宇宙的浸透のメディスン―マジックマッシュルームの浮遊的性格

◆変性意識状態(ASC)について

 「変性意識状態(ASC)」という言葉が広まったのは、1969年に、チャールズ・タート博士の編著が出てからです。
 当時は、サイケデリックス(精神展開剤/幻覚剤)」の第一次の流行期であり、多くの人びとが、そのような状況下で「未知の意識状態」を体験しました。
 そのため、それら「未知の意識状態」が、何を意味しているのか、多くの人びとが興味を持ち、答えを欲しがったのでした。
 タート博士の提案は、そのような時代の要望に、応えるものだったと言えます。

 しかし、歴史を振り返ると、宗教やその他の学問の中でも、そのような特異な「意識状態」については、折に触れて考察されてきました。
 アメリカの卓越した哲学者/心理学者ウィリアム・ジェイムズは、その古典的な名著『宗教的体験の諸相』(1902年)のよく引用される文章の中で、以下のように書き記しています。
 これは、通常の私たちの「日常意識」と、変異した意識状態を対比的に語ったものとして有名なものです。

「…(それは)私たちが合理的意識と呼んでいる意識、つまり私たちの正常な、目ざめている時の意識というものは、意識の一特殊型にすぎないのであって、この意識のまわりをぐるっととりまき、きわめて薄い膜でそれと隔てられて、それとまったく違った潜在的ないろいろな形態の意識がある、という結論である。私たちはこのような形態の意識が存在することに気づかずに生涯を送ることもあろう。しかし必要な刺激を与えると、一瞬にしてそういう形態の意識がまったく完全な姿で現れてくる。それは恐らくはどこかに、その適用と適応の場をもつ明確な型の心的状態なのである。この普通とは別の形の意識を、まったく無視するような宇宙全体の説明は、終局的なものではありえない。問題は、そのような意識形態をどうして観察するかである。―というのは、それは正常意識とは全然つながりがないからである。(中略)いずれにしても、そのような意識形態は私たちの実在観が性急に結論を出すことを禁ずるのである」

ジェイムズ『宗教的体験の諸相』桝田啓三郎訳(岩波書店) ※太字強調引用者

 彼自身の体験やさまざまな心の研究とともに導かれた結論ですが、私たちの普段の「日常意識」と、変性意識状態との関係を考える際に、ひとつの指標となる考え方です。 
 特に、シャーマニズムにおけるサイケデリック体験、プラントメディスンによる、非常に特異な異次元的体験を考える際にも、指標となるものです。

◆さまざまなプラントメディスン(薬草)/スピリット・ヘルパー

 シャーマニズムで使われているプラントメディスン(薬草)/スピリット・ヘルパーには、さまざまな種類があります。そして、その作用の現れ、変性意識状態(ASC)にも、さまざまな個性や特徴があります。

 それぞれのメディスンの、個性や作用の性格をよく理解しておくことで、私たちはそこからさらに深く、いろいろな事柄(恩恵、意識形態、智慧、エネルギー)を学ぶことができるようになるのです。

 その際、さまざまなタイプのメディスンを体験して、その特徴を感覚的に比較していくことで、私たちは、より理解を深めることができます。
(※ただし、伝統的なシャーマニズムの世界では、多くのものと関わることは基本、好まれません。彼らは、プラントメディスンが嫉妬するからだと言います。浮気をしないで、ひとつのものに専念することが好まれるのです)

 そして、その体験を通して、自分の感覚意識の中に、「メディスン・マップ」のような感覚的な地図・広範な見取り図を作っていくことができるのです。
 それは、私たちがさまざまな次元を探求する際の「さまざまな意識形態」のマップ(航海図)ともなっていくのです。
 そして、そのことは、私たちの意識拡張とその意識統合のために、とても役立つ、実りの大きなものとなるのです。

 そのため、ここでは、アヤワスカとの比較で、特徴の強いメディスンについて、少し記してみたいと思います。
 また、アヤワスカと同じく、各種注意事項については、ここでも同様ですので、そのあたりの注意点について、下記の内容をまずはご覧ください。
「サイケデリック・シャーマニズムとメディスン(薬草)の効果「各種の注意事項」

 

 

◆マジックマッシュルーム―宇宙的浸透のメディスン

 「マジックマッシュルーム」とは、一種の総称(俗称)であり、実際は、シロシベ・クベンシスをはじめ、数百種類のキノコがそのように呼ばれているものです。
 かつて、菌学者ゴードン・ワッソンは、メキシコの部族(マサテコ族/マリア・サビーナ)の儀式に参加し、西洋人として初めて、幻覚性キノコを食して、その興味深い体験を、『魔法のきのこを求めて Seeking the Magic Mushroom』と題して、『ライフ LIFE』誌(当時約600万部発行)に掲載しました。1957年のことでした。
 その魅惑的な文章によって、「マジックマッシュルーム(魔法のきのこ)」はひろく、現代世界に知られることとなったのです。

 後に、ワッソンは、キノコを、(LSDの発見者)アルバート・ホフマン博士に送って、その成分分析を依頼しました。そこで、幻覚性成分である「シロシビン」が抽出されたのです。

 さて、マジックマッシュルーム(シロシビン)は、その効き方において、とても穏やかであり、近年、精神医療(サイケデリック医療)の中での使用が、ふたたび試みられているというのも、とても頷けるところです。
 先般、NHKで、『サイケデリック・ルネサンス』と題して、近年のサイケデリック医療を取り上げた番組の中でも、前半部のセラピー事例は、シロシビンを使ったケースでした。
フロンティア サイケデリック・ルネサンス 精神医療の最前線

 マジックマッシュルームのメディスンは、その開放性、ゆるやかさ、宇宙的浸透性において顕著な性格をもっています。
 外向的(中立的)、共感的、透過的、浮遊的に、宇宙や自然とつながる性質をもっています。
 (一方、アヤワスカは、直面的・対決的という意味でずっと内向的です)

 フワーっと無重力的に舞い上がり、浮遊しているような軽さと夢見の性質。
 密度を持たないような、ゆるやかな身体感覚。
 まなざしの透視的な浸透性。
 宇宙的浮遊感。
 境界を抜けるような透過性。
 大自然や宇宙との溶けるような融合感。

 マジックマッシュルームは、そのように豊かで繊細な性格をもっているのです。

 そのメディスンの幻視世界は、喩えると―
 アヤワスカが、
 「ドストエフスキー × フィリップ・K・ディック × ラテンアメリカ小説(魔術的レアリスム)」
 だとすると、

 マジックマッシュルームは、
 「ルイス・キャロル × 幻想SF小説 × ラテンアメリカ小説(魔術的レアリスム)」
 といった趣きなのです。

 
 アヤワスカの体験が、ハードでヘヴィー、シリアスで苛酷であるのに対して、マジックマッシュルームの体験は、拡散的で浮遊的、よりユーモラスで遊戯的な性格を持っています。
 それは、軽やかで、自在で、宇宙と自然を透過する夢見のスピリット、メディスンなのです。

変性意識状態(ASC)や意識変容、超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

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