先般、NHKの番組で、『サイケデリック・ルネサンス』という、欧米で復興しつつあるサイケデリック医療についての特集が組まれました。
→フロンティア サイケデリック・ルネサンス 精神医療の最前線
日本では、「サイケデリックス(精神展開剤/幻覚剤)」というと、何か「ドラッグ」のように勘違いされていますが、元々は、1950~1960年代に、精神医療の中で使われていた薬剤です。
しかし、この「サイケデリック」という言葉は、多くの人が聞いている言葉だとは思いますが、「その本当の意味は何なのか?」と問われて、ちゃんと答えられる人は、(特に日本では)少ないと思います。
この「サイケデリック psychedelic」という言葉は、造語であり、精神科医のハンフリー・オズモンドによってつくられたものです。1950年代のことです。
当時、LSD やメスカリンなどの薬剤は、「psychotomimetic」という概念でとらえれていました。これは、「精神病様」という意味で、これらの薬物を摂ると「精神病のような状態/精神病を模倣したような状態」になるという意味合いです。
そのため、これらの薬物は、「精神病のような状態」を、健康な人にも再現(発現)できるということで、精神病の状態を研究するための道具として使われていたのです。
しかし、ハンフリー・オズモンドや、メスカリン体験記『知覚の扉』を書くことになる作家オルダス・ハクスリーは、「psychotomimetic」という概念では、これらの薬剤が露わにさせる、精神の顕著で豊かな側面を全然表現できないと考えていました。
LSD体験を説明した科学論文の用語は、オズモンドにはぴんとこなかった。幻覚とか精神障害という用語は、悪い精神状態しか意味していない。ほんとうに客観性を重んじる科学であれば、たとえ異常な、あるいは正気でないような精神状態を生みだす化学薬品に対しても、価値判断はくださないのが筋なのに、精神分析の用語は病理的意味あいを反映していた。オルダス・ハックスリーも、病理学的用語は、不適切だと感じていた。このドラッグの総体的な効能を完全に包含するには、新しい名称をつくるしかない、オズモンドもハックスリーもこの点では意見が同じだった。
オズモンドはハックスリーがはじめてメスカリン体験をしたときの縁で、親友づきあいをしており、頻繁に手紙をやりとりしていた。最初ハックスリーは「ファネロシーム」ではどうかと提案した。語源は「精神」とか「魂」という意味である。オズモンドあての手紙には、つぎのような対句が書かれていた。このつまらない世界に荘厳さが欲しければ、
ファネロシーム半グラムをのみたまえ。これに対してオズモンドは、こう返歌を書いた。
地獄のどん底、天使の高みを極めたければ、
サイケデリックをひとつまみだけやりたまえこうして「サイケデリック」ということばが、つくられたのである。オズモンドは、一九五七年、このことばを精神分析学会に紹介した。ニューヨーク科学学会の会合で研究報告したとき、彼はLSDなどの幻覚剤は単なる精神障害誘発剤を「はるかにこえる」機能を持っており、したがってこれにふさわしい名称には、「精神をゆたかにし、ヴィジョンを拡大する側面をふくめる」必要があると主張した。そして、「精神障害誘発剤」のかわりに、あたりさわりのない用語を披露したが、これは意味がはっきりしなかった。文字どおりにはサイケデリックは「精神を開示する」という意味で、いわんとするところは、この種のドラッグは予測のつくできごとを開示するのではなく、意識下にかくされていたものを表面にひきだす機能を持つということである。
マーティン・A・リー他 越智道雄訳『アシッド・ドリームズ』(第三書館)
ところで、二人のやりとりは、二行詩のように、同じようなリズムで、韻を踏んでいます。
ハクスリーの、
To make this trivial world sublime,
take half a gram of phanerothyme.
に対して、オズモンドは、
To fathom Hell or soar angelic,
Just take a pinch of psychedelic.
と返したわけです。
このような洒落たやりとりの中で、「サイケデリック」という言葉が生まれたのです。
実際、サイケデリックスは、その言葉通り、強烈な作用で、私たちを「地獄降り」のように、魂の冥界に導きます。
隠されていた深層を暴露したり、人間的世界を粉砕したりします。
それは時に、地獄的な体験になるかもしれませんが、長い目で見れば、学びであり、解放をもたらすものでもあります。
また一方、その作用は、私たちを、至高の天上的な世界に、「天使のように angelic」舞い上がらせます。
この宇宙の、神的な様相を垣間見せてくれたりするのです。
このように、意識と宇宙の両極の姿を、シャーマンのように行き来して、体験させてくれる点が、サイケデリックスの並外れた力/作用なのです。
これは、すべての人にお薦めできるものではないかもしれませんが、「しかるべき探求者」には、お薦めできるものであるのです。
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