野生の気づき/アウェアネス(その2)―トラッキング(追跡技法)

 さて、別の記事「野生の気づき/アウェアネス(その1)」では、私たちの「気づき」の能力と姿について、「今ここでの気づき」について、ネイティブ・アメリカンの人々の智慧を参考に、その可能なあり様を見てみました。
 →野生の気づき/アウェアネス(その1)―瞬間瞬間の生の目覚め、今ここ

 今回の記事では、そのような、瞬間瞬間の「野生の気づき/アウェアネス」が、私たちに、どのような「世界像/宇宙像」を示してくるのかを見てみたいと思います。
 これは、狩猟的な世界の見方、世界観です。
 すべてのものが響き合い、影響しあっている世界の姿です。
 これらに、繊細に気づいていくことで、私たちの目の前に、鮮やかな世界が「視えて」くることになるのです。

 こちらも、拙著『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』より引用して、ご紹介したいと思います。

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第三章 狩猟的感覚

◆野生の追跡

 さて、野生のアウェアネスについて見たが、そのように研ぎ澄まされた気づきの働かせ方を、実際に生活で行なっているのが、原始的な狩猟を行なっている人々である。そのような狩猟する人々は、狩りで獲物を追う際に、トラッキング tracking ということを行なう。トラッキングとは、動物が残した足跡(痕跡)から情報を読みとる技術のことである。その足跡を残した時、その動物がどのような状態(状況)であったのかを探り当てる技術である。
 「足跡」とは、情報の宝庫である。足跡とは、それを残した者の足裏が、土に残した圧力の跡である。私たち人間でも歩いているその時の体調や心理状態により、歩幅、脚の開き方、角度、足裏にかかる重心のバランスなどがさまざまに変わる。それによって、土に残る足跡のつき方も皆変わるのである。トラッカー tracker は、その微細な変化の情報を読み取り、獲物の姿や行動を推定するのである。練達のトラッカーが足跡を見れば、その獲物の種類や大きさはもちろんのこと、その時の目的や心身の状態までをも読み取る。なんの活動をしていたか、体や視線はどっちを向いていたか、目的を持った歩みか、迷いながらの歩みか、今どのあたりにいるか等々、各種の情報(状態)を読み取るのである。そのように、トラッキングする者は足跡をみて、獲物の過去・現在・未来を見通すのである。

◆追跡者のまなざし

 さて、このようなトラッキングの技法やそのまなざしは、私たちにとって世界をとらえる際の参考となる。トラッキングする者にとって、目の前にある風景はすべて、自然界のなんらかの作用した結果、「痕跡」なのである。その痕跡の積み上がった「物」の風景として、目の前に、この世界がひろがっている。その意味では、風景の個々の細部は、すべて偶然なく、自然界の作用の結果として、「そこに在る」のである。逆にいうと、すべての痕跡は、過去の情報であり、そこから大元の自然界の作用、要因、履歴がたどれるのである。
 …今、目の前に、「一枚の葉」が落ちている。それはどこから来たのか。どのような場所で、どのような樹の枝や、樹々の仲間に囲まれて育ったのか。どのような陽差しや気候、歳月の元で育ち、その形と大きさ、色合いに育ったのか。それはその葉にどう表れているか。そして何の力が、その葉をここに運んだのか。いつ来たのか。誰に踏まれて、今の傷を持ったのか。それはいつのことなのか。この後、この葉はどうなっていくのか…
 そこには、この自然界を成り立たせている、さまざまな生命の力への、繊細なアウェアネスと注視がある。このような個物の膨大な集積、出来事の総体として、今、目の前の世界がひろがっているのである。そして、アウェアネスの力を駆使して、自然界の刻々の変化を見つめていくのである。天候の移り。空の色の変化。その濃淡。渡る雲の速さ。風の流れ。匂い。湿り気。冷たさ。鳥たちの遠い飛行。あたりの静けさ。消えかかっている何者かの足跡。その歳月… それらは皆、豊かにつらなった自然の痕跡の重なりとして、目の前にあるのである。そこには、自然界の生きた時間の履歴が、重層的にひろがっているのである。そして、それらは、サバイバル的な、探索的圧力のもとで、さまざまな履歴の姿として「視えてくる」のである。

 また、このようなトラッキングのまなざしは、野山の中だけに限定されるものではない。自然の働きは、都市での生活においても同様に働いているからである。森林の中でアウェアネスの力を働かすのと同様に、都市生活においても、注意深い探索的なアウェアネスが必要なのである。というのも、都市生活においては、情報(痕跡)を操作して、他者を操ろうという低俗な意図が社会活動の大勢を占めているからである。故意にニセの痕跡(情報)をまき散らしている者も多いからである。そのため、森の中で、さまざまな痕跡(情報)を見分けるように、アウェアネスをもって、さまざまな情報(痕跡)の由来や来歴を追跡し、その痕跡主の貧弱な素性を見抜かなくてはならない。また一方、都市の雑踏の中においても、他者や自己の痕跡を注意深くトラッキングすることで、自己の進むべき道を見失わないようにすることができるのである。そのように、彼我の欲求を分けて、自己と大地に深く根を下ろすためにも、トラッキングの技法は役に立つものなのである。

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変性意識やアウェアネスを核に、現代人の意識拡張やその他を描いた本書の詳細紹介は、↓
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』

【ブックガイド】

変性意識状態(ASC)やサイケデリック体験、意識変容や超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。
ゲシュタルト療法については基礎から実践までをまとめた拙著
『ゲシュタルト療法 自由と創造のための変容技法』
をご覧ください。

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