「その人の雰囲気」はどこから生まれるのか?─心身一元論と自己一致~ゲシュタルト療法入門9

 私たちは「初めて会う人」と向き合ったとき、
 その人のどこを見て、「この人は信用できる/できない」を判断しているのでしょうか?

 その時、私たちが感じとっているのは、
 その人の言葉ではなく、
 その人の微妙な表情・しぐさ・声の調子・立ち居振る舞い・全身から発される雰囲気 といった、
 「非言語的な情報」です。
 そこにこそ、その人の本質が滲み出ているからです。

 この記事では、心理学でいうの「自己一致」「人格(自我)の多数性」という概念をもとに、
 なぜ、「雰囲気」が人の本性を反映するのか、
 その根源にある心身一元論(=心と身体はひとつであるという考え)
 について見ていきます。

 

◆心身一元論──人の本質は「話している状態」に現れる

 人の本質を見るうえで重要なのは、その人の
 「話している内容(コンテンツ)」ではなく、
 「話している状態(プロセス)」 です。

・声の調子/トーン/音色
・見え隠れする微かな表情
・呼吸の浅さ/深さ
・体のこわばり/泰然さ
・その人の総体としての雰囲気
・その場の雰囲気との調和・不調和

 こうした「状態そのもの」に、その人が意識していない内面や本質が透けて見えているのです。

 そのため、私たちは過去の経験を通して、
 その人を見た時、
 「この人、何か違和感があるな」
 「この人、何か落ち着かないな」
 「何か信用できないな」
 とか、逆に、
 「自然で、安心する感じがする」
 「良いヴァイブレーションを感じる」
 といった感覚を、無意識に感じとっているのです。

 

◆自己一致と不一致──“自然な人”と“ぎこちない人”の違い

 カール・ロジャーズが提唱した「自己一致 self-congruence」は、
 意識している自分や自己概念と、無意識の感情(実際の経験)が、一致して調和している状態を指します。

▼自己一致している人

 自己一致している人は、人に対して自然でゆったりとした印象を与えます。
 どっしりとした安心感、自足した感覚、泰然とした雰囲気、心地よい調和の波動――。
 そうした「存在の安定感」が相手に伝わるのです。
 これは、
 「自分という存在(Being)」に矛盾なく根ざしている状態
 といえます。

▼自己不一致の人

 私たちの多くは、大小の「ズレ」を抱えて生きていますが、
 特に自己不一致が強い場合、その不調和ははっきりと外側に表れます。

・緊張した身体
・不自然な笑顔
・垣間見える微かな表情
・話す内容と声の調子の不一致
・どこかぎこちない雰囲気

 そして、他者はその「波動の不調和」を敏感に感じとります。
 私たちが「嘘をついている人」を見破れるのも、この不一致のせいです。

 

◆不一致はどこから来るのか──人格たち(自我状態)の葛藤

 自己不一致の正体は、複数の人格(自我状態)の葛藤 にあります。
 通常、私たちは、無自覚に「ある特定の人格(自我状態)」に同一化して生きています。
 しかし、その裏側には、抑圧されたり排除されている、他の人格(自我状態)があり、それらは大人しく消えてくれるわけではないのです。

 むしろ、抑圧された人格(自我状態)は、
 身体(肉体)というチャンネル を通して外に現れます。

・表情の不調和
・からだのこわばり
・力み
・声の震え

 他者は、こうした身体のサインから、その人の「本音」や「分裂」「ウソ」を感じとるのです。
 まるで、自己不一致の「裂け目」から内面の問題が見え隠れするように、「何か」が視えるのです。

 

◆セッション(ワーク)ではどう扱うのか

 ゲシュタルト療法のセッションでは、このように身体に現れてきたサインを、「心の重要な要素」「心への入り口」 として扱っていきます。

 身体に表れる情報は、意識があまり気づけていない本音の部分です。
 そのため、身体からアプローチすることで、
 隠されたり、抑圧された人格(自我状態)に触れ、それらの葛藤をより的確に解消していく手がかりとなるからです。

 


◆おわりに──「雰囲気」はウソをつかない

 私たちが人を判断するときに感じとっている「雰囲気」は、
 その人の無意識や身体から発せられるリアルな情報です。

 もしあなたが、

・理由はわからないけれど落ち着かない
・会うだけで安心感のある人がいる
・自分がなぜか緊張しやすい

 と感じるなら、それは心身一体の自然な反応なのかもしれません。

 心と身体は分離していません。
 身体は、いつでもあなたの本音を語っているのです。

 ぜひ、身体に気づきをめぐらせてみていただければと思います。

【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)を含むより総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、よりディープな
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については、基礎から実践までをまとめたこちら↓
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』