブな(陰性)感情を表現していく中で、必ずその感情のより創造的な要素に気づき、より自分のパワーや才能として統合していくことが起こってくるのです。
批判的な気持ちは刺すような知性の現れだったり、激怒は圧政に対する純粋な抵抗(反抗心)の現れだったりと、その真の姿がわかるのです。
恐ろしい悪魔は才気ばしったジョーカーに変わり、激怒していた獰猛な虎は素直なトラ猫だったとわかったりするのです。
さて以上、ワークにおけるネガティブな(陰性)感情の扱い方をみましたが、実際、ネガティブな(陰性)感情に気づきと意識をもってコンタクト(接触)できる能力は、私たちの統合を深め、私たちをとてもパワフルにします。
キレて怒りに乗っとられるのではなく、「意識的に」怒れる能力は私たちを積極的にします。一面的な見方で、ネガティブな(陰性)感情を排除すると、私たちは生命力の半分を排除することになります。
いわゆる「いい人」たちに、私たちはどこかウソ臭さを感じます。それは、ネガティブな(陰性)感情が排除されていて、人格にどこか一面性や狭隘さ、欺瞞を感じさせるからです。怒りや憎しみも素直な健康さの現れなのです。
また、表現について注意すべきポイントは、ネガティブな(陰性)感情は非常にパワフルですので、単なる発散的なカタルシスにしないということです。自分から解離したエネルギーにしないで、それを自分の中に納めて、充分統合していくことです。
ゲシュタルト療法のワークは、普段、私たちがなかなか上手にコンタクト(接触)や統御を行なえないこのネガティブな(陰性)感情に関わり、統合していく創造的な機会となるのです。
そしてこの図式(影や怪物との関わり)は、人類の普遍的な智慧としては「英雄の旅」の神話が教えてくれている事柄でもあるのです。
→英雄の旅 (ヒーローズ・ジャーニー) とは何か
【ブックガイド】
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧下さい。
変性意識状態(ASC)を含んだ、より総合的な方法論は拙著↓
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
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