海外より(その1)―サイケデリック・シャーマニズムと体験的心理療法

 現在、海外にいて、さまざまなシャーマンやサイケデリック・セラピーの研究家/実践家(セラピスト)と交流していると、こちらでは、常識な事柄(ものの見方)が、日本では、スッポリ抜け落ちて、勘違いしている人(記事)が多いこともあらためて痛感されましたので、少し速報的に書いてみたいと思います。

 別の記事「サイケデリック・シャーマニズムとメディスン(薬草)の効果―概論」では、シャーマニズムの伝統の中にある、サイケデリック薬草(アヤワスカ等)の効果や、そこで顕れてくる多次元的・異次元的な世界について解説しました。
サイケデリック・シャーマニズムとメディスン(薬草)の効果―概論

 ところで、サイケデリックスの利用が、心や意識の解放のツールとして、現在のような形で広まったのは、1960年代のことでした。
 もともとは、部族のシャーマニズムで使われていたプラントメディスン(薬草―ペヨーテ、マジック・マッシュルーム、アヤワスカ等)について、成分分析が進み、それが精神医療の分野で使用されだしたのが、事のはじまりでした。1950年代のことです。
 つまり、元々は、心理療法(体験的心理療法)の薬剤として、心の変容プロセスを促進するものとして、きちんと管理的に使用されていたということです。
 その取り組みの中で、私たちの心を、可能性の彼方に導くさまざまな研究が進められたのでした。このあたりの事柄については、拙著をご覧ください。
記事「詳細紹介『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』」

 後に、マズローとともに、トランスパーソナル心理学を立ち上げる、スタニスラフ・グロフ博士も、そのようなサイケデリック・セラピーを、臨床的に行なっていた人物でした。
 アヤワスカを最初にきちんと研究した、ゲシュタルト療法家のクラウディオ・ナランホも、セラピーのツールとして、そのような研究を行なっていた初期の先駆者でした。(彼のアプローチは、近年の、マイクロドージングでサイケデリックスを摂りながら、同時進行でセラピー・セッションを行なっていくという方法論の先駆的形態でした)

 ところが、1960年代にはいると、そのような専門的な使用とは別に、世間一般の中で、娯楽品として使用することが、流行してしまいました。
「サイケデリック・カルチャー」の時代です。
有名なアーティストや著名人の言葉に踊らされて、ただの興味本位で体験してみるという人々が増えたのです。

 そのような興味本位の乱用的使用の中で、さまざまな事故や事件が起こり、最終的(1970年頃)には、法的に使用が禁止されるという事態になってしまったのです。
地道に研究を進めていた人々や、その恩恵に浴したクライアントにとっては、大変、迷惑な事態であったわけです。
 このあたりの事情については、スタニスラフ・グロフ博士のインタビュー動画をご覧ください。
ICC インタヴュー・シリーズ スタニスラフ・グロフ

 さて、日本においては、当時も、スタニスラフ・グロフ博士らのような、サイケデリック・セラピーの本格的研究や実践はありませんでした。使用があったとしても、方法論的なものではなく、娯楽的な使用でした。そのため、サイケデリックスを使う際の、基本的な「知識」「姿勢」「文脈(コンテクスト)」が欠落してしまっているのでした。

 一方で、近年、日本でも、YouTube動画などで、アヤワスカなどのプラント・メディスン、サイケデリック・メディスンを、興味本位にあつかうものも増えたせいで、浅い知識で、興味本位に体験するという人も増えてきています。
 そして、「間違った体験/解釈」をして、それを、プラント・メディスン(サイケデリックス)自体の性格のように語るという、初歩的な誤りも出てきてしまっているのです。
 間違った情報が、流布されている事態になっているのです。
 これでは、1960年代に、海外で起こったことの反復になってしまいます。

 以上が、話のための前提です。
 以下が、本題となります。

 さて、何よりも、サイケデリックス(メディスン)は、普通の人生では経験できない並外れた力で、「心」を強力に増幅するものです。
 私たちの「心」の多次元性/異次元性を、ただ増幅し、明らかにし、剥き出しにしていきます。
 メディスン(サイケデリックス/植物)は、人間的なジャッジメント(審判)を持ちません。
 中立的です。
 私たちが、注意を向けたものを、ただ増幅し、剥き出しにします。
 私たちが、囚われているものを、ただ増幅し、剥き出しにします。
 そこで、現れてくるものに対して、メディスン(サイケデリックス)には、何の責任もありません。
 責任は、それらに注意を向け、受け止める、私たち自身にあるのです。

 「そこで現れてくるもの」は、ただ、私たちが、「そのような心を持っている」ということでしかありません。
 「素晴らしいもの」が現れてきたとしたら、それは、自分が素晴らしい心を持っているということです。
 「怖ろしいもの」が現れてきたとしたら、それは、自分が怖ろしい心を持っているということです。
 心理学的には、それを「投影 projection」と呼びます。
 「現れているもの」それ自体は、良いも悪いもありません。
 ただ、自分の心の「リアル」「さまざまな面」が現れているだけのことです。
 それが、誇張的に、増幅的に現れているのです。

 「怖ろしいもの」が現れてきたとき、それらを否定し、抑圧すると、「癒し」は起こりません。
かえって、そのことで、心の状態が「悪くなる」場合もあります。
 なぜなら、それは、私たちが普段の人生で行なっている「抑圧」「欺瞞」「ジャッジメント(審判)」だからです。
 それらが、「増幅されてしまう」のです。

一方、それらの「怖ろしいもの」に、「素直に」向き合い、コンタクト(接触)し、受容できたとき、大きな「癒し」が起こってくるのです。
 それは、セラピーで起こってくる「自己受容」と同じ原理です。
 私たちの深く大きな「心の全体性(多次元性/異次元性)」が回復されていくからです。
 そして、実は、多くの場合は、そのようなことが起こってくるのです。
 そのため、一方で、手放しでメディスンをほめたたえるような極端な言い方も出てしまうのです。
 「メディスンさえやれば、人生が変わる」というような、巷にある、安直な文句です。
 しかし、原理原則は、メディスン(サイケデリックス)は、中立的なものであり、それを生かすも殺すも、私たちの取り組み姿勢次第というわけなのです。

 そのため、メディスン(サイケデリックス)を使う際は、自分の「心」に、責任をもって向き合うという姿勢が、とても大切なことになっているのです。
 プラント・メディスンのセレモニー(儀式)でも、サイケデリックス・セラピーでも、最初に、そのサイケデリック体験に臨む「意図 Intention」を明確にすることが重視されているのは、そのような意味合いからなのです。
 私たち本人自身の姿勢が問われているのです。
 そのため、心理的に未熟な人間が、興味本位で、サイケデリックを使用することなどは、当然、論外のことなのです。
 かえって、心理的に危険なことにもなってしまいます。しかし、それも、残念ながら、本人のせい(責任)でしかないのです。
 そのため、心に向き合うセラピー(体験的心理療法)と、コンビネーションで使って、心を見つめ、深めていく方法が、とても正統で、助けになる方法となっているのです。

 サイケデリック体験では、私たちは、未知の潜在意識、心の多次元的宇宙に飛んでいきます。
その異次元的宇宙の中には、素晴らしい女神もいれば、怖ろしい怪物(神)もいるでしょう。しかし、それらは、皆、私たち自身の広大な心の現れ(投影)なのです。
 怖れるものは、何もないのです。
 チベット仏教の経典、『チベットの死者の書』が次のように語る通りです。
 「我が子よ、汝が見ている幻影がたとえどのようにおびえさせる現われであっても、汝自身のすがたの現われであると覚らなければならない。これを光明であり汝の意識のみずからの輝きであると覚るべきである。
このように覚るならば、今この時において汝が自然に仏になることは疑いないのである。〈一刹那における完全な成仏〉と呼ばれているものが今まさに生じているのである。このことを心に刻んで記憶すべきである」(『原典訳チベットの死者の書』川崎信定訳、筑摩書房)

 このように、「心」を増幅し、向き合い、深めていくプロセスとして、サイケデリック体験を理解すると良いのです。

 また、これらの事情は、セレモニー(サイケデリック)体験後のプロセスにおいても同様と言えます。
 メディスン(サイケデリックス)の作用は、その体験の後も、潜在意識のなかで、長く作用し続けるからです。
 ここでも、セラピー(体験的心理療法)などと、コンビネーションで使って、心を見つめ、深めていく方法が、とても助けになるのです。
 増幅し、溢れ出した「心」の内容を、受け止め、受容し、「統合」していくにも、体験的心理療法は、とても効果的だからです。
 グロフ博士やナランホ博士などのトランスパーソナル心理学は、そのような実践的な方法論を、体系化させたものと言えるのです。

 さて、以上、サイケデリック・メディスンや、サイケデリックスにまつわる事柄をいろいろ書きましたが、話題や注意点は、これに尽きるものではないので、今後も、続きをいろいろと書いていきたいと思います。

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