ホドロフスキー氏とサイコマジック/サイコシャーマニズム

◆知らされた消息

 その昔、アレハンドロ・ホドロフスキー監督といえば、ジョン・レノンが惚れ込んだ『エル・トポ』やその後の『ホーリー・マウンテン』などのカルト・ムービーの映画監督として有名でした。

 その後は『サンタ・サングレ』など、わずかな作品の紹介はありましたが、長くその消息を耳にすることもなく、彼が活動しているのかしていないのかさえ分からない状況でもありました(昨今では、その映画をはじめ、多彩な活動が日本でも知られる状態となっており、昔日の状況を思うと少し不思議な気持ちにさせられます)。

 さて、そのように長く知られない状態があったため、自伝として突然届けられた『リアリティのダンス』(青木 健史訳/文遊社)は、ホドロフスキー氏のその間の消息を伝えてくれる貴重なドキュメントとなっていたわけです。

 そして、その内容は、『エル・トポ』以前も以後も、彼が実に濃密で精力的な活動を生涯の探求として推し進めていたことを知らせてくれるものでもあったのです。

 

◆サイコマジックとサイコシャーマニズム

 さて、その自伝的な内容ですが、シュルレアリスム(超現実主義)やアラバールのパニック演劇との関係などアート系の活動は、比較的予想がつく範囲内での内容であったわけですが、その延長・周辺でさまざまな精神的探求の活動も同時に推し進めていたというのは、驚きでもあり納得的な事柄でもありました。(『サンタ・サングレ』は心理療法的な物語でした)

 そして、本書は、(本物らしき?)カルロス・カスタネダやアリカ研究所のオスカー・イチャーソなど、その関係での人々との交流やその体験描写もとても興味深い内容となっていたのでした。

 中でも、多くの紙数を割いている、サイコマジック、サイコシャーマニズム関連の記述は、その内容の具体性からも方法論的な見地からも大変貴重なドキュメントとなっているものです。
 当スペースのように、心理療法や変性意識状態(ASC)シャーマニズムや創造性開発を方法論的なテーマにしている者にとっては特にそうであったわけです。
 ところで、彼のいうシャーマニズムとは、いわば「本物に近いシャーマニズム」です。
 通常、現代社会の中でシャーマニズムという言葉が、方法論的な概念として使われる場合(当スペースなどもそうですが)、多くは、その構造的なモデルを比喩的に呼ぶために使われているものです。
 変性意識状態(ASC)を含んだ意識の拡張範囲や可動域、潜在意識の力動性、心理的変容を描くのに、伝統的なシャーマニズムのモデルがとても有効に働くという見地からです。
→内容紹介『砂絵Ⅰ: 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』

 それは、必ずしも伝統社会のシャーマニズムのように、まるごとの信念体系(世界観)として使われているわけではないのです。
 そのような意味では、ホドロフスキー氏のシャーマニズムは、方法論的に、より本物のシャーマニズムにスタンスともなっているわけです。
 そこでは、肉体的な病気の治療に見られるように、精神(潜在意識の力動性)が、肉体物質の情報を書き換える力を持つことを、もしくはその区分が無い領域を前提としているものでもあるからです。
 まさに、マジック・リアリズム(魔術的現実主義)なわけです。
 そして、もし、ホドロフスキー氏の施術を事実として受け止めるならば、私たちは、物質や精神についての近代的な世界観(メインストリームでの区分)を考え直さなければならないというわけなのです。(しかし、現場的な実感からすれば、事態はまったくそのようなことでもあるのです)

 そのような意味においても、本の中では、施術のディテールを詳細に記してくれているので、その点でも非常に参考となるものになっているわけです。
 そして、その評価については、各人がさまざまな実践や実経験を通して、検証していくしかないものとなっているのです。
 これらの事象を、人々が盲信している近代的な世界観や先入観によって、ありえないこととして裁くことは無意味なことです。
 実際、筆者自身は、自分のさまざまな変性意識状態による変容は、クライアントの方に起こる不思議な変容経験からも、これらの現象は、まったく違和感なく受け取れるともいえます。また、その原理的な面にも照明が当てられており、大変ありがたく感じることでもあるのです。

◆心と信念の影響範囲

 さて、この最後の点(世界観)について、身近な例を挙げれば、以前取り上げた、NLP(神経言語プログラミング)の神経論理レベルの中における、信念(ビリーフ)などとも関係して来る事柄といえます。
NLPニューロ・ロジカル・レベル(神経論理レベル)の効果的な利用法

 ディルツ氏の考えた「神経論理レベル」においては、「信念」という階層が実現可能性(できる)の上に位置しています。

 このこと(世界観)は、通常、人は信念の内あることのみを実現できるということを意味しているわけです。信念体系が、人のリアリティの範囲を確定しているという原理構造です。NLPでは、この信念体験を書き換える作業を行なうというのですが、残念ながら(実際のところ)、深層レベルまでのプログラムの書き換えを実現できる威力はNLPにはありません。

 ところが、(筆者の現場実践にもとづく直観ですが)ホドロフスキー氏の施術では、それを実現できる可能性があるのです。それは、ホドロフスキー氏が「潜在意識(無意識)の力動性」とそのパワーを、感覚的に(芸術的な造形感覚で)しっかりとつかんでいるからです。 その点が、彼のサイコマジックやサイコシャーマニズムの素晴らしい点であり、尽きせぬ霊感を与えてくれる点なのです。

 ところで、ホドロフスキー氏のサイコ・マジックを原案にし、彼自身も出演した映画『Ritual(邦題ホドロフスキーのサイコマジック・ストーリー)』では、主人公が癒しのために受ける儀式(施術)に対して、恋人の男がしきりに「信じるな」と連呼します。彼の世界観では、魔女のような施術者が行なう儀式などは迷信以外の何ものでもないというところなのでしょう。そして、映画の最後は、主人公の儀式(施術)を妨害して台無しにした結果、その恋人が主人公に殺されてしまうという結末となっています(本当は、この施術の結果として主人公の苦痛と妄念は取り除かれるはずたったのです)。
 つまり、恋人の男は「信じない」ことによって、自らの命を落としたともいえるでしょう。
 では逆に、彼が信じていた世界とは果たしてどのような世界だったのでしょう。主人公や施術者が信じる世界より彩り豊かな世界だったのでしょうか…

 さて、ホドロフスキー氏の作品や活動は、この他にも非常に多岐に渡っていますが、そのどれもが、現代社会を覆う私たちの制限的な信念(リミティング・ビリーフ)を超えた、生や現実の豊かさを教えてくれるものとなっているのです。
 そのような意味において、ホドロフスキー氏の世界は、現代では数少ない本物のマジック・リアリズム(魔術的現実主義)となっているわけなのです。

 

※気づきや統合、変性意識状態(ASC)へのより総合的な方法論は拙著↓
入門ガイド
『気づきと変性意識の技法:流れる虹のマインドフルネス』
および、
『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法 心理学的手法による意識変容』
をご覧下さい。

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