「ゲシュタルト崩壊って何?」― ゲシュタルト療法入門3~この字、こんな形だっけ?~

■「この字、こんな形だっけ?こんなんだっけ?」ゲシュタルト崩壊が起こる瞬間

「この字、こんな形だったっけ?」

長い時間、同じ文字や漢字を見つめていたり、
何度も書き直していたら、
ある瞬間、それが急に「奇妙な形」に見えて、
「アレ?この字、これで合ってたっけ?」と、
突然、わからなくなってしまったことがないでしょうか?

そして、よく見れば見るほど、ドンドンわからなくなってしまうのです。
これが、「ゲシュタルト崩壊」として知られている現象です。


ゲシュタルト崩壊とは?

シリーズの前回記事「ゲシュタルトって何?」では、ゲシュタルト心理学でいう「ゲシュタルトGestalt」について取り上げました。

ゲシュタルト崩壊(Gestaltzerfall)とは、そんな「ゲシュタルトGestalt (全体を意味のあるまとまりとして認識していたもの)」が、瞬時に分解されて(喪失して)、「意味がわからなく」感じられてしまう現象のことです。

たとえば、「後」という漢字を、長い間、じーっと見続けていると、まじまじと見続けていると、「これで合っているっけ?」と混乱するような感覚になります。
これが、「ゲシュタルト崩壊」です。

そして、これは、「認知の仕組み」に由来する心理的な現象なのです。

 

■ なぜ、起こるのか?

私たちの認知機能とは、複雑な情報を処理するために、常に「パターン」や「全体像」を下敷きに、それらを先に捉えてから、細部を補完しています。
そのさまざまな「差異」を認知することが重要なわけです。

しかし、同じ文字や形をじっと見続けると、認知機能が、その情報に「慣れ」すぎてしまい、飽和し、「意味」が認識できなくなるのです。
そうすると、漢字が単なる線やパーツの集合体に見えてきて、「何の文字か」が一瞬、わからなくなってしまうのです。

よくあるゲシュタルト崩壊の例

・「後」って、こんな字だったっけ…?
・ロゴマークやアイコンが突然、奇妙な形に見える。
・歌詞カードを読み続けてたら文字が崩れた。
・手書きで「見慣れた漢字」を書いてたら、不安になる。

ゲシュタルト崩壊=病気ではない=元に戻す方法

このような現象に遭遇すると、不安になる人もいるかもしれませんが、これは、誰にでも起こる「認知システムの誤作動」のようなもので、病気ではありません。
むしろ、集中力が高かったり、細部に意識が向いているときほど起こりやすいとも言われます。

そのため、いったん文字や対象から目をそらしたり、少し時間を空けることで、認知機能がリセットされて、また普通に見えるようになります。
「自分がおかしくなってしまったのでは?」と焦らずに、ちょっと休んで、気分転換してみるのが一番です。

言葉の「ゲシュタルト崩壊」もある

実は、ゲシュタルト崩壊は、視覚だけでなく、言葉(音)でも起こります。
同じ単語を何度も声に出して言ってみてください。

例えば「その日、その日、その日、その日、その日、その日、その日……」

だんだん意味がわからなくなってきませんか?
これは「音のゲシュタルト崩壊」と呼ばれることでもあり、同様の現象なのです。

■ 最後に:人は、いつも意味を探している

私たちは、常に「意味づけ」や「パターン化」を通して、世界を理解しようとしています。
ゲシュタルト崩壊は、その逆転現象ともいえるものです。

見えているのに、わからない」
そのような感覚が生まれるとき、私たちは、とても「怖さ」を感じるものです。
実際、ゲシュタルト的な認知は、世界を「意味」としてとらえる、私たちにとっては、とてもかけがえのない機能なのです。

ただ、セラピー的(ゲシュタルト療法的)な見地から見ると、この機能は、私たちにとって、苦痛を生み出すものとして働くこともあるのです。
今後のシリーズでは、そのことを解説していきたいと思います。

【ブックガイド】

変性意識状態(ASC)や意識変容、超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

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